のんが監督を驚かせたシーンとは?『私をくいとめて』で怒りの表現力発揮
芥川賞作家・綿矢りさの小説を映画化する『私をくいとめて』(公開中)で、約6年ぶりに実写映画で主役を務めるのん。脳内の相談役「A」と対話しながら生活する31歳の独身女性にふんし、驚くような表情を見せるのんについて、大九明子監督がとりわけ印象深いシーンを語った。
本作は、大九監督がロングランヒットを記録した2017年の映画『勝手にふるえてろ』に続いて2度目の綿矢作品の映画化に挑戦。困ったことがあれば「A」に相談する31歳の主人公・みつ子の気ままなおひとりさま生活は一見ほのぼのとして見えるが、一人の時間に慣れ切っていたために恋をしてもどう相手と接していいのかわからず、恋愛の運びは不器用極まりない。また親友の皐月(橋本愛)はイタリアで結婚し、出産を控えていて、みつ子は内心取り残された寂しさを抱えていたりもする。
演じるのんといえば、朝ドラを筆頭にはつらつとした、浮世離れしたイメージが強いが、これまで新垣結衣、松岡茉優、片桐はいり、黒川芽以、松雪泰子、安達祐実ら名だたる女優陣を輝かせてきた大九監督のもと、本作ではガラリと変わった切実な表情を見せる。その最たるシーンの一つが、一人旅で向かった温泉宿のシーン。ここである不愉快な光景を目にしたみつ子は、旅行から戻るなり「A」にトラウマを告白。その様子はまさに壮絶だが、大九監督はこのシーンについて以下のように話す。
「のんさんは怒りの表現が見事で、あんなに柔らかい空気を漂わせていながら、内側に高温のマグマみたいなものを持っている人だと思います。温泉宿のシーンは素晴らしかったです。のんさんご自身もシナリオを読まれた時に、あの場面をすごく気に入ってくださって、初対面の時からあのシーンをうまくやりたいとおっしゃっていて。特に『わたし、絶対腹割ってやんなかった』というセリフが、僭越ながらわたしが悪態ついているときにソックリだったんです(笑)。編集していたときに『うわぁ』と驚きましたね。あとは、酔っぱらっているシーンにもハッとさせられました」
さらに、のんは「職人」だとも。「きちんと考えて組み立ててきて、かといってがちがちではない。現場でとっさに言ったこととか、ちょっと作りこみすぎて堅いときとかは一言いっただけで、すっと対応してくださるんです。滑舌はご愛敬として(笑)。あえてかんじゃった方を使ったりしています。例えば『なんじゃそりゃ』が『なんじゃそら』になったとき、もう一テイク撮ったんですけど、全体をつないでみたらそこだけきれいに見えている必要はないのではないと思って『なんじゃそら』の方を残しました」
撮影を通して、のんの印象が「変わった」という大九監督。「強いし、言葉の通じるプロというか。お仕事をご一緒してみて、同志という感じがしました」と女優としての才能を称えていた。(編集部・石井百合子)