『ライオン・キング』賛否あってこそイノベーションの証!ジョン・ファヴロー監督の確信
『アイアンマン』『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』などでヒットを飛ばし、当時の最先端CGを用いた2016年の『ジャングル・ブック』では映像革新をもたらしたジョン・ファヴロー監督。今回、ディズニーの名作アニメーション『ライオン・キング』を新たな映像体験とともに蘇らせた“超実写版”にかけた思いを語った。
アフリカのサバンナを舞台に幼いライオンが王へと成長していく姿が描かれる『ライオン・キング』。1994年に公開されたアニメーション版は、世代や国境を超えて世界中の人々に親しまれてきた。「サークル・オブ・ライフ=自然界の命は大きな環で繋がっている」という壮大なテーマが描かれ、今もなおディズニーアニメーション史上No.1の観客動員数を誇る。
新たにファヴロー監督がメガホンを取った“超実写版”は、まさに映画の世界に入り込んだかのような映像体験が実現することに。人間の少年をのぞいて全編ほぼCGでありながら、実際に動物たちが実在すると錯覚させた『ジャングル・ブック』で世界に衝撃を与えた映像技術をさらに推し進め、アニメーションも実写も超えた新たな映像技術の進化を遂げた。その手法とは、“バーチャル・スタジオ”を用意し、実写映画さながらの撮影を行うというもの。コンセプトアートをもとに、クルー全員がバーチャル・リアリティのヘッドギアを装着し、VR空間のセットでフルCGの映像を作り上げた。
ファヴロー監督は語る。「今回、テクノロジーの進化をどこまで押し進めることができるのか? ということがワクワクしたところなんです。以前に『ジャングル・ブック』で培ったテクノロジーや知識もあったし、そのあいだに生まれた新しいイノベーションを含めて、視覚的に何かプラスできるものがあるはずだと思っていました」
映像面のみならず、ストーリーの次元でもアップデートされた部分がある。「現在は、物語もさまざまな見方で綴られる時代になってきています。アニメーション版では、やはり男性のキャラクターに寄っているのは否めないところです。それが悪いということではもちろんないのですが、今の時代感でいえば、女性のキャラクターがより強さを持ち、より物語に関わってくるのは当然だろうと思ったんですね」
そして“正確さ”の点では、ジェンダーだけではなくて、個々の文化に対しても同様だ。「もともとの物語がアフリカにインスピレーションを受けているわけなので、音楽も現地でレコーディングを行うことが必然だと思いました。これは舞台版の『ライオン・キング』でもなされていたことなのですが、観客も洗練されてきている現在では、何がリアルであるか、そうでないか、ということはすぐに見抜かれてしまいますからね」
そうした新たな側面とともに、ファヴロー監督は『ライオン・キング』という物語が持つ普遍性をも重要視したという。
「『ライオン・キング』の物語には、誰しもが強い思い入れがあって親近感を抱いています。なかでも“サークル・オブ・ライフ”というテーマを今こそ伝えていくことに意義を感じました。そして親と子の物語という部分も。いろんな喪失や悲しみを経験するなかで、それらを受け入れつつ世界で自分の場所を見つけかなくてはいけない。これがタイムリーなメッセージだと思っています」
多くの熱狂的なファンを持つ『ライオン・キング』だけに、プレッシャーもあったというファヴロー監督。日本に先んじて海外では7月に公開されており、大ヒットを記録している。「今回、観てもらった方々のリアクションが強くて、すごくワクワクして『すごい!』と感じてくださる方もいれば、ちょっと混乱して『うーん……』という方もいらっしゃるんです。でも、そうやって意見が割れるということは、とてもよいサインだと思います。これが間違いなく新しいイノベーションであるということの証になるわけですからね」と胸を張る。
さらに「もちろん今回の『ライオン・キング』についての真価は、何年か経ってみないとわからないことではあると思う。でも、作り手である僕たちからすると、みんなが情熱的にリアクションしてくれることこそが、今までとは違った新しい方法をやっているということの確信でもあるんです」と真剣な眼差しで思いを明かした。(編集部・大内啓輔)
映画『ライオン・キング』は公開中