本当に怖い日本の幽霊映画7選
夏といえば定番なのがお化け映画。夏に怖い話を楽しむようになった起源については、8月は先祖の霊が帰ってくるお盆があるから、ゾクッとして暑さを忘れるためなど諸説ある。日本のホラー映画といえば、「幽霊」。お岩さんをはじめ、観たらトラウマ必至の幽霊が登場する作品を振り返ってみた。
お盆に観たくなる大林宣彦監督の名作
ある夏突然、死んだ両親の霊が帰ってきた……大林宣彦監督の『異人たちとの夏』(1988)はお盆にぴったりのダークなファンタジー映画だ。遺作となった『海辺の映画館-キネマの玉手箱』(上映中)でも、生者と死者の交流を描いた大林監督。キャリア初期から、戦争で死んだ恋人に永遠の愛を誓った女性が悪霊と化す『HOUSE ハウス』(1977)、映画青年が“女優霊”に取り憑かれるテレビ映画『霊猫伝説』(1983)など、強い思いによって超自然的存在と化す人々を何度も登場させてきた。
『異人たちとの夏』は、幼い頃に両親を亡くした脚本家の原田(風間杜夫)が、思い出のままの姿で現れた両親(片岡鶴太郎、秋吉久美子)と交流し、大切なものを取り返す物語。といっても単なるいいお話ではなく、死者に取り憑かれた主人公が「この世」と「あの世」の境をさまよう現代の怪談に仕立てている。大林監督お得意の幻想的な映像は抑えめだが、合成や特殊メイクを駆使した霊に抗うクライマックスは、ゾクっとした怖さが味わえる。
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やはり最恐の幽霊はお岩さん!?
すでに江戸時代から怪談話は夏の芝居や落語の定番だったが、映画は1956年7月に公開された若山富三郎主演の『四谷怪談』がきっかけといわれている。本作の大ヒットを機に、毎年夏になると「納涼」の名のもと各映画会社は次々にお化け映画を公開した。そんな中でも傑出した作品が、中川信夫監督の『東海道四谷怪談』(1959)である。鶴屋南北の同名狂言を原作にした本作は、旗本の娘との結婚を狙う伊右衛門(天知茂)に殺されたその妻・岩(若杉嘉津子)が、夫に復讐を果たす物語。薬とだまされ毒薬を飲まされた岩は、皮膚がただれ髪が抜け落ち悶絶しながら息絶える。その顔を直接見せず、おびえる目撃者や苦しむ岩の声で凄まじさを伝える演出や、麻痺した手足で赤ん坊を抱き抱え「この恨み晴らさずにおくものか」と叫びながら絶命する姿はいまだに衝撃的。やがて怨霊と化し、伊右衛門に迫る恐ろしい姿によって“お岩さん”は幽霊の代名詞になっていく。原色を多用した色彩設計、部屋が一瞬で川と化すなど大胆な場面転換など、その様式的な映像や世界観は後の映画にも多くの影響をもたらした。
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海外ホラーの影響が色濃い異色シリーズ
「四谷怪談」に代表される古典的なお化け映画にはない怖さが味わえるのが、山本迪夫監督の『幽霊屋敷の恐怖 血を吸う人形』(1970)だ。事故死した夕子(小林夕岐子)の実家を訪れた婚約者の和彦(中村敦夫)が、徘徊する夕子の姿を目撃する。本作のモチーフは、催眠術で臨終をのばすエドガー・アラン・ポーの「ヴァルドマアル氏の病症の真相」(1962年にオムニバス映画『黒猫の怨霊』の一篇「人妻を眠らす妖術」として映画化)。科学で幽霊を生み出すアプローチ、不気味な洋館のロケーション、白っぽいロングドレスに長い髪という幽霊のルックを含め、外国映画を思わせる乾いたタッチが特長だ。姉妹編として同じスタッフで製作された『呪いの館 血を吸う眼 』(1971)と『血を吸う薔薇』(1974)もあり、個性派俳優・岸田森が吸血鬼を怪演。こちらは荒々しい吸血鬼で戦慄させる、イギリスのホラー『吸血鬼ドラキュラ』(1958)を思わせる作品に仕上がった。「血を吸う」シリーズは3本で終了するが、風土や風習が重要なファクターだった従来のお化け映画とは一線を画す異色の存在となった。
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リアルな心霊描写を目指したJホラー
長らく続いた幽霊=お岩さんのイメージを覆したのが、リアルな心霊描写を追求したJホラーの起爆剤『リング』(1998)である。伝統的な怨霊ものと都市伝説を組み合わせ、ミステリー仕立てで構成された本作には、世の中に恨みを抱いて死んだ貞子が登場。念写による“呪いのビデオ”を使った容赦のなさ、シンプルなドレスに顔を隠した長い髪というルック、何より人間らしからぬ不気味な所作で話題を呼び、一躍お化けの代名詞として定着した。本作を生みだしたのは監督・中田秀夫と脚本・高橋洋の『女優霊』(1995)コンビ。再び組んだ続編『リング2』(1999)をはじめ、長寿ビデオシリーズ「ほんとにあった怖い話」を手がけJホラーの父と呼ばれる鶴田法男監督の『リング0 バースデイ』(2000)、中田監督が14年ぶりに復帰した『貞子』(2019)など息の長いシリーズになった。
貞子と共にJホラーを牽引した怨霊、伽椰子が登場したのが清水崇監督の『呪怨』(2002)。1999年の同名ビデオ作品を映画化した本作は、惨殺された母子の怨念が棲みついた家にまつわるお話だ。白いドレスに長い髪、白粉顔の伽椰子は、恨みをこめた瞳で相手を見据えてじわりじわりと迫り来る。表情の見えない貞子と違い、即物的な怖さを持った怨霊である。なお、『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!』シリーズや、『ノロイ』(2005)など実話系作品で名を上げた白石晃士監督は、怨霊頂上決戦『貞子vs伽椰子』(2016)を撮っている。一軒家に取り憑いた『呪怨』に続き、清水監督は廃ホテルの霊魂を描いた『輪廻』(2005)を発表した。こちらは輪廻転生をテーマに、怪現象の正体に迫る恐ろしくも哀しい世界を展開。実在する怪奇スポットをテーマにした『犬鳴村』(2019)では、幻の集落で怨霊に取り憑かれた人々の恐怖が描かれた。
お化けの表現を模索したJホラーの始祖『スウィートホーム』(1988)の黒沢清監督作『回路』(2001)は、ネットを通じて霊が世界にあふれ出すというぶっ飛んだ物語が展開。幽霊たちが霊界からインターネットにアクセスし、世界に拡散していくさまが描かれる。幽霊の描写はわずかだが、見た目は同じでも人と異なる歩き方で迫りくる姿は何度観ても怖い。
夏の風物詩・百物語の現代版
夏の風物詩といえば、古くから伝わる怪談会“百物語”。集まった人々が100本のロウソクに火を灯し、怪談をひとつ披露するごとに1本ずつ消していく。丑三つ時(深夜2時頃)にすべてが消えると、実際に怪異が起こるといわれている。この怪談会の現代版という趣向で、日本各地の怪異談を集めた「新・耳・袋ーあなたの隣の怖い話」を映画化したのが『怪談新耳袋 劇場版』(2004)だ。1話10分前後の短編8話で構成されたオムニバスで、監督に吉田秋生、佐々木浩久、三宅隆太、豊島圭介、雨宮慶太ほかこのジャンルの名手が集結。正統派の怨霊ものからただひたすら恐怖に襲われる不条理系、笑いを誘うユーモラスなものまで多彩な怪談が味わえる。原型は1話5分のオムニバステレビシリーズ「怪談新耳袋」。映画、シリーズ、スペシャル版と多彩なラインナップがそろっている。(神武団四郎)