天皇の戦争責任に迫る過激なアナーキストを追った衝撃のドキュメンタリー
『全身小説家』『ニッポン国VS泉南石綿村』などを手がけたドキュメンタリーの巨匠原一男が、6月7日(現地時間)、ニューヨーク近代美術館(MoMA)で上映された1987年公開のドキュメンタリー映画『ゆきゆきて、神軍』について語った。
【写真】第二次世界大戦を舞台に描く映画『アルキメデスの大戦』
天皇の戦争責任に迫る過激なアナーキスト・奥崎謙三氏を追った衝撃のドキュメンタリー。神戸市で妻とバッテリー商を営む奥崎氏は、第二次世界大戦中にかつて自身が所属していた部隊で、終戦後23日も経ってから、“敵前逃亡”の罪で上官により二人の兵士が射殺されたことを知り、遺族と共にその真相究明に乗り出す。戦後36年目にしてはじめて、生き残った元兵士たちの口から驚くべき事件の真実と戦争の実態が明かされる。
今作は、もともと今村昌平監督が手がける予定だったそうだ。「昭和天皇パチンコ狙撃事件を起こし、裁判をしていた奥崎謙三という人を、今村さんは映画にしようとしていました。でも、映画化もテレビ放映も難しく、断念せざるを得なかった。それから10年が経って、たまたま僕が今村さんの作品の撮影助手をしていた時、今村さんに『面白い映画を作りたいんですよね』と言うと、彼は『おお、そうかい。面白い男がいるから、紹介してあげるよ』と言われ、奥崎さんに会いに行ったのが始まりでした」と奥崎氏に会う経緯を語った。
映画内で登場する元兵士の一人、山田氏が記した独立工兵隊第36連隊に関した書物をもとに、今作の撮影が始まっていったそうだ。
「山田さんがコツコツと資料を集めて、部隊の行動記録みたいなものを調査集として作っていたんです。それをわたしたちに貸してくれた。言ってみれば、われわれの映画のシナリオみたいなものでした」
奥崎氏は生き残った兵士に執拗な質問をするだけでなく、時には暴力に走り、あるいは同行者と共に相手を軟禁状態にして詰め寄るなどの事件を起こしていたため、撮影は長時間にわたったが、映画としてまとめることができたのは、編集の鍋島惇氏のおかげだと話す。「彼は映画を面白くつなぐということに関しては、絶対の自信を持っている人です。僕は撮影助手をしていた時、自分が撮った映像がどんなふうにつながれるのか気になって、編集室にちょこちょこ顔を出していたんです。そこで鍋島さんと仲良くなり、この作品の編集を鍋島さんに頼もうと思いました」と語り、さらに情緒だけに流されず、ポンポン編集する鍋島氏の技術により、今作が評価されたと明かした。
撮影中は、奥崎氏とはよく揉めたのだそうだ。「もう、しょっちゅうです。1週間の予定を立てると、何日目かには必ずぶつかり、これじゃ撮影はやってられない、帰るというパターンです。怒ると奥崎さんの決まり文句は、『フィルムを燃やしてしまえ!』なんです。最初は、今まで撮影したのが水の泡だと落ち込むのですが、そのうち、これは彼のパターンだと気がついて、いくら奥崎さんが『フィルムを燃やしてしまえ!』と言っても、『絶対に映画を作ってほしいんだなぁ』と思うようになりました」と振り返った。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)