声優・小林由美子「今でも緊張」2代目しんちゃん役として2年
国民的アニメ「クレヨンしんちゃん」で、2018年7月より2代目野原しんのすけ役を務める声優・小林由美子。27年間しんのすけを演じた矢島晶子からバトンを引き継いで2年以上の月日が経ち、劇場版28作目『映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』で二度目の劇場版出演を果たす。抜てきされた当初は「みなさんに親しまれているしんちゃんのイメージを壊したくない」とプレッシャーに悩んだものの、周囲に支えられながら「今は楽しく挑んでいる」とほほ笑む小林。大役に向き合う思いと共に、「子育てがもっと楽しくなった」という母親としての変化までを語った。
地上のラクガキをエネルギーに浮かぶ王国“ラクガキングダム” のエネルギー不足による墜落の危機からしんのすけが世界を救うべく立ち上がる姿を描く本作。小林にとっては、しんのすけの両親・ひろしとみさえの新婚旅行をつづった前作『映画クレヨンしんちゃん 新婚旅行ハリケーン ~失われたひろし~』に続いて、2度目の劇場版。
「前作は私がしんちゃん役を引き継いで、初めての劇場版でした。父ちゃんと母ちゃんの背中を見ながら、しんのすけが物語を盛り上げていくという内容だったので、アフレコでも父ちゃん(森川智之)と母ちゃん(ならはしみき)の背中を見ていたんです」と振り返り、「劇場版の1発目としては、ものすごくありがたい内容でした」としみじみ。
「今回は父ちゃんと母ちゃんのもとを離れて、しんのすけが1人で冒険に出て行く。しんのすけ役としての“独り立ち”のようでもあり、1作目、2作目ととてもいい流れに乗せていただいた。アフレコでは後ろに父ちゃん、母ちゃんがいてくれると思うだけで心強くて。やっぱり父ちゃん、母ちゃんはカッコいい!」と目を輝かせる。
神谷浩史から受けた激励「小林なら大丈夫」
本作には、シリーズにおいて熱い支持を集めている“救いのヒーロー”ぶりぶりざえもんも登場。しんのすけと冒険を繰り広げる。2000年に初代ぶりぶりざえもん声優の塩沢兼人さんが逝去。16年間の封印を経て、2016年から神谷浩史がぶりぶりざえもん役を引き継ぎ、本作は“神谷版ぶりぶりざえもん”の銀幕デビュー作となる。小林は「他の現場でお会いしたときも、神谷さんは『映画、よろしくね。すごく楽しみだよ』と声をかけてくださって。私もすごくうれしかった」と『クレヨンしんちゃん』での神谷との共演に大喜び。
「ブタなのに、いい声でゲスなことを言う。そのすべてが面白いですよね。アフレコでは気を引き締めていながらも、思わず笑ってしまいそうになるときもありました(笑)。クライマックスで鳥肌の立つ瞬間もあって、もっとぶりぶりざえもんが好きになった。さすが神谷さんだなと。ひどいことを言いながらも、なぜか憎めないというキャラクターって、演じる上ではとても難しいと思うんです。でも神谷さんはそれを自然に演じられていて、なによりも神谷さんご自身がぶりぶりざえもんをものすごく愛していることが伝わる。キャラクターの捉え方、愛情の持ち方もとても勉強になりました」
“2代目しんのすけ”として歩み始めた頃には、「私がしんのすけの2代目に決まったという報道が出た後に、神谷さんとお会いすることがあって。『小林なら大丈夫だよ。がんばれ』と言ってくださいました。すごくうれしかった」と親交のあった神谷からも、力強い言葉をもらったという。しんのすけを演じることについて、「今でも緊張するし、不安もある」と告白する小林。「抜てきしていただいて、1回目のアフレコが近づいてきた時期はほぼ眠れなくて、なぜか目が覚めてしまう。ガチガチでしたね」と述懐する。
“自分なりのしんちゃん”を作っていけたら
のしかかったプレッシャーは、やはり大きなものだった。「みなさんに愛され、親しまれているしんちゃんのイメージが根強くあると思うので、それを引き継ぐプレッシャーは大きかったです。初期の頃は“声”のことばかり気にしてしまって、うまくお芝居につなげることができない苦しみもありました」。
突破口となったのは、アフレコ現場の温かな空気だ。「スタッフさん、キャストのみなさんがものすごく温かい。アフレコ初日は『待っていたよ』『ようこそ』と声をかけてくださった。そのおかげで、少しずつ緊張が溶けていったように思います。そんなみなさんに囲まれて、本当に幸せです」と周囲に感謝しきり。
年月を重ねるごとに責任感が増しているそうで、「街中でも常にしんちゃんのポスターを見かけたりと、『皆さんの中にしんちゃんが浸透しているんだ』『すごいキャラクターだ』とひしひしと感じています。だからこそ、もっともっと楽しい『クレヨンしんちゃん』を届けていきたい」とキッパリ。「これまでのしんちゃんを大事にしつつ、自分なりのしんちゃんを作っていけたらと思っています。そのためには、私自身も楽しくアフレコに臨みたい。その楽しさって、きっと観ていただく方にも届くと思うんです」と覚悟を語る。
そのあふれるほどの“楽しさ”こそ、本シリーズの根幹だ。2児の母親でもある小林だが、いつもにぎやかな野原一家を見つめることで、「子育てがもっと楽しくなった」と母としての変化を吐露する。
「うちの娘も、しんちゃん並みに自由ですから(笑)。朝から『起きろー!』と怒鳴り散らしています。“ああ言えばこう言う”という感じで言い返してくることもあるのですが、みさえとしんちゃんを見ていると、娘とのやり取りもネタのように感じるようにもなって。楽しく捉えられるようになりました。また私は結構、前しか見えなくなるタイプなので、『子育てとはこうあらねば!』という感じになりがちだったんです。でもみさえのように、たまには手抜きもいいかと思えたりして。思い詰めることもなくなったような気がして、元気ももらえるし、すごく救われています」
笑顔いっぱいにしんのすけを語る姿からも、充実感と役柄への愛情が伝わる。一番の力となるのはファンの存在。「『しんちゃんを見て元気が出た』と言っていただくと、すごくエネルギーをもらいます。『私の方が元気をもらいました!』と言いたいくらい。そういう方々の声を聞くたびに、『全力で楽しませたい』と感じています」。(取材・文:成田おり枝)
『映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』は9月11日公開