テスラとエジソンが協力できていたら?『テスラ エジソンが恐れた天才』監督&イーサン・ホークが語る
映画『テスラ エジソンが恐れた天才』のマイケル・アルメレイダ監督(61)と主演のイーサン・ホーク(50)がインタビューに応じ、不遇の天才ニコラ・テスラを描く本作にどう取り組んだのか、そして印象的な“もしも”のシーンに込めた思いを明かした。
人々の思考の先をゆく天才発明家でありながら、研究一筋の繊細な心は実業界や社交界とは全く合わず、孤独に転落していったテスラの半生を描いた本作。アルメレイダ監督がテスラに魅了されたのは16歳の時で、最初に彼についての映画の脚本を書き上げたのは22歳の時だ。「並外れた人物の映画なら、その映画も“普通”にすべきではない」という考えの下、登場人物が当時はまだないインターネットでテスラを検索するシーンをはじめ、遊び心あふれる奇抜な演出&ビジュアル表現でテスラという人物をひもといていく本作だが、そうした要素は当時の脚本にはなかったものだとアルメレイダ監督は言う。
「最初の脚本は野心的ではあったが、もっとストレートな感じだった。そこから進化して、テスラと他者との関わりを見せるために、彼の時代に生きた他のキャラクターたちを含めることにしたんだ。そうして、より柔軟なビジュアルスタイルが生まれた。僕たちは今や、インターネットを通して歴史についてたくさんのことを知っているわけだけど、テスラは先んじてインターネットを想像していた。その気付きが、この映画がどのように語られるべきかということに影響したんだ。それは歴史の真実を得るのがいかに難しいかということも反映しているし、(製作費の問題などの)実際的な側面もあるけどね」
イーサンはアルメレイダ監督のこの挑戦的なアプローチ法だからこそ、本作への出演を決めたと明かす。「僕たちは『ハムレット』(2000)を共に作って以来の友人だ。だから僕には、彼がこの物語で、わかりきった普通のことはやらないだろうとわかっていた。本当に重要な人物の物語を語りたいのならば、映画が可能な全ての手段を駆使しなければならない。なぜなら、これは普通の商業的な物語ではなくユニークな物語で、そしてこれを観るのはとてもユニークな観客だから。僕たちはそのことに誇りを思っているよ」
テスラについて学べば学ぶほど、彼に夢中になったというイーサン。「だけど、彼は誰ともうまく関係を持てない人だったから、演じるのは難しかった。本質的に、人間関係がないとあまりドラマがないからね」と打ち明ける。最高の知性を持っていたテスラだがうまく人間関係を築くことができず、お金も愛も、手放さないでいることができなかった。それらが欠けていることに苦しみながらも、自ら手を伸ばそうともしなかった。
アルメレイダ監督は「この映画は、英雄的な彼の姿も、自己破滅型で人とのつながりが持てなかったという彼の姿も描いている」と語る。「僕たちの映画で描いたのは1901年までだけど、彼はそれから40年以上も生きる。彼は独りきりで少し頭がおかしくなって死んでしまった。彼のように才能のある人が、そんな風に壊れてしまうのを見るのは悲しい。常に直接的に描いたわけではないけれど、本作を観たら、彼が人々とつながることができなかったということを感じると思う。それは僕が若かった頃は気付けなかったことで、今は、そうしたことが理解できるほど十分に生きたのだと思う。非常に優れた人々でさえ、ある点では盲目になり得る、とね。もちろんその一方で、彼は現実の中に物理科学の性質を遠く、深く見通すことができた。だから彼はヒーローなんだ。この映画では、その二つの視点のバランスが取れていることを願っている。彼にのぼせ上っている“16歳の少年”もわたしの心の奥に残っているけど、もうそれだけじゃないから」
直流か交流かで対立して決別するに至ったエジソンとテスラだが、本作にはエジソンのような世慣れた人物がテスラの支えになってくれていたら? という“もしも”のシーンが出てくる。アルメレイダ監督は「あれは僕の願いだ。悲しいことに、そうはならなかったから。だけど、僕たちが撮影を終えた後に出版された『エジソン(原題) / Edison』という本には、二人は敵対関係というより、もっと人間的な関係だったという資料があった。テスラのラボが焼けた時には、エジソンが自分のラボを使うように言ったりといったね。だけど、この本を読んだのは撮影後だったから(笑)」
イーサンは同シーンについて、「すごく感動的で美しいと思った」と明かす。「なぜなら、僕たちの人生というものは、もし仲間になれる方法を見つけられていたら? 互いに理解し合えていたら? という話でいっぱいだから。二人が協力して働くというのは多分不可能だったんだろうけど、もしできたなら、それ以上に素晴らしいことなんてないよ。世界はそんな話だらけだ。互いを競争相手ではなく、仲間として見られていたら、というね。だからあのシーンの中心になるのは、競争なんてなくなればいいのにという強い思いだ。全ては全体の一部であり、僕たちは互いに競争関係にあるというのは幻想だ。ただ、僕たちにとって、そうと知るのは難しいんだよね」としみじみ語っていた。
映画『テスラ エジソンが恐れた天才』は公開中