ピクサー『2分の1の魔法』は“感動という拳”でおなかを殴られるような映画
ディズニー/ピクサーのアニメーション映画『2分の1の魔法』のダン・スキャンロン監督がインタビューに応じ、死んだ父をよみがえらせる旅に出るエルフの兄弟の姿を描くこの感動作を、どのようにして生み出したのかを明かした。
スキャンロン監督が本作を作る機会を得たのは、前作『モンスターズ・ユニバーシティ』(2013)を終えて1か月後のことだった。監督は「本作はとても個人的なところから始まった。僕の父が亡くなったのは、僕と兄がまだとても幼かった時。父に関する記憶は全くなくて、僕たちはいつも父はどんな人だったのか、僕らのどんなところが父に似ているのかなんてことを考えていた。そこからこの物語が生まれたんだ。今度は何かパーソナルなものをやりたいと思っていたし、僕にとって重要なものは、他のみんなにとっても重要なものだったらいいなと思ったんだ」と振り返る。
舞台となるのは、技術の進歩によって魔法が消えかけ、わたしたちの世界とあまり変わらなくなったファンタジーの世界だ。「父親のキャラクターを1日生き返らせるために僕らには魔法が必要だったんだけど、それだとハイファンタジー(異世界もの)になってしまう。だけどこれがパーソナルな物語という点は保ちたかったから、現代のファンタジーの世界を舞台にすることにした。それがすぐさま笑いを生んだんだ。ファンタジーの世界の偉大なキャラクターたちが、僕たちの日常みたいな世界で暮らしているんだからね(笑)。僕たちはこのアイデアに興奮したんだよ」
『2分の1の魔法』の企画がスタートしたその日から本作に携わってきたストーリー・スーパーバイザーのケルシー・マンは「最初の段階から、ダンは僕に『すごく面白くて大笑いできて、最後に観客の方が感情的に驚くような心を揺さぶる映画を作りたい』と言っていた。最後に“感動という拳”でおなかを殴られるような映画だとね。それを聞いて僕は『そういう映画を僕自身も観たい』と思った」と本作のコンセプトを明かす。「感情的なものを含めようとするコメディーは多いけど、そういうのには僕はあまり感動しない。なんとなく取って付けたような感じがしてしまうんだ。僕らはそういうのにはしたくなかった。だってこれはダン(・スキャンロン監督)自身の話なんだから。ダンの経験なんだよ。本当の話なんだ」とコメディーとドラマのバランスを慎重に見極めたという。
そうして出来上がった本作は、ユーモアに満ちているのはもちろん、内気な弟イアンと、イアンをいつも傍で支えてきた陽気な兄バーリーの兄弟愛、そして二人の父への思いに泣かされる。インタビューが行われた1月末、スキャンロン監督は「兄は来週観る予定なんだ! クルーのための打ち上げで最初にね。彼はこの映画について、僕ら自身の人生に大まかに基づいているってこと以外、ほとんど知らない。(映画を作り始めてから)6年たって、ついに彼に見せる時がくるなんて信じられない。とても興奮しているよ」とにっこり。「彼は『この映画が好きだ』と言うと思う。もし気に入ってなくてもね。なぜなら彼は本当にバーリーみたいなんだ(笑)。いつも味方でいてくれる兄なんだ。だから彼はいい反応をしてくれると思うよ」と笑っていた。(取材・文:編集部・市川遥)
映画『2分の1の魔法』は3月13日より全国公開