映画の裏方・配給会社の苦境 映画館再開後も問題山積み
新型コロナウイルスの影響で苦境に立たされた独立系配給会社が非常事態を乗り越えるための緊急対策として「Help! The 映画配給会社プロジェクト」を立ち上げた。映画業界において裏方でもある配給会社、とりわけ大手チェーンのシネコンを有さない独立系配給会社は今どのような問題を抱えているのか。本プロジェクトの発起人の一社であるセテラ・インターナショナルの代表・山中陽子さんに話を聞いた。
3月末からの外出自粛、そして4月7日からの全国を対象にした緊急事態宣言後、新作映画の公開が軒並み延期になっていった。これにより全国の小規模映画館(ミニシアター)が閉館の危機に陥り、映画監督の深田晃司、濱口竜介が発起人となり、ミニシアターを支援するためのクラウドファンディング「ミニシアター・エイド基金」を立ち上げたほか、多くの映画人が呼びかけ人となり政府への緊急支援を要請する署名運動「SAVE THE CINEMA『ミニシアターを救え!』プロジェクト」などが発足した。その一方で、ミニシアターで上映される映画を提供する配給会社の苦境は可視化していない。
配給会社の業務には、主に海外からの映画の買い付け、映画館への上映依頼・ブッキング、スターの来日会見や舞台挨拶などのイベントなどのプロモーション活動などがあるが、山中さんいわく、今最も問題になっているのは「観客に映画の存在を伝える手段が極端にないこと」だという。
「映画館が休館中なのでチラシの配布や予告編の上映ができない。加えてマスコミ試写やイベントも中止、雑誌や新聞の紙面も映画情報欄は休止中、という状況で、限られた宣伝しかできません。そうすると、映画館の営業が再開されても宣伝が不完全な状態のまま公開を迎えることになります。また、多くの作品が遅延、延期しているため、作品がたくさんつかえてしまい劇場にブッキングするのが難しくなりますし、宣伝のやり直しをしなければいけないケースも出てきて、収益がない中でさらなる出費が必要となります」」
25日に東京都など首都圏の1都3県と北海道の緊急事態宣言が全面解除され、29日の都知事による会見で、都が3段階に分けて実施する休業要請の緩和措置ロードマップを6月1日より「ステップ2」に移行することが発表されたことから、都内の映画館が徐々に再開していくことになるが、再開後も問題は山積みだ。
「映画館が再開しても席の間隔を空けるといったコロナ対策は続きますので、来場人口の減少は免れないと思います。また宣伝に関して、再開後すぐに映画を供給する配給会社は苦しい状況に立たされると思います。宣伝費をかけて広告を打たないといけませんが、実際、映画館にどれだけの人が足を運ぼうと思ってくれるのかは未知数で、映画館という集客ビジネスはしばらく難しいと思います」
では劇場営業再開後、早急に必要になるのはどんなことなのか。「各劇場で十分なコロナ対策に取り組み、それを告知して、少しずつお客さんに劇場に戻っていただくことでしょうか。また、配信サービスなど、映画館以外の方法で収入を確保する道を模索するなど、今まで以上に頑張らなければいけません」
映画館以外での収益を確保すべく5月15日に立ち上げたのが、「Help! The 映画配給会社プロジェクト」の発起人となった8社の独立系会社、及び参加会社が、配給会社アップリンクが運営するオンライン映画館「アップリンク・クラウド」で自社の過去作品を配信するサービスだ。料金や本数は各社ごとにことなるが、例えばセテラ・インターナショナルでは15本を2,480円で3か月間視聴できる内容となっている。提供会社には、発起人のクレストインターナショナル、ザジフィルムズ、ミモザフィルムズ、ムヴィオラなど。第二弾として彩プロ、アンプラグド、エスパース・サロウ、オンリー・ハーツ、サンリス、シンカ、ハーク、マジックアワーが名を連ねている。これらの会社は本来、ライバル同士であるはずだが、山中さんは志を一つにした経緯をこう語る。
「ライバル同士とはいえ、お互いの会社の配給活動を常に尊重しあっているところが、我々独立系配給会社には多々あります。自分たちの苦労は他社にも共通することですから理解できるのです。ですからお互い4月の始めごろから情報交換して、今後どうしたらいいのかという対策を考えているうちに、各社ごとの見放題配信パックというお話をアップリンク・クラウドからご提案いただき、賛同する会社が配信することにしました。見放題パックを提供しなくても、一人から数人で経営している20社弱が一社ずつ声を上げるよりも、集まって声を上げることで、独立系配給会社という存在がミニシアターを支えている運命共同体なのだ、ということをわかってもらえるはずだと。なおかつ、見放題パックのラインナップから各社のカラーも知っていただけるのではと思いました」
そのほか、海外で多くの作品の撮影が遅延していることから、今後は新作の買い付けにも支障がでてくることが予想され「我々にとって作品の確保は必須だと思います。配給するものがなくなってしまう事態は避けなければいけません」と力を込めた。(取材・文:編集部 石井百合子)