怪演がつづく、本郷奏多の素顔「青春モノもやりたい」
一癖も二癖もあるキャラクターを見事に演じることで定評のある俳優・本郷奏多(28)。最新映画『Diner ダイナー』でも、見た目は可愛らしい子供ながら、圧倒的な残虐さで人を殺めるサイコパス“キッド”を演じ、共演者の間でも「ぶっ飛んでいた」と驚かれるほどの怪演を見せた。一方で、テレビのバラエティー番組や舞台あいさつなどでは、自虐的な言動で周囲を盛り上げるなど、エキセントリックな役柄とは違った一面も見せる、好奇心をくすぐる存在なのだーー。
「気持ち悪い」も褒め言葉
殺し屋専用の食堂「ダイナー」を取り仕切る藤原竜也演じる天才シェフ・ボンベロ。そこに集う殺し屋たちは、みな少々イカれている。中でもキッドはとりわけクレイジーだ。これまで数々の特異なキャラクターを演じてきた本郷も「完成形が想像できなかった」と手探り状態でのクランクインだったという。
それでも、蜷川実花監督が作り出した色彩豊かな空間は、非現実的なキャラクターにも説得力をもたらすだけの力があった。本郷もあっという間に、世界観を手の内に入れ、思う存分暴れ回った。先日行われたジャパンプレミアイベントでも、共演者の真矢ミキ、奥田瑛二、斎藤工らは本郷の演技を「ぶっ飛んでいた」と絶賛したが、自身も「出来上がった映画を観たとき、なんか気持ち悪かったですね。すごい違和感でした(笑)」と自覚があるようだ。
本郷といえば、4月に公開され大ヒットを遂げた『キングダム』でも、主人公たちに立ちはだかる悪役・成キョウをクールに演じ、大きな反響を得た。その他にも『鋼の錬金術師』のエンヴィーや『GANTZ』の西丈一郎など、演じたキャラクターのクオリティーの高さは折り紙付きだ。
「『キングダム』でもすごく嫌なやつだねとか言われるのですが、それが狙いなので、すごく嬉しいです。キッドという役も、気味が悪いことや違和感があることが褒め言葉だと思っているので『気持ち悪い!』と言ってもらえるなら、それはありがたいことです(笑)」。
作品のために自分ができること
とにかく大切にしているのは「作品を観てくれる人」だという。「劇場にお金を払って、時間を割いて観に来てくれるわけじゃないですか。そのお金で我々は生活できているので、やっぱり楽しんでほしいという思いは強いです」。そのために、原作がある作品ではもちろん原作を読み、アニメ化されているものならば、アニメも観る。さらに原作ファンが、キャラクターのどんな部分を支持しているのか、徹底的に研究してから作品に臨むというのだ。
ファン目線で役柄に挑み、出来上がった作品は、一人でも多くの人に観てもらいたいというのも本郷のポリシーだ。こうした考えが、前述したようなバラエティー番組や舞台あいさつでの立ち振る舞いにも表れている。
「俳優がバラエティー番組に呼んでいただいたとき、気取って当たり障りのないことを言っても、何も面白くないと思うんです。テレビだって、時間を割いて観てくれる人がいるわけだから、少しでもその時間が楽しくなってくれればいいかなと思ってしまいます。それで作品に興味を持ってくれれば、映画の宣伝部の人の役にも立てますよね」。
撮影から公開まで、長いスパンにわたって、常にファンや作品に寄り添うことを大事にしている本郷。11歳のころから俳優活動を始め、キャリアは15年以上にも及ぶが、こうした意識が強く働くようになったのは、大学を卒業し、俳優業一本になってからだという。
「最初はまったく何も考えていなかったのですが、学生じゃなくなったとき、なるべく作品のために自分ができることは、どんなことでもやろうという気持ちになりました。僕は俳優って、観てくれるお客さんがいて、作品があって、そこにスタッフさんがいて、さらにその下の存在だと思っているんです」。
「僕に話がくるのは、だいたい生意気で自分勝手なキャラクターばかり。キラキラした青春モノもやりたいんですよ」と笑顔を交えながら、やや自虐的に語った本郷。どんな役柄でも、しっかり手の内に入れ、観客をうならせる芝居を見せるだけに、青春モノのさわやかキャラもぜひ見てみたいところだが、やはり本郷は“唯一無二”という言葉が似合う俳優だ。(取材・文・撮影:磯部正和)
映画『Diner ダイナー』は7月5日(金)より全国公開