勝地涼、10キロ減量の肉体改造 「自分を重ねた」ボクシング映画で完全燃焼
『百円の恋』の武正晴監督&脚本家・足立紳のコンビが、約6年ぶりにボクシングを題材にした映画『アンダードッグ』(11月27日より前編・後編同日公開)で、ボクシングの世界に足を踏み入れる崖っぷちの芸人を演じる勝地涼。俳優として活躍する一方で、バラエティー番組などで場を盛り上げるトークや、笑いのセンスに定評のある勝地だが、そんな彼が「自分を重ねた」というキャラクターの裏側を明かした。
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本作は、スターダムに駆け上がっていく選手たちの陰で“かませ犬”として踏み台にされる晃(森山未來)、児童養護施設で育った天才若手ボクサーの龍太(北村匠海)、テレビ番組の企画でボクシングの試合に挑む芸人の宮木(勝地)、三者三様のボクサーの人生が交錯する物語。前編では晃VS宮木、後編では晃VS龍太の対決が描かれる。
光と影を併せ持つ崖っぷち芸人に共感
勝地演じる宮木は、大物俳優の父親(風間杜夫)からは見放され、空虚な日々をごまかすかのようにパーティーに明け暮れる売れない芸人。そんな折、とあるテレビ企画でプロボクサーの晃との試合が組まれ、芸能界引退を懸けた勝負に挑むこととなる。宮木は、芸人仲間の前ではおちゃらけているが、時折見せる虚ろな表情が印象的だ。そんな宮木に共鳴する部分があったという勝地。
「僕は役者なので、芸人としての気持ちはわかりません。でも、カメラが回れば未知の分野であっても飛び込まなければならない瞬間があるのは同じですし、自分が得意とするものが評価されるかはわからないというのも同じで。僕は10代から役者をやらせていただいていますが、その時に自分が思い描いていたような役者になっているかと言ったらそうではなかった。よく、いろんな方から器用に現場の空気を読みすぎると言われるのですが、ある時『それを続けていたらいつかこの世界にいられなくなるよ』と指摘されたことがあって。これまで僕は『あまちゃん』の前髪クネ男のような、明るいキャラクターを演じさせていただくことが多かったのですが、そうすると僕自身もそういうイメージだと思われるようになって、バラエティー番組などでも変にリップサービスしすぎてしまうところがあるんです。僕自身は実際に明るいバカですし、もちろん明るいキャラクターを演じるのは楽しいですが、それ以外の“何か”も見つけなければと模索しています。実像と乖離していることのつらさみたいなものは宮木にも共感するところがありました」
ボクサー役のため減量を経て肉体改造
プロボクサー・晃VSお笑い芸人・宮木の試合において、誰もが宮木の惨敗を予期する中、周囲を見返したい宮木は必死にボクシングに取り組み、心身ともに変化を遂げていく。そのため勝地も昨年の秋頃からトレーニングを開始し、肉体改造も行った。「ボクシングジムに通い始めて、初めは64、5キロから68、9キロぐらいまで増えて、大きくなりすぎてしまったんです。それではボクサーらしくないので、食事制限で最終的に10キロ落としました。体が大きくなるぶんにはいいと言われましたけど(撮影に入る)ギリギリになっても大きくなっている状態で、そこから絞るのは結構大変でした」
撮影において勝地にとって最大の試練が、ボクシングにおいて殴られる芝居をすること。もともとキックボクシングを習っていたためスムーズに撮影が進むと思いきや……。「キックボクシングをやっていたので防御など、ある程度のベースはできていましたが、殴られる練習はしないのでそれが難しかったです。まさかこんなにボコボコにされる役柄とは思っていなかったので(笑)。役作りのためにボクシングジムに通ったのですが、殴られるときに体が反応してしまうんです。次はこうくると構えてしまう。それをなくすのが一番難しかったです」
勝地涼を支え影響を与えた人物たち
そんな勝地を鼓舞したのは、お笑い芸人でありながらプロボクサーのライセンスを取得した山本博(ロバート)の存在。劇中、宮木のボクシングジムの先輩を演じており、彼だけが唯一、宮木の勝利に可能性を見いだし、頼れるパートナーとなっていく。
「劇中の関係のみならず、撮影においても大きな支えになっていました。芸人さんでありながらプロボクサーを目指された山本さんに『何があったのですか?』なんてとても聞けなかったですけど、きっかけになる切実な何かがあったのかもしれませんし。宮木と同じように悔しい思いをされたこともあると思うのですが、試合に出て勝って……カッコいいですよね。あの方がいたから『勝地はちゃんと練習しているな』と感じてもらえるようにしたいと頑張れました。『ここまでやったのって大変だったでしょ?』と言ってくださったときは本当にうれしかった。未來くん演じる晃との試合は2日間かけて撮影しましたが、もうやりたくないです(笑)。燃え尽きました」
勝地にとって、山本演じるジムの先輩のように支えとなり影響を与えた人物は多くいるという。勝地の初舞台「シブヤから遠く離れて」(2004)に始まり、「KITCHEN キッチン」(2005)「カリギュラ」(2007)「ボクの四谷怪談」(2012)などで組んできた、演出家の蜷川幸雄さんもその一人だ。
「蜷川さんは亡くなってからも意識してしまう存在です。例えば、蜷川さんの舞台を観に行ったときに廊下でばったりお会いすると『おまえ今太ってるな』『たるんでるな』とか、はっきりとおっしゃる。つまり、僕があまりいい状態ではないということを指摘してくださるんです。だから今でも、今の自分を蜷川さんがご覧になったらどう思われるだろう、と考えます。でも、これまでお世話になった方は皆そうですね。阪本順治監督は10代の僕を映画(『亡国のイージス』)の世界で使ってくださった方。20代後半のときにお会いした時に『今はまだいいよ。でも30代に入ってその感じの仕事の仕方だったら俺は怒るよ』と。僕の何を見て怒っているんだろう……と考えたりして。いつかお世話になった方たちにまた使っていただけるように、と思いながら役者を続けているところはあります」
20年来の仲間・森山未來から祝福の言葉
映画『アンダードッグ』の宮木は、おそらく多くの涙を誘う胸アツのキャラクター。勝地の光と影の両面を集約したかのような集大成的なキャラクターとも言える。勝地自身も「やりきった」と充実した表情を見せるが、それをダメ押ししたのが20年来の役者仲間である森山未來だ。
「未來くんと初めて共演したのは『さよなら、小津先生』(2001)というドラマだったのですが、その時から彼は自分にないものを持っている人だと思っていました。未來くんとはその後も共演していますが、僕が役を演じるために頑張っているなか、彼は舞台の全体を見ながら憤ったり、こうしたらもっとよくなるという意見を持っていて、レベルの差を痛感していました。それは彼にできることで僕ができることではないから戦おうとは思っていなかったですけど、彼はダンスをやったり海外に行ったり、常に自分が歩んでいる道の斜め上を進んでいた。ある時、違う作品で試写の後に『勝地、もうちょっとやれたんちゃうか』と言われて。悔しいけど図星で言い返せませんでした。だけど、今回の作品では試合のシーンで彼とぶつかり合うことができて、試写を見終わったときに『よかったで。本当に』と言ってもらえた。それだけで『よし、やった』と」
終盤のシーンではほとんど意識がなかったというほど全身全霊で演じきった勝地。森山演じる崖っぷちボクサー・晃との対決は最後の一瞬まで目が離せない名シーンとなっている。(編集部・石井百合子)
スタイリング:上井大輔(demdem inc.)ヘアメイク:晋一朗(IKEDAYA TOKYO)