「仮面ライダーゼロワン」オンリーワンのスーツ秘話!目指した変化と原点回帰
人気特撮「仮面ライダーゼロワン」が、放送終了から約4か月を経て『劇場版 仮面ライダーゼロワン REAL×TIME』の公開を迎えた。コロナ禍を乗り越えて1年を駆け抜けた、令和初のライダーが挑んだ試みを、デザインの観点から、チーフプロデューサーの大森敬仁、商品企画担当の井上光隆(バンダイ)、デザイン担当の山下貴斗(プレックス)が振り返る。
仮面ライダーゼロワンは、AI企業・飛電インテリジェンス社長の青年・飛電或人(ひでん・あると)が、変身ベルト・飛電ゼロワンドライバーとプログライズキーを使って変身する仮面ライダー。基本形態となる「ライジングホッパー」は、黒いボディーを蛍光イエローの装甲で覆ったスマートなシルエットが特徴だ。
新時代の幕開けを飾る令和の1号ライダー。プロデューサーの大森をはじめ、チームがデザインに求めたのは「変化」だった。「全員がその意識を持っていました。平成ライダーに関わっているメンバーも多かったので、そこから変えていこうと。プレッシャーみたいなものは全くなくて、ワクワクしながら楽しんで取り組みました」(大森)
チームが最初に取り掛かったのはシルエットの一新。ライダー関連の商品化にも携わる井上は、「ゼロワン」のデザインが、通常とは違うプロセスをたどったと明かす。「通常ならば一番大事な変身ベルトのデザインを最初に提案させていただくのですが、今回は外側(ライダー)から取り掛かりました。昭和とも平成とも違うシルエットにして、これからのスーツのあり方についても、一から考えていこうとなったんです」。
大森いわく、平成ライダーはスーツに甲冑をかぶせるようなスタイル。しかし「ゼロワン」では、スーツと装甲がより一体となるデザインが採用され、スリムなイメージが出来上がった。これまで数々のライダーをデザインした山下にとっても、ゼロワンは挑戦だったという。
「(前作の)『ジオウ』で、モチーフを誇張するというデザインプロセスはやりきったと感じていました。だからゼロワンでは、あえて正攻法ではない”シルエットや素材感から考える”というデザインプロセスで進めました。例えばマスク。ヘルメットではなく生地に仮面が着いているので、これまでよりずっと小さく見えるんです。もともとは頭身を高く見せるためにやったのですが、結果的に『仮面』というものの再解釈にもつながった。他にもスタイルの刷新感を出す為の視覚効果を随所に散りばめてデザインしました」
さらに井上は「甲冑ではないけど、何かしら硬質感はあるという絶妙なバランス。すごくスリムで未来感もあり、いけるなと思いましたね」と明かす。斬新な蛍光イエローの装甲も変化のひとつ。「蛍光イエローはトレンド感もあり、子供向けの市場でも広く受け入れられていましたね」(井上)ということだが、山下は「それでも蛍光色は、媒体によって色が振れてしまうので実は難しい色なんです。ですが、明るく未来感のある蛍光イエローは新時代の仮面ライダーにふさわしいと思い、挑戦しました」と明かす。
こうした変化の一方で、デザインモチーフはライダーの原点であるバッタが採用された。「いつもモチーフは『仮面ライダーです』って最初に伝えて(笑)、そこからやっぱりモチーフがほしいとなるんですが、今回は、仮面ライダーとは何だろうとあらためて考えたら、やはりバッタとなった。そこで平成主役ライダーのモチーフをリスト化してみたら、バッタは平成ではやってなかったんです」と大森。山下も「モチーフを原点回帰させる事で、逆にシルエットや素材感の新しさを強調できると思いました。“今”バッタのライダーをやったらどうなるか、自分でも楽しみでしたね」と続く。
こうして生まれたゼロワンは、本作から主演スーツアクターに就任した、縄田雄哉だけがなれるライダーになったという。「マスクが小さいので、縄田さんじゃないと着られない。縄田さんは実際にすごく顔が小さいんです。本当に、あの人にしかなれないライダーになりました」という山下。井上も「誰も代わりができないなか、1年間、大きなケガもなく走り続けていただけた」と振り返る。
「演じる上でゼロワンは軽くていいと仰ってました。これまで甲冑で隠れていた部分の”遊び”がなくなってキツい側面もあったそうですが、軽さを活かしたアクションを追求できると。最終フォームまでこの方向性を貫きたいですねと話した事もあったので、ゼロツーまで全うできて良かったです」(山下)
「これまでと変えようという意識はありましたが、僕ら製作陣にとっては、『ジオウ』が終わった次の週には『ゼロワン』が始まるので、そこは地続きの感覚なんです」と振り返る大森。だからこそ、作品を支えてくれた人々に心から感謝している。「だから『ゼロワン』が跳ねることができたのは、間違いなく監督の杉原輝昭さんと渡辺アクション監督、そして縄田さんのおかげだと思います。毎回シリーズをやる時は、脚本にしろ監督にしろ、新しい人を入れることが多いんですけど、それが今回、いい形で出てくれましたね」(編集部・入倉功一)
『劇場版 仮面ライダーゼロワン REAL×TIME』『劇場短編 仮面ライダーセイバー 不死鳥の剣士と破滅の本』は全国公開中