リヴァー・フェニックス生誕50年、永遠のスターが遺した偉大な功績
映画『スタンド・バイ・ミー』や『マイ・プライベート・アイダホ』などで絶大な人気を誇りながら、23歳という若さでこの世を去ったカリスマ的なハリウッドスター、リヴァー・フェニックス。今年の8月23日でちょうど生誕50年を迎える彼の、短くも輝かしいキャリアと功績を振り返ってみたい。
【画像】美しい『マイ・プライベート・アイダホ』のリヴァーとキアヌ
1970年8月23日、オレゴン州に生まれたリヴァー。両親は全米各地を放浪するヒッピーだったらしく、リヴァーと4人の弟妹たちもその行く先々で生まれている。そのため正式な学校教育を受けず、動物や自然と戯れながら育ったという。後に動物愛護や環境保護の社会活動に情熱を注ぎ、ヴィーガンとしての食生活を貫いたのも、こうした生い立ちが深く影響しているのだろう。ちなみに、一時期家族で「神の子供たち」というカルト教団に入信し、そこで4歳の頃に性的虐待を受けたとリヴァー本人が告白して話題となったが、最近になって弟ホアキンが「マスコミの下らない質問にうんざりしたリヴァーのジョークだった」と打ち明けている。
その後、両親が仕事を見つけてロサンゼルスに定住。兄妹で小遣い稼ぎのため路上で音楽を演奏していたところ、それを見かけたエージェントにスカウトされた。俳優デビューは1982年。転機となったのはメガネのオタク少年を演じた1985年のSFキッズムービー『エクスプロラーズ』だ。これで一躍注目されたリヴァーは、その翌年に早くも最初の当たり役と巡り合う。カミング・オブ・エイジ映画の傑作『スタンド・バイ・ミー』のクリス役だ。内気で大人しい主人公ゴーディの大親友で、正義感が強くて仲間想いのガキ大将。それでいて、恵まれない家庭環境にコンプレックスを抱え、大人たちから不良扱いされることに深く傷ついている。そんな逞しさと繊細さを兼ね備えた個性は、以降も彼の持ち味となっていく。
ハリソン・フォードの息子を演じた『モスキート・コースト』などを経て、1988年には両親がKGBのスパイだったという衝撃的な事実に翻弄される高校生を演じた『リトル・ニキータ』、テロリストとして指名手配された両親と逃亡生活を続ける少年を演じた『旅立ちの時』と、どこか似たような印象のサスペンス映画(しかも両方とも実話ベース)に立て続けて出演。中でも後者の演技が高く評価され、リヴァーはアカデミー賞とゴールデン・グローブ賞で助演男優賞にノミネートされた。
さらに、『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』では若き日のインディを演じ、『殺したいほどアイ・ラブ・ユー』ではとぼけたコメディ演技を披露。そして、この作品で初顔合わせしたキアヌ・リーヴスとのコンビで、1991年にガス・ヴァン・サント監督の名作『マイ・プライベート・アイダホ』に主演する。リヴァーが演じたのは愛情に飢えた孤独なホームレスの男娼マイク。まるで人生を諦めたかの如く荒んだ生活を送りながらも、家族の温もりを求めて自分を捨てた母親の行方を追う。そんなマイクの、ある種のふてぶてしさとガラス細工のような脆さ、キアヌ演じる親友スコットへ寄せる秘かな想いが観客の胸を揺さぶる。これでインディペンデント・スピリット賞やベネチア国際映画祭の主演男優賞に輝いたリヴァーは、名実ともにハリウッドの同世代を代表する演技派俳優へと成長した。
だが、悲劇はある日突然やって来る。1993年10月30日の夜、恋人サマンサ・マシスや弟ホアキンらと、友人ジョニー・デップの経営するクラブへ赴いたリヴァーは、そこで体調が急変。すぐさま病院へ搬送されたものの、翌31日の早朝に心不全で亡くなってしまう。享年23歳。死因はヘロインとコカインの過剰摂取。ただ、周囲の友人や家族の証言によると、リヴァーは時々仲間とドラッグを使用していたものの常習者ではなく、大勢の人々が出入りしていたクラブで実際に何が起きたのかは未だ謎に包まれている。
振り返ってみれば、リヴァー・フェニックスは1990年代以降のハリウッド若手スター俳優のロールモデルとなる存在だった。端正で美しい容姿の中にどこか反逆児的な暗い影を秘め、いつの時代も若者が抱える孤独や屈折を演じて類稀な才能を発揮した彼は、トム・クルーズやマイケル・J・フォックスのような’80年代の王道的アイドルに飽き始めた若い映画ファンの求める新たなスター像を体現していたと言えよう。さらに、アート系インディペンデント映画への出演、社会問題やヴィーガニズムへのコミットメントなど、アイドル俳優に甘んじない彼の挑戦的な姿勢も当時のハリウッドでは珍しく、その後のジャレッド・レトーやレオナルド・ディカプリオ、ジェームズ・フランコら次世代スターに多大な影響を与えたのだ。
生きていれば今年で50歳となるリヴァー。今や弟のホアキンはオスカー俳優へと成長し、友人だったキアヌ・リーヴスやジョニー・デップもすっかりベテランの大御所スターとなった。果たして、もしリヴァーが今も健在だったらどのようなキャリアを歩み、どのような俳優となっていただろうか。(なかざわひでゆき)