西川美和監督、役所広司に17歳の時から憧れ
西川美和監督が28日、丸の内の日本外国特派員協会で行われた映画『すばらしき世界』(2月11日公開)試写会&記者会見に登壇。17歳の時から憧れ続け、本作の主人公にオファーした役所広司を「映画の神様が贈ってくれた天使のよう」と称えた。
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本作は、『ゆれる』『永い言い訳』などの西川美和監督が、佐木隆三の小説「身分帳」を原案に描いた人間ドラマ。原案の舞台を約35年後の現代に置き換え、13年の刑期を終えた殺人犯(役所)の出所後の日々を描く。西川監督は17歳の時に観た役所主演のドラマ「実録犯罪史シリーズ/恐怖の24時間 連続殺人鬼 西口彰の最後」(1991)が印象に残り、それ以来、役所が憧れの存在となった。
西川監督は、役所にオファーした経緯を「今回は佐木隆三さんの小説を映画にするにあたり、1年くらいリサーチを行ってから脚本を書くことになったんですが、その段階でついに役所さんにオファーをさせていただきました。前向きに検討します、いい脚本を待っています、というお返事をいただいて。役所さんをイメージして第一稿を書きました」と説明。役所も完成した脚本を読んで「やります」と乗り気だったという。
それだけに「17歳の自分としては、自分が役所さんを演出するような立場になるとはとても想像しなかったと思いますね」と笑う西川監督。「カメラの前に立つと、(主人公の)三上正夫がいるという感じ。自分がセリフを書いたことも忘れて、役所さんの言葉に胸を打たれるようなカットがいくつもあったと思います。しかも硬軟自在でコミカルなシーンから非常にバイオレントなシーンまで、ありとあらゆるものを使い分ける。日本の俳優の最高峰だとしみじみ感じました」とその思いをせつせつと語る。
さらに監督としてのみならず、女性として見た役所の魅力について質問された西川監督は「女性だけじゃないですよ、役所さんにほれるのは。男性も女性もとりこになるというか。性別を超えて、映画の神様が贈ってくれた天使のようだと、わたしたち全員が思っていました」と回答。続けて司会者が「(入れ墨が見えるように)服を脱ぐシーンが多かったが、これは監督の意図ですか?」という質問を投げかけると、「原作通りですよ。でも役所さんも裸が多いなと言っていましたけどね」と笑っていた。
映画を鑑賞した記者からは「この映画は何らかのメッセージを伝えたいように感じたが」という指摘も。それには「映画化にあたり、たくさんの元服役者、そして彼らを受け入れる方、更生を手助けする方などにお話を聞きました。公的には更生のシステムを整えようという動きがあるが、一般の人の間では、道を外れた人に対して懲罰感情が高まっている気がして。取材を重ねるごとにやり直しがききづらい社会だなと感じました」という西川監督。「そういう中で佐木さんの原作には、人と人とのつながりが犯罪の抑止力になるんだなということが心に残ったので、そうしたサポートを描く映画にしたいなと思いました」と本作への思いを語った。
本作はシカゴ国際映画祭で観客賞、最優秀演技賞(役所広司)を受賞したほか、トロント国際映画祭に正式出品された。コロナ禍で公開を迎える心境を「一度も海外の映画祭に行けぬまま公開を迎えることになるのは、わたしにとっても初めての経験となります」と語り、「ですから、こうやって外国のメディアの方々にご覧になっていただく機会となって。わたし自身も刺激になりました」と外国人記者たちに感謝を述べた。(取材・文:壬生智裕)