アップリンク浅井氏、元従業員のパワハラ訴訟に謝罪、再発防止策
有限会社アップリンクの取締役・浅井隆氏は元従業員からパワーハラスメントで訴えられたことを受け19日、謝罪及び今後の再発防止策について同社の公式サイトで表明した。
16日、アップリンクの5名の元従業員が被害者の会「UPLINK Workers’ Voices Against Harassment」を立ち上げ会見を開き、浅井氏とアップリンクを相手取り、損害賠償を求めて東京地裁に提訴することを明らかにした。原告は、他の従業員や来場者の面前で理不尽な理由で怒鳴る、「おまえは病気である」など人格を否定した発言などを例に挙げ、浅井氏のパワハラが長期に渡り日常的に行われていたことを訴え、「世界を均質化する力に抗う」というアップリンクが掲げるポリシーとは著しく乖離すると指摘した。
浅井氏は訴訟を受け、同日に公式サイトで謝罪文を掲載。社としてもハラスメントの再発防止に努めていくとしていたが、19日に改めて謝罪文並びに再発防止策を掲載した。「まずは、今回提訴した元従業員5名の方、そして、そのほかの元従業員、現在勤務している従業員の皆さんに対して、私のこれまでの言動に過ちがあったことを認め、傷つけたことを深く謝罪致します」という一文に始まり、スタッフに対して人としての尊厳を傷つけていることに自覚がなかったことなど、長文にわたって謝罪。今後の自身、会社をどう変えていくかについての考えを記した。
再発防止策については「外部委員会の設置」「通報制度・窓口の設置」「社内体制の改革・スタッフとの定期的な協議」「取締役会の設置」「セミナー、カウンセリングへの参加」という5つの項目を挙げ、現在も専門家を交えて検討しており、より適切な対応をしていくとしている。
なお、本件に関する取材は受けない方針で、劇場は通常通り運営していること、劇場への問い合わせは控えるよう呼びかけている。全文は以下の通り。(編集部・石井百合子)
■アップリンク取締役・浅井隆氏のコメント全文
まずは、今回提訴した元従業員5名の方、そして、そのほかの元従業員、現在勤務している従業員の皆さんに対して、私のこれまでの言動に過ちがあったことを認め、傷つけたことを深く謝罪致します。また、これまでアップリンクを支えて下さったお客様、関係者の皆様にもお詫び申し上げます。コロナ禍で映画館の営業ができなかった時も、配信やチケットを購入してくださったり、寄付してくださったり、温かいお言葉をかけていただきました。そうしたお気持ちを裏切るような行動を深く反省し、今後決して繰り返さないよう、努めて参ります。
33年前の1987年にアップリンク渋谷を自分1人で設立し、ここ2年で吉祥寺、京都と映画館をオープンし、現在は100人を超える従業員が在籍する会社になりました。しかし、会社の規模が大きくなっても自分のみをトップにする体制での経営、運営を続けており、「会社とはこうあるべきだ」「次のプロジェクトはこうだ」と、自分の考える方針を押し進め、とにかくアップリンクが生き残るために時代の変化に対応することに全精力をあげてきました。
当然のことですが、アップリンクを築いたのは自分一人の力でなく、これまで関わってきたスタッフ、さらに関係者、そして応援してくださったお客さまによって今まで会社が継続して活動を続けてこられました。
この2年間の急成長下、100人を超える従業員を擁する会社として、規模に応じた組織づくりを行なうことができていませんでした。特にマネージメントの体制が会社の規模にふさわしく行えず、スタッフ1人1人に過大な負荷がかかる状況が常態化していました。アップリンク吉祥寺、京都のオープン時は、誰もが未経験の大きなプロジェクトであったにも関わらず、十分な研修もできずスタッフの負担は大きなものでした。研修を十分にせず、責任の重い仕事を任せ、スタッフに過度のプレッシャーを与えること自体がハラスメントにあたるという認識が自分に欠けていました。
経営体制を変える必要があるのは自覚していました。組織図を作り、新人スタッフの研修を進めていたものの、ベテランのスタッフも少人数で多くの実務をこなしていたため、管理職としての仕事をすることは無理な状況だったと思います。社長として、無理なスケジュールや采配を行っていたことは明らかです。
また、従業員への態度に対しても、これまでにスタッフから何度も「これはハラスメントである」という指摘を受け、是正するよう言われてきました。そのたびに理解したつもりになっていましたが、理解できていませんでした。映画の配給宣伝、映画館の運営にあたり、毎日が本番で常にベストを尽くすという自分の考えがあり、それをスタッフにもして欲しいと思い、強いていました。そのため、その自分が考えるベストから遠いと感じた場合は、注意をしてきました。その注意が叱責となることも度々ありました。
一番の自分自身の問題は、スタッフに対して人としての尊厳を傷つけていることに自覚がなかったことです。よい仕事をするには注意して直していくことが必要なのだ、その注意は、理不尽ではないと思っていました。力によって仕事をやらせようとする行為、それこそがパワー・ハラスメントであるという認識が欠けていました。自分自身のマネージメント能力の低さに他なりません。
自分の経営者としての力不足、叱責によってスタッフを傷つけたこと、無理な采配で過度な負担をかけてきたことを、深く反省致します。
通常の会社であれば、自分が退くことで会社を刷新させることができるのかもしれませんが、アップリンクは自分一人で始めた会社で、全ての経済的リスクを負ってきました。現在も多額の負債があり、その連帯保証人は自分一人です。そういった中で誰かに社長を務めてもらうことは難しい状況です。
私自身が会社を退くということは、アップリンクがなくなり現従業員を路頭に迷わすことになります。自分自身と会社を変革し、ハラスメントのない会社、そして今まで以上に映画という文化、映画産業において、有意義かつ独自性の高い活動をしていく会社にする所存です。
その上で、今後の自分自身、会社をどう変えていくかについて、次のように考えています。
1)外部委員会の設置
社外の専門機関に、現在の社内の課題に関して調査を依頼します。徹底的に調査し現状を把握し、問題がある部分を改善し、コンプライアンスの徹底を致します。
2)通報制度・窓口の設置
今後のハラスメント防止対策として外部への通報制度の整備を行います。
3)社内体制の改革・スタッフとの定期的な協議
社内の組織体制整備、とくにマネージメントの体制を整えます。また、スタッフとの定期的な協議を行います。
4)取締役会の設置
現在、有限会社アップリンクの取締役は自分1名ですが、今後は、社内外含め複数の取締役で運営を行うべく準備中です。
5)セミナー、カウンセリングへの参加
叱責、暴言などは、感情のコントロールがきかないことも要因だと思います。アンガーマネジメントなどのカウンセリングを受け、自身の問題解決に臨みます。また、私自身はもちろん、上司となる立場のスタッフにも研修を受けてもらい、徹底的なハラスメント撲滅に取り組みます。
これらについては、現在も専門家を交えて検討しており、より適切な対応をしていきます。
最後に、アップリンクは社会の均質化に抗うことを標榜してきました。スタッフは皆、そこに共感してくれた人たちです。今回、提訴にあたって、原告の皆さんが実名で顔を出して会見をしたことはとても覚悟のいることだったと思います。それを深く受け止め、心に刻みます。同時に、現職のスタッフ、これまで働いてくれたスタッフの訴えに耳を貸さなかったこと、わかったつもりになって、きちんと対応しなかったことを、深く反省しています。
そして、アップリンクを応援してくださった皆様に残念な思いをさせてしまい、大変申し訳ありませんでした。
会社の運営体制、職場環境を根本的に変えていくこと、そして、もう一度、皆様に応援していただけるアップリンクに生まれ変わることを、ここにお約束致します。
浅井隆
有限会社アップリンク 取締役社長
2020年6月19日