「ドラゴンクエスト」生みの親・堀井雄二、映画化で山崎貴総監督にお願いした2つのこと
世界中で愛され続けるRPG「ドラゴンクエスト」(以下、DQ)を、山崎貴総監督のもと、フル3DCGアニメで初映画化した『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』が公開された。「ゲームは体験してこそ面白さがわかる」という理由から、映画化に難色を示していた同ゲームの生みの親・堀井雄二は、今回自ら原作・監修として本作に携わっているが、その心の変化の真意とは? ときには深夜まで激論を交わしたという堀井と山崎がその舞台裏を語った。
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本作は、「DQ」シリーズのなかでも人気の高い「ドラゴンクエストV 天空の花嫁」(1992年)を壮大なスケールで描いた冒険ファンタジー。親子3代にわたる魔王との激闘、結婚相手をめぐる恋愛模様など、大河ドラマのようなめくるめく物語が展開する。演出は、山崎総監督をはじめとする『STAND BY ME ドラえもん』の精鋭チーム、音楽は全シリーズを手掛けているすぎやまこういちが担当した。
映画化は30年越しの夢だった
1986年「DQ」第1作が発売され、一大ブームを巻き起こしている最中、早くも映画化の打診があったという堀井。「当時、『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』(1988年)を映画化しようという話があったのですが、お断りしたんです。ゲームは体験してこそ面白さがわかるもの。それを映画にして客観的に観ても、面白くないでしょう? と」。あれから約30年。なぜ、いまなのか。
「時代が変わり、ゲームもより物語性が重要視され、近年、実況プレイなどゲームを観ること自体が面白い、という新たな楽しみ方が生まれてきた。これなら映画化しても『観る』という部分で気持ちを共有できるはず」と理由を明かす堀井。そんななか、立ち上がった企画が「天空の花嫁」の映画化だった。「僕自身も思い入れのある作品で、しかも山崎監督が映画化するということで絶対に面白いものになると。もう二つ返事でOKしました」
これに対して山崎は、「堀井さんの言葉はうれしい反面、『本当にこの企画が動き出すんだ』という怖さもありましたね。僕も実は4年前からオファーをいただいていたんですが、ずっとお断りしていたんです。なぜなら、ゲームは人によっては何十時間もやるメディアですから感情移入の幅が半端ない。それを映画という技法で対抗するのは難しいなと。そもそもゲームを映画化してうまくいった作品をあまりよく知らないので」と本音を吐露した。
ところが、その後もプロデューサーから熱心に声を掛けられたことから、「だんだんその気になってきた」という山崎は、「副読本のようにならず、ゲームというメディアと戦える方法はないだろうか……ということを来る日も来る日も考えていた」と述懐。そしてある日、映画のプロットを書いているときに、「今回挑戦した新たな手法がふっと浮かんだ」と声を弾ませる。
深夜3時までセリフを激論
堀井から山崎へのリクエストは2点のみ。「1つはプロポーズのシーン(主人公リュカが、幼なじみのビアンカと大富豪の娘フローラのどちらかを選ぶシーン)をとにかく厚めに脚本を書いてほしいと。ゲームのときは、『ほとんどの方がビアンカを選ぶだろうな』と思いながら書いたのですが、意外とフローラを選ぶ人が多かった。だから、映画ではビアンカかフローラか、再び論争を呼ぶくらい観客を迷わせてほしいと。もう1つは、ゲームを知らない方でも、1本の映画として存分に楽しめるような作品にしてほしいと伝えました」
プロポーズのシーンの重要性は山崎も肝に銘じていたようで、「そこは最大の見せ場なので、戸惑うくらい2人とも全力で魅力的に描きました」と自信をのぞかせる。ただ、脚本全体に関しては、堀井とかなり激論を交わしたことも。「いまでも思い出すのは、最後のセリフ。堀井さんからアイデアをいただいたんですが、どうも僕の中で腑に落ちない部分があって。『わからないです』と言ったら、すごく丁寧に説明してくれるんです。結局、深夜の3時ころ、ある瞬間、ストーンと落ちて納得することができた。原作者なら、もっと強気で持論を押し通してもいいわけですが、堀井さんは僕ととことん向き合ってくれた。その情熱がうれしかった」と感慨深げな様子だ。
「ゲームはインタラクティブだからこそ、プレイヤーが主人公であることを実感できる。ところがこの映画は、観るだけで『ドラクエの主人公は自分である』ということを改めて思い出させてくれる。そこが画期的だ」と絶賛する堀井。一体どんな手法で描かれているのか、期待は増すばかりだ。(取材・文:坂田正樹)
映画『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』は公開中