「セーラームーン」うさぎ役は使命 声優・三石琴乃が歩んだ約30年
90年代、女の子たちを夢中にさせた武内直子のコミック「美少女戦士セーラームーン」。アニメ版で主人公の月野うさぎを演じた声優・三石琴乃は、20年の時を経て新たに製作された新シリーズ「美少女戦士セーラームーンCrystal」(第1~3期/2014年~2016年放送)に、唯一のオリジナルキャストとして出演。変わらぬ明るい声で、作品を支えた。その続編にあたる劇場版「美少女戦士セーラームーン Eternal」が、1月8日と2月11日に前・後編で公開される。「月野うさぎを演じることを使命として、とことんやり切りたい」とまっすぐに語る三石。30年近く「美少女戦士セーラームーン」と歩んできた彼女だけが知っている、愛と正義と使命の物語について聞いた。
原作の第4期、通称<<デッド・ムーン>>編のストーリーとなる劇場版「Eternal」。本作では、スーパーセーラームーンの持つ幻の銀水晶を奪い、美しい地球と月の征服を目論む敵組織デッド・ムーンと、セーラー戦士たちとの戦いが描かれる。新月の女王ネヘレニアや、デッド・ムーンサーカス団、ペガサス/エリオスが登場する、原作でも人気の高いエピソードだ。
三石を除き、キャストが一新された新シリーズ「Crystal」が始動した際、スタッフから「三石さんは、『セーラームーン』の遺伝子として、作品にいていただきたいです」と言われたという。自身のなかでも、初代の「セーラームーン」とは別作品と捉え、「うさぎちゃんの基本的なベースは変えず、新たなキャストと一緒に、ゼロから作品を作り上げていこうという気持ちで臨んでいきました。そうやってひとつひとつ積み上げていくことで、大きなお城ができたらいいなと思っていました」と新シリーズとの向き合い方を語る。
うさぎは「私にとっても愛と正義のヒーロー」
長く携わってきた作品やキャラクターへの想いを聞くと、「素晴らしいご縁」と一言。そして「そのご縁に私がお返しできることは、セーラームーン/月野うさぎを演じきること。今は使命として、とことんやり切りたい」と力強く続けた。三石の声優人生においても、「この作品とこの役がなかったら、今こうして声優をやれているかわからないくらい、大きな存在。私にとっても愛と正義のヒーロー」だという。「こんなにも長く、たくさんの方に愛される作品に参加することができたというだけで、自分を肯定してくれるものがある。どんなときでも『頑張っていこう』と自分の背中を押してくれる作品です」
2000年代半ばから、アニメ業界では1クール(3か月間)作品が主流となっている。90年代当時、約5年にわたり大人気アニメの座長を務めた三石に、改めて役を背負う重みや責任感について聞いた。「テレビシリーズ1年目の後半で病気になってしまい、アフレコをしばらくお休みしたことがあったんです。そのとき思ったのは、声優というのは、代わりはいくらでもいるという世界だということ。だったら、ご縁のあった役を私なりに深く魅力的に演じよう。ただ演じるだけじゃなく自分らしさも入れて、数時間という短いアフレコの時間内に演じきらなければと強く思った」と話す。1年目での苦い経験が、三石や「セーラームーン」を、より強く輝かせたのかもしれない。
また、当時は声優の芝居をシナリオライターや監督が取り込み、シナリオに反映することもあったという。「そうやってキャラクターが勝手に動くようになると、より魅力的な作品になっていくんです。1クールといわず、以前のように長く演じられる環境があれば……」とも。「声優は魅力的な仕事ですが、難しい仕事」と話すその言葉は、時代や求められるものの変化に柔軟に対応し続けてきた三石だからこその重みあった。
きっとまた日は昇ると信じたい
劇場版「Eternal」のテーマは、夢。「今夢を追いかけている方も、そうでない方も、昔『セーラームーン』を観ていた方も、今回が初めてという方も、エネルギーをもらえる作品」と自信を込めて話す。セーラー戦士たちの夢や葛藤が描かれた本作を通じて、「『自分は自分で思っているほど、悪くないんだ』と気付くはず。他でもない自分自身が、誰よりも点数を低くしてしまっているだけ。周りから見たら、みんな立派に頑張ってるってことに気付いてもらえたらいいですね」とほほ笑んだ。「ピンチのとき、『じゃあどうしよう』と一歩踏み出して、闇を打ち破る力を彼女たちは持っています。映画を観た方には、きっとそんな彼女たちのエネルギーが伝わるんじゃないかな」。
前編は、皆既日食が起きることから始まる。闇に乗じて地球にやってきた敵組織デッド・ムーンの魔の手から、セーラームーンたちは地球を、大切な人を守るために立ち向かっていく。偶然にも、世界が不安という薄暗い闇に覆われている今、セーラー戦士たちが放つ光は、より力強く観る者に届くのではないだろうか。「最前線で戦っている方々がたくさんいると思います。セーラー戦士のように、それぞれが自分にできることを頑張って、それぞれの役割を果たしていけば、きっとまた日は昇ると信じたいですね」。どんなピンチのときも、絶対にあきらめない。それがセーラームーンなのだ。
セーラー戦士たちの成長がメインとなって描かれる前編に続き、2月に公開となる後編では、いよいよ敵組織デッド・ムーンを率いる新月の女王ネヘレニアと対峙することに。「うさぎちゃんは、仲間の戦士やまもちゃん、ちびうさたちと一緒に地球を救うことになります。とは言っても単純に“戦う”のではなく、『セーラームーン』らしい表現で描かれているのがポイントです」
セーラームーンの戦いは、敵を倒すことではなく救うことだ。「うさぎちゃんは、ドジでマヌケで泣き虫で、仲間に助けられてばっかりな子。でも誰かを守るという大事な場面では、ものすごいパワーを発揮する子なんです。絶対的な味方になってくれるという安心感がある。苦しんでいたり悲しんだりしている人がいれば、それがたとえ敵だったとしても救おうとしてしまう」。だからこそ、「子供たちにとっては、絶対的な安心感をくれる存在として響いたんだと思うんです」と本作最大の魅力を語る三石。
最後に「Eternal」の見どころを聞くと、ちびうさとエリオスの淡い恋や、甘えん坊だったうさぎの成長、外部太陽系戦士たちの再登場、衛の活躍などなど、次々と飛び出して止まらない。「前編後編あわせて、絶対に観てほしい!」と茶目っ気たっぷりに笑うその目は、確かな愛と正義と使命感のエネルギーに満ちあふれていた。(取材・文:実川瑞穂)