『TENET テネット』音楽にノーラン監督の呼吸音を使用
クリストファー・ノーラン監督最新作『TENET テネット』で、数多くの作品でノーラン監督とタッグを組んできたハンス・ジマーに代わって音楽を手掛けたルートヴィッヒ・ヨーランソンが、先月行われた記者会見内で、スコア制作の裏側を明かした。
本物の飛行機が大クラッシュ!『TENET テネット』スポット映像
『ブラックパンサー』でアカデミー賞を受賞したルートヴィッヒは、映画音楽のほか音楽プロデューサーとしても活躍する気鋭の作曲家。ノーラン監督は、初タッグとなった彼の才能を「ルートヴィッヒの音楽はゼロから作られていて、過去に見聞きした何かを想起させるものは一切なく、全てが新鮮だ」と絶賛する。
一方のルートヴィッヒは、『TENET テネット』の脚本を読んだ段階で「誰も聴いたことのないような新しいサウンドを提供しなければならない」と覚悟を決めていた。「身の回りにある音をいじって、『聞き覚えがあるのに何の音かわからない』といわれるようなサウンドを作るのが好きなんだ」という彼は、ノーラン監督の期待に応えるため、作曲の過程でさまざまなアプローチを試みたという。
「今回のスコアの大部分は、何の音かいまいちわからないギター音や周囲音だったりする。人の呼吸音なども使っているんだ。これはクリストファー(・ノーラン監督)が考えついた案で、クリストファーが自らマイクに吹き込んでくれた呼吸音を細工して、不快な音に仕上げているよ」
本作のスコア作りは、撮影開始の半年前からスタート。撮影が始まってからも3週間に一度のペースでメールでやりとりを重ね、編集段階に入ってからも、毎週末に映画を通して観る作業を「40~50回は繰り返した」という。映画の規模にかかわらず、制作の細部にまでかかわるノーラン監督との仕事をルートヴィッヒは「終始コラボレーションをしているような感覚だった」と振り返る。
早い段階で音楽制作に踏み切った理由を「私は通常、編集段階でいわゆるテンプミュージック(既存の音楽)を使わない。つまり、編集時に他の作品のサウンドを仮であてて、それを元に作曲家に指示を出すことはしない。なのでルートヴィッヒには一から音を作ってもらい、編集段階でもデモ音をそのまま使うように指示した。そうすると、ストーリー展開から逸脱したサウンドが一切ない仕上がりになるんだ。映画の世界観と音響とスコアがとても密にフュージョンする」と説明したノーラン監督。「時間の逆行」を視覚化した映像体験と共に、監督が「音色そのものが映画のDNAに織り込まれているかのよう」と評するルートヴィッヒの仕事にも注目だ。(編集部・入倉功一)
映画『TENET テネット』は9月18日より全国公開