片桐はいり、映画館で“もぎり”続けるワケ
数々の作品で独特のオーラを放つ個性派女優・片桐はいりが主演を務めるショートムービーの第2弾「もぎりさん session2」が7月12日より、キネカ大森にて先行上映される。片桐が映画館でチケットをもぎる“もぎりさん”にふんした同作だが、自身も現役女優でありながら、地元・キネカ大森で今も時々もぎりを行っている。なぜ彼女はもぎり続けるのか、話を聞いた。
もぎりを始めたきっかけ
誰もが映画やドラマで一度は見たことがあるであろう現役の女優さんが、映画館で働いているという、にわかには信じがたい話だが、これは本当の話。働いているとはいっても、給料はもらっていない。「むしろ行くたびに(映画館スタッフ)みんなのご飯を買って行ったり。何て言ったらいいかわからないけど、(もぎりが)好きなんですとしか言いようがない」と片桐は言う。
そもそも片桐がここ、キネカ大森でもぎりを始めたきっかけは2010年ごろのこと。東京・大森出身、在住の彼女は1984年のオープン当初から同劇場に客として通っていたものの、それまで映画館側から声を掛けられたことはなかったが、25年以上たったある日、映画館のスタッフから「どうもこんにちは、また来てくださったんですね」と話し掛けられ、そこから「そんな毎週いらっしゃるなら、イベントをやったらどうですか」という話になったという。
「それからずっとキネカでイベントをやったり、観に行くたびにもぎりをさせてもらったり、掃除したり、キネカのスタッフと一緒に仲間になって遊んだりすることになったんですね」と片桐。最近も多いときは週に3、4回、少ないときでも週1回は映画を観に通っており、「週1来ないと最近来ないねってなると思います。自分も観るけど(お客さんの)チケットも切って、最終のお掃除をして帰ってくるみたいな感じです」と明かす。
給料はもらわず、映画を観るときも自腹
給料をもらわないどころか、チケット代もわざわざ自分で払って観るというから律儀だ。「だって、一番混んでいるときに観たらダメ、とか言われたらイヤじゃないですか。(チケット代を)払って、自分の整理券も取って『1番の方、2番の方、8番の方~? 9番はわたしですので、ちょっとお待ちください』と言って席を取って、それでもう一回戻ってってやるんです。(お客さんの中には)驚いている方もいらっしゃるけど、最近は割と『あ、もぎりさん、こんにちは~』みたいな感じになってきました」。
「今日暇だなと思って、行きつけのバーなり、お店に行ってベラベラしゃべって帰ってくることってあるじゃないですか? 『マスター、今日さ……』みたいな。それがわたしにとっては映画館であって、そこでただ飲んでいるだけとか、見ているだけじゃつまらないから、スタッフと一緒になって働いているんです」。
10代で理想の職業に出会ってしまった
そんな片桐がもぎりに目覚めたのは、10代の頃。学生のときから7年間、銀座文化劇場(現・シネスイッチ銀座)でもぎりのアルバイトをしていた経験があり、「その頃があまりにも楽しかったので、いまだにやっているのかもしれないですね。まだ俳優になるとも決まっていないし、何者でもない頃なんですけど、わたしの中では10代にして理想の職業に出会ってしまったと思っちゃいましたね。だから幸せな人生だなと思います」と笑う。
最近はミニシアターなどが閉館を迎えるケースも多いが、映画館を心から愛し、「せめてわたしが生きている間ぐらいは、映画館にあってほしい。そのためなら何でもするって気持ちなんです」と願う片桐。いつまでもぎりを続ける予定なのか聞いてみると、「ちょっと冗談で言っているのは、映画館で葬式をする“銀幕葬”っていうのをしてもらいたいので(笑)。死ぬまでって言ってはいるんですけどね」と明かしていた。(取材・文:編集部・中山雄一朗)