阿部寛出演マレーシア映画『夕霧花園(原題)』が日本初上映、第15回大阪アジアン映画祭
3月6日~15日に大阪のシネ・リーブル梅田などで開催される第15回大阪アジアン映画祭のラインナップがこの程発表された。「大阪発。日本全国、そしてアジアへ!」のテーマらしく、オープニング作品の阿部寛が出演したマレーシア映画『夕霧花園(原題)』(トム・リン監督)の日本初上映をはじめ、台湾の若手注目株ツェン・ジンホア主演の同性愛を描いた『君の心に刻んだ名前』が世界初上映される。
アジアの話題作をいち早く日本で紹介するだけでなく、アジア諸国と日本をつなぐ歴史や交流から生まれた作品を多数ピックアップし、映画界の新たな潮流を考察させてくれる同映画祭。その筆頭が阿部出演の『夕霧花園(原題)』で、主演はマレーシア出身のアンジェリカ・リー、監督としても大活躍の台湾女優シルヴィア・チャン、そして監督は台湾映画『星空』(2011)のトム・リンという多国籍チームによる作品だ。
舞台は第2次大戦後、イギリスの植民地となったマラヤ(現在のマレーシア)で、不穏な空気が流れる中、亡き妹の夢である日本庭園造りに挑んだユンリン(アンジェリカ)と日本人庭師(阿部)のほのかな愛を描いたもの。昨秋に開催された第56回台湾金馬奨では、作品賞・監督賞など9部門にノミネートされている。
コンペティション部門作品15本の中には、『東京不穏詩』(2018)など日本で制作活動を行っているインド出身アンシュル・チョウハン監督『コントラ』がアジア初上映される。少女ソラが、彼女の祖父が第2次大戦期に書いた日記に導かれるように町をさまよう展開で、エストニアのタリン・ブラックナイト映画祭で日本映画初となるグランプリを受賞している。
同じくコンペティションには、福岡出身でポーランドの名門ウッチ映画大学で学んだボブリックまりこ監督の初長編映画『フォーの味』(ドイツ・ポーランド)もアジア初上映される。ボブリック監督はカンヌ国際映画祭の学生映画部門シネフォンダシオンやベルリン国際映画祭の若手映像作家育成プロジェクトであるベルリナーレ・タレンツにも選ばれてきたまさに期待の新鋭で、ワルシャワのベトナム料理店を舞台にした本作も、第67回サンセバスチャン国際映画祭のキュリナリー・シネマ(料理映画)部門でワールド・プレミア上映されている。
東南アジアの勢いを感じさせてくれる特集企画「ニューアクション! サウスイースト」では、長塚京三主演『ひき逃げファミリー』(1992)をリメイクしたキム・テシク監督『サンシャイン・ファミリー』(フィリピン・韓国)が日本初上映。
さらに『パラサイト 半地下の家族』のアカデミー賞受賞で湧く韓国映画界の力強さを実感させてくれる「祝・韓国映画101周年:社会史の光と陰を記憶する」、不安定な政治情勢で揺れる香港映画人にエールを贈るような「Special Focus on Hong Kong 2020」と題した特集企画もあり、劇場にいながらにしてアジアの今を知ることができるだろう。
また今年から、暉峻創三プログラム・ディレクターの“まだメジャーではないが注目してほしい!”という熱い思いから特別注視部門が新設。日本の気鋭監督をフィーチャーしたインディ・フォーラム部門も回を重ねるごとに力作が集まるようになり、今年は、長編初監督作『僕の帰る場所』(2017)で第30回東京国際映画祭・アジアの未来部門作品賞と国際交流基金アジアセンター特別賞の2冠を受賞した藤元明緒監督の短編『白骨街道』が世界初上映される。
同作はタイトルが示す通り、インパール作戦で亡くなった日本兵たちの遺骨収集を行うミャンマーの少数民族ゾミ族に密着し、彼らの姿を通して戦後を見つめる内容で、大きな反響を呼びそうだ。
ただし今年は新型コロナウィルスの影響で中国・香港路線を運休している航空会社も多く招待ゲストに影響が出そうだ。映画祭側は「中国ゲストの渡航は出国が制限されているので招聘は厳しいと思うが、状況を見守りながら対応したい」とコメントしている。(取材・文:中山治美)
第15回大阪アジアン映画祭は3月6日~15日、シネ・リーブル梅田ほかにて開催