門脇麦「普通さ」を武器に 目指すは縁の下の力持ち
2014年に映画『愛の渦』のヒロインを体当たりで演じて脚光を浴び、2018年にはエランドール賞新人賞、第61回ブルーリボン賞主演女優賞に輝いた女優の門脇麦。“実力派”の呼び声も高く、最新作『さよならくちびる』が公開中のほか、2020年には大河ドラマ「麒麟がくる」への出演も決まっているなど、その勢いはとどまることを知らない。そんな門脇が、自身の女優としての武器について語った。
『さよならくちびる』は、門脇演じる作詞・作曲を担当し、その才能で人の心を奪うハルと、美しさで人を魅了するレオからなる女性デュオの解散ツアーを描いた青春音楽映画。役づくりでは、まったくギターを弾けない状態から約1か月半で3曲を弾けるようにしなければならない状況で、「間に合うんだろうか」と不安でたまらなかったという門脇だが、劇中では見事なギター演奏と歌唱を披露している。
なかなか自分の思いを言葉で伝えられないハル。その孤独と繊細さをリアルに体現した門脇は、ハルの不器用さに共感を覚えたという。「私もどちらかというと、自分の気持ちをすぐ出したり、感情に出したりとか、そういうことがあんまり得意ではなくって、ため込んでしまうタイプ。今でこそ少なくなってきましたけど、自分の言葉がうまく伝わってないもどかしさとか、10代の頃はすごくそういうことがあって共感できました」
言葉で思いを上手く伝えられない分、ハルはその思いを歌にして届ける才能を持っている。門脇自身も若くして“演技派”と絶賛される才能の持ち主だが、本人に自身の女優としての武器を聞いてみると、「普通なところ」という意外な答えが返ってきた。
「才能のある方、何かにすごく長けている方って、ある部分がすごく不器用だったりすることあると思うんです。もちろん人間だから欠けてる部分、足りない部分はみんなあると思いますけど、アーティスト気質の方はそういう人が多い印象があって。私は長けてる部分はないけれど、バランスを取ることは出来るかもしれない。こんな言い方はおこがましく聞こえるかもしれませんが、そういうところに寄り添える人になりたいなと思っています」
縁の下の力持ちになりたいという門脇は、これだけ出演作が立て続く中にあっても自分の立ち位置に冷静で客観的だ。初心を忘れない、そんなスタンスは「芝居」という言葉一つにも表れている。
「『お芝居』って言うこともまだ恥ずかしいんですよね。でも『演技する』と言うのは平気で、そこの線引きは自分の中でしかわからないと思います。なんか役者さんっぽい感じが慣れないのかもしれません。『職業は役者です』とかも恥ずかしくてあまり言えません。人によって言葉のニュアンスがあるから、誰かが言っているのは全然なんとも思わないし、役者ってただの職業名なので、恥ずかしがってる私の方が変なのですが、なんとなく私の中だけに備わってる言葉のセンサーみたいなものがあるんでしょうね。でもこれからもこの恥ずかしい、という感覚を大切にしなくてはいけない、そんな気もしています」
物事を一歩引いた位置から見るクセは、小学生の頃から自然と身についていたそう。一方で、その冷静さゆえに幼い頃は苦しむこともあった。「引いて物事を見てしまうから、10代はなかなか(周囲に)入り込みずらかったんだろうなと思います」。しかし、そんな経験があったからこそ、今映画の現場で“つながる”感覚にやりがいを覚えるという。
「映画の現場で集まった人たちって、1か月や2か月で(撮影が終わると)さようならで。だけどその短い期間の中でも日常生活で会うよりも、その人の素は分からないけど、すごく深いところでつながれる気がしていて、その感じが好きなんですね。だからこの仕事をしているんだと思います。10代の頃人とあんまりつながれなかったので、その反動は絶対大きいと思います」。今作には、そんな門脇とレオ役の小松菜奈が絶妙な距離感でつながる瞬間が、しっかりと刻み込まれている。(編集部・吉田唯)
映画『さよならくちびる』は公開中