驚きの連続!「麒麟がくる」前半戦の名場面を振り返り
美濃に生まれた戦国武将・明智光秀の生涯を描く大河ドラマ「麒麟がくる」。まだ見ぬ平和と希望の象徴である「麒麟」を待ちわびながら、乱世に立ち向かう光秀(長谷川博己)の苦悩の日々はまだまだ続く。主君・斎藤道三(本木雅弘)の周囲がきな臭くなってきたが、ここまでの名場面を登場人物と共に振り返ってみたい。(※ネタバレあり。第十五回までの詳細に触れています)
序盤の主役!? 圧倒的な人気の斎藤道三
「麒麟がくる」の序盤を引っ張った人物と言えば、何と言っても本木演じる斎藤道三だろう。本木は放送開始前のインタビューで、道三についてビジネスマン的な要素を持っていると語ると「“まむし”や“梟雄(きょうゆう)”などと言われていますが、ただ野心の塊ではなく、人間への興味があったはず」と言及。多面的な道三を演じることを誓っていた。
まず道三の「恐ろしさ」が垣間見えたのが、第二回「道三の罠(わな)」。実娘・帰蝶(川口春奈)の婿である美濃守護職・土岐頼純(矢野聖人)を暗殺するシーンだ。道三は毒入りの茶をたて、位は上である頼純に対して淡々と感情的になることなく一瞥くれると「歌いながら」あっさり殺めてしまい、まさに“まむし”といった感。
第十三回「帰蝶のはかりごと」では、自身の暗殺を企てた土岐頼芸(尾美としのり)を「攻め立てる」と怒気を纏う道三が、光秀に対して「わしのことが嫌いか?」と問うシーンがあるが、光秀は「どちらかと申せば嫌いでございます」と真正面から回答する。そこから光秀はその真意と、戦うことの愚かさを、涙を交えて説明するが、そのときの道三は、険しい顔つきの中にどこか光秀を愛おしく思うようなまなざしを見せる。といったように、光秀との対話では人間味あふれる道三が見られる。
また第十四回「聖徳寺の会見」では、娘婿である織田信長(染谷将太)と対面を果たすが、遅れてやってきた信長に対して厳格に接するも、信長に先見の明があることを察すると意気投合。「見事なたわけじゃ」と高笑いするなど、人を見出す眼力に優れたところも、本ドラマの道三の特徴と言えるだろう。
そんな道三も、第十五回「道三、わが父に非(あら)ず」では、家督を息子の高政に譲り剃髪姿に。しかし正妻の息子である次男・孫四郎(長谷川純)が、帰蝶と手を組み高政から家督を奪おうと企てたことから、お家騒動が勃発。高政は、孫四郎および、三男の喜平次(犬飼直紀)を側近に殺害させてしまう。それを知った道三は、孫四郎の亡骸の血を顔に塗りつけると「美濃を手に入れた褒美がこれか! わしがすべてを譲ったわが子が、すべてを突き返してきたのじゃ。このように血まみれにして」と絶叫。その後も、道三は「高政、わしの手を汚しおったな。出てきてこの血のにおいを嗅ぐがよい」と鬼神と化した姿は、まさに序盤の主役と思わせる圧倒的な迫力だった。
従来のイメージを覆す織田信長
前述した「聖徳寺の会見」で親子ほど年の離れた道三と渡り合った信長も、登場は第七回「帰蝶の願い」とやや遅かったが、序盤戦を大いに盛り上げた人物だ。朝焼けを背景に海から戻ってくるシーンでは、これまでの信長のイメージからかけ離れた登場だったため、今後に対する期待と不安が入り混じる感想が飛び交ったが、その後は村の民との心通わせるやり取りや、帰蝶への信頼感など柔和な一面と、父・織田信秀(高橋克典)に認められず母・土田御前(檀れい)から愛されないことへの憤りからくる残虐性など、信長像を立体的に表現し“染谷将太ここにあり”の演技を見せている。
「聖徳寺の会見」での道三との対峙シーンでは、余裕しゃくしゃくの様子で遅れて登場すると、帰蝶をだしに自分が“たわけ”であることを自虐的に話し、大勢の家臣を引き連れ威嚇する道三から主導権を奪う貫録を見せる。道三が信長を支持したことで斎藤家の運命も大きく変わることとなり、その意味でも重要なシーンだと言えるだろう。
今後、信長と光秀は「本能寺の変」という出来事に向かって緊張感ある関係を育んでいくことになるが、帰蝶、さらには藤吉郎(のちの豊臣秀吉/佐々木蔵之介)を交えた4人の距離感は非常に興味深い。
真っすぐな信念で強者たちを揺さぶる明智光秀
現時点では、どちらかというと道三をはじめとする強烈な演者たちに対しての受けの演技に徹することが多かったが、道三、帰蝶、足利義輝(向井理)、三淵藤英(谷原章介)、細川藤孝(眞島秀和)、松永久秀(吉田鋼太郎)ら、今後キーマンとなってくる人物たちが、光秀と対峙するときだけ、普段と違う顔を見せる。
言い換えれば、それだけ各人にとって光秀は特別な存在であり、序盤の伏線の張り方としては申し分がないように感じられる。特に第十一回「将軍の涙」で、一触即発の織田軍と今川軍の仲裁を願い出るシーンでは、将軍・義輝にとって揺るぎない信念を持つ光秀が大きな存在であることを印象づけた。
「本能寺の変」で主君・信長に謀反を起こした人物として位置づけられている光秀だが、これまでは戦乱の世を憂う人物として描かれている。そんな光秀が、どのような過程を経て信長を討つことを決心したのか……オープニングの武装した光秀は果たしてどの戦での姿なのか、想像を掻き立てる。
菊丸をはじめ架空の人物たちの役割
本作には、各国の要人たちの主治医を務める博打好きの医師・望月東庵(堺正章)や、その助手・駒(門脇麦)、三河出身の農民・菊丸(岡村隆史)、旅芸人一座の女座長・伊呂波太夫(尾野真千子)ら架空の人物たちが数多く登場する。
制作統括の落合将氏は「どの人物も物語に重要な役割を果たします」と語っていたが、なかでも岡村ふんする菊丸は、今後大いなる活躍を見せそうだ。菊丸は第一回「光秀、西へ」で、美濃を襲う野盗に囚われていた農民として登場すると、その後も度々光秀の前に出没する。第四回「尾張潜入指令」で道すがら兄弟を装って国境を突破するときの光秀とのやり取りは、「さすがお笑い芸人」と思わせるテンポの良い芝居を披露。その後も、信秀の屋敷で三河松平家の嫡男・竹千代(のちの徳川家康)と出会い、三河という国の立ち位置を憂うと、その後、第九回「信長の失敗」で、菊丸は竹千代の実母・於大とその実兄・水野信元に仕える忍びであり、陰で竹千代を守り続ける使命を担っていたことが判明。ネット上では、「只ものじゃない」と予感していた視聴者たちが「やっぱり!」と大いに沸いていた。
そんなストイックな面を持ちつつ、第十四回「聖徳寺の会見」では、駒と偶然再会し、藤吉郎を介護する駒に嫉妬するような不器用な恋心も見せるなど、物語の“緩”の部分も担っている。
今後、斎藤家の内紛により光秀は一族と共に越前に逃げ、「越前編」として新たな物語が展開する。越前国の戦国大名・朝倉義景役のユースケ・サンタマリア、関白・近衛前久役の本郷奏多、信長の家臣・柴田勝家役の安藤政信ら、新たな曲者たちも登場し、光秀の旅はさらに続くが、この序盤の人間関係が大きな柱になっていくことは間違いないだろう。(磯部正和)