主演子役はシリア難民 『存在のない子供たち』監督が込めた未来への希望
第71回カンヌ国際映画祭で審査員賞などを受賞、第91回アカデミー賞の外国語映画賞にもノミネートされた映画『存在のない子供たち』のナディーン・ラバキー監督が初来日し、5日に東京のユニセフハウスでトークイベントを行った。ラバキー監督は、「子供たちが貧しさにあえぐ世界を作ったのは私たち。ならば、私たちがこの世界に適応していてはいけない。それがこの映画を作った理由です」と会場に強く訴えかけた。
レバノン生まれのラバキー監督が、貧困地域、拘置所、少年院など、不当に扱われている子供たちの実態を約3年間取材して描いた本作。中東のスラムに生まれ、貧しさから親の愛情も受けられず、学校へも通えず、朝から晩まで働かされている少年ゼインを主人公が、「僕を産んだ罪」で自分の両親を訴える姿を描き出す。
「レバノンに暮らしていると、日々、花やガムを売ったり物乞いをしたり、大きな荷物を引きずって仕事をしている子供たちを目にします。悪い経済の影響を一番受けるのが子供たちなんです」と語るラバキー監督。「しかし、子供たちは本来このような形で生きてはいけない。こんな世界はNOだと言う責任が、私にはあると感じました」と熱く続けた。
高い評価を受けた長編デビュー作『キャラメル』(2007)でも知られるラバキー監督は、二児の母親でもある。イベントには、本作のプロデューサーで音楽を担当した夫のハレド・ムザンナル、息子のワリードくん(10歳)、娘のメイルーンちゃん(3歳)も登壇した。
本作の主人公ゼインを演じたゼイン・アル・ラフィーアほか、出演者のほとんどが演技初経験。役柄とよく似た境遇のいわば「素人」の子供たちが起用されている。ゼイン本人は、国内情勢からレバノンへ逃れてきたシリアの難民だった。彼と初めて会ったときのことを、ラバキー監督は「学校にも行っていないし、自分の名前も書けなかったけれど、自分がどんな人生を送ってきたか、自分が何者か正確に話すことができました」と振り返り「路上で学んだ強さと賢さに惹かれました」と述懐する。
劇中、あるシーンにおけるゼインの視線について、ラバキー監督は「『ぼくはここにいる。もう無視はしないで』という未来への希望を込めた」と明かし、彼の強い目を見ると「自分もエモーショナルになってしまう」と目頭を熱くしながら語っていた。
トークショーでは、メイルーンちゃんがラバキー監督のマイクを奪って歌を披露する一幕も。それを笑顔で眺める監督とハーレド、ワリードくんの姿に、会場は和やかな雰囲気に包まれた。(取材・文/岸田智)
映画『存在のない子供たち』は7月20日よりシネスイッチ銀座ほか全国公開