柳楽優弥、北斎の頑固さに共感 30代を目前に中堅の責任のしかかる
昨年6月17日、京都・松竹スタジオで行われた映画『HOKUSAI』(5月29日公開)の撮影現場で、青年期の葛飾北斎を演じる柳楽優弥が取材に応じた。ライバルの浮世絵師・喜多川歌麿と東洲斎写楽に挟まれた北斎を通し、「20代に比べて自分の位置が変わってきている」と中堅に突入した現在の胸中を明かした。
本作は、幕府に風俗が厳しく取り締まられていた江戸時代後期を舞台に、北斎と彼に影響を与えた人物たちとのエピソードを軸に、北斎が描いた「三つの波」の秘密に迫る物語。柳楽と田中泯がダブル主演を務め、田中が老年期の葛飾北斎にふんするほか、若き北斎の才能を見いだす版元(プロデューサー)・蔦屋重三郎に阿部寛、若き北斎を焚きつける美人画の大家・喜多川歌麿役に玉木宏、老年期の北斎と深くかかわる戯作者の柳亭種彦に永山瑛太が決定している。メガホンを取ったのは『相棒』『探偵はBARにいる』シリーズなどの橋本一。
青年期の北斎を演じるにあたり、柳楽を悩ませたのが青年期の北斎の資料がほとんど残されていないことだった。「最初は迷いましたが監督と話して逆に、わからないことだらけなのだからこの作品で北斎像を作っていきましょうと言っていただけたのが心強かったです」。そう話しながらも「本当にわからなくて探りながらやっています」と吐露。時代劇は、これまで映画『合葬』(2015)などで経験しているが、「所作だらけなので一歩歩くのにも神経を張り巡らせなければならない。だけど気にしすぎると動けなくなってしまう」と課題は山積みだったようだ。
一方で、青年期の北斎には共鳴する点が多々あったという柳楽。本作では浮世絵師として大成するまでの試練が描かれ、女性を艶やかに描く歌麿(玉木宏)や絵描きに迷いがない東洲斎写楽(浦上晟周)にうちのめされ、屈辱を味わうことになる。「あきらめないというのはいいなと思います。そういう頑固さは僕にも多少ありますし、そういうことって生活においても大事だなと思う瞬間があります。北斎は歌麿や写楽に比べると不器用で、壁にぶち当たっては一つ一つ壊していく。『俺はただこれをやりたい』と信じる力がすごいと思います。そういうひたむきさや努力を芯にしていますし、自信をもってやっています。北斎って描いた枚数もすごいんですよね。本当に毎日描き続けていたんじゃないかと思えるほどの数が残っているようで」
また、軽々と前を進んでいく歌麿や写楽に悔しさをあらわにする北斎にも自身を重ねる。「この業界でも、ほかの人が壇上に上がっていたらそれは悔しいわけで。そういうところは同じだと思いますし、理解するのは難しくなかったです。それをどういうふうに表現すればより北斎らしく見えるか、というのが毎日のテーマです」
北斎は歌麿より年下、写楽より年上の設定。2人の間に立つ北斎にも感じることがあったようだ。「僕は今、30歳手前なんですが後輩も増えてきていて、それに伴って責任も大きくなり、20代真っ只中の時に比べて立ち位置が変わってきていると感じています。30歳を目前にした今は、年上でいることと年下でいることの両方が見えるので、そういう意味では北斎が写楽や歌麿に何を感じるのかというのは理解できます」
そんな北斎を導くのが、阿部演じる版元(プロデューサー)・蔦屋重三郎だ。柳楽はデビュー作『誰も知らない』(2004)で、阿部は『歩いても 歩いても』(2007)『海よりもまだ深く』(2016)で是枝裕和監督作品に出演した共通点があるが、共演はこれが初となる。「すごくうれしいです。僕も是枝監督の作品に出演させていただきましたし、阿部さんの『海よりもまだ深く』が大好きで。いろんなことを相談できる、僕が身長抜きにして目指している方です」と目を輝かせ、「アル・パチーノに似ている」と興奮気味に話していた。
是枝組といえば、『万引き家族』の名子役・城桧吏も本作に出演。柳楽は同じ事務所(スターダストプロモーション)の後輩でもある彼を「スターダストプロモーションのホープ」だと言い、「『万引き家族』のときに、彼が僕と似ているとおっしゃる方が分福(※是枝裕和や西川美和らによる制作者集団)周りにも結構いて。監督が(城を)撮った写真などを見るとわかるなと思いますし、うれしいですね。会っていろいろと話してみたいと思えるような魅力的な雰囲気の子だと思います」と興味津々の様子だった。(編集部 石井百合子)