黒沢清監督、ベネチア快挙後初の公の場 蒼井優&高橋一生とトロフィーお披露目
『スパイの妻<劇場版>』(10月16日公開)で第77回ベネチア国際映画祭銀獅子賞(監督賞)を受賞した黒沢清監督が、7日に都内で行われた同作のQ&Aイベントで受賞後、初の公の場に登壇。出演者の蒼井優、高橋一生と共に銀獅子賞のトロフィーをお披露目し、受賞の喜びを分かち合った。
本作は、今年6月に NHK BS8K で放送されたドラマの劇場版。太平洋戦争前夜を舞台に、時代の荒波に翻弄(ほんろう)される夫婦の姿を映し出す。黒沢監督は、第77回ベネチア国際映画祭コンペティション部門で日本人としては17年ぶりの快挙となる銀獅子賞を獲得。蒼井、高橋と共に生配信で視聴者からのQ&Aに答える機会となった。
今回の受賞を「ラッキーだった」と語る黒沢監督は、「(コンペティション部門に)選ばれただけで十分幸せでしたし、満足していましたけど、おまけでこのような賞をいただけたということで。実感がなかったんですが、数日前にトロフィーが届きまして。何やら映画の歴史に名前が刻まれたんだなと。そういう感慨が、これを見ると湧いてきますね」と誇らしげにコメント。
主演の蒼井も「人生でトロフィーをこんなに近くで見ることなんてなくて。触れる距離にありますけど、全然触ろうと思わない。すごい圧があるなと思います」と感慨深げ。高橋も「同じくですね。ここにあるのがちょっと現実感がないんですよ。ただ見た感じ、非常になめらかだなと思いました」と感激していた。
黒沢監督はこれまでにも度々『岸辺の旅』『散歩する侵略者』など夫婦の物語を描いているが、司会者から「最近、夫婦の物語が多いようですが、ご自身の実体験はあるんですか?」と質問されると「それはないと思います」とキッパリ。と言いつつ、「でも確かに夫婦の話は多いですね。それはものすごくシンプルで、共同生活をしていても、でも他人なので知らないところもある。そういった関係性が、ミニマムに映画のサスペンスとして創造力をいろいろと生むんです」と映画で夫婦を描く醍醐味を述懐。「うちも夫婦ふたりですが、ほとんど僕の映画に出てくる夫婦には子どもがいないんですね。いる場合もありますが、ドラマとしてどう描いたらいいのかわからないんです」と続けると、「あとキャスティングをしやすいということもあります。日本のトップの男優、女優を使うには夫婦という設定だとやりやすいですからね」と映画制作における現実的な事情にも触れた。
最後のメッセージを求められた高橋は「ポスターにもある通り、ミステリーでもありますが、観る方によってはいろいろな捉え方ができる映画だと思います。この時代のもと、何か不穏なものが忍び寄ってきたりといったことを感じられる映画ではありますが、根幹にあるものは“人が人を思うこと”だと思うんです。人間的に生きていくために、根源的なテーマがところどころにまぶされている映画なんじゃないかなと思っているので、そういったところも感じていただけたら」とコメント。
蒼井は「この映画、人によっては多分ホラーより恐ろしい映画だと思います。夫婦の話でありながらもミステリーであり、とにかく謎がたくさんあって、見た方の数だけ答えがある作品だと思うので、ぜひご覧になって、ぜひ劇場でこの映画の面白さと恐ろしさを楽しんでいただけたら」と呼びかけた。
黒沢監督は「ここにいる、ものすごい二人の俳優が、時代の中でどのような運命に翻弄されていくのか、どうやってそれを乗り越えていくのか。すさまじい芝居を見せてくれます。時にものすごい剛速球、変化球が次々と飛んできますので、覚悟してご覧になってください。しかし見終わってから、飛んできた剛速球に傷つくことはないと思います。必ず心に刺さるものがあると思うので、どうか真正面から受け止めていただけたら」と蒼井、高橋の演技力をアピールした。(取材・文:壬生智裕)