“全員”に受け入れてもらう必要なんてないんだよ…ピクサー『あの夏のルカ』に監督が込めたメッセージ
ディズニー&ピクサーの新作映画『あの夏のルカ』(ディズニープラスにて見放題で独占配信中)のエンリコ・カサローザ監督がインタビューに応じ、同作に込めた思いを明かした。(以降、終盤の展開に触れています)
地上の世界に憧れてきた好奇心旺盛なシー・モンスターの少年ルカが、同じシー・モンスターの少年アルベルトと共に正体を隠し、イタリアの港町でまばゆいばかりのひと夏を過ごす姿を描いた本作。人間たちは自分たちとは見た目が違うシー・モンスターを恐れ、シー・モンスターもそんな人間たちを恐れてきたが、ルカたちのひと夏の冒険によってそんな関係にも変化がもたらされる。
ルカの祖母が終盤、彼の今後について「決してルカを受け入れない人間もいるだろう。だけど、受け入れてくれる人もいる。ルカは今やもう、そうした人たちをちゃんと自分で見つけられる」と語るシーンには、こだわりがあるとカサローザ監督は語る。「僕たちはこのセリフについてすごくよく考えた。なぜなら今日の世界では、外国人嫌悪をはじめさまざまな“恐れ”がある。僕たちは互いに恐れ合い、心を閉ざしている。特に今年、取り繕ったりせずにこのことを伝えるのは重要だと思った。全員が受け入れてくれるわけではないが、それでも大丈夫、何も心配しなくていいんだ。それよりも大事なのは、自分の全てを愛してくれる人々とのつながりを見つけることなんだ」
シー・モンスターは、自分は他の人たちと違うと感じている人たちのメタファーなのだという。「自分は他の人と違うと思ってしまうこともあるが、ルカは友達にそんな自分自身の全てを見せる。友情とは、そんな彼に『僕たちはそんなの気にしないよ』と言ってくれるものなんだ。他のセリフで好きなのは、ルカとジュリアが『ごめん、しゃべりすぎちゃった?』『全然そんなことない!』と言うところ。本当の自分を出すことを不安に思う気持ちもあるけれど、友達はきっと『君は素晴らしい』と言ってくれる。このメッセージは、観客に届いてほしい。現代ではとても重要なことだから。また、ルカのような好奇心は、他者への恐れも消してくれる。他の人をもっと知れば、恐れも消えるんだ」
少年時代の自分をルカに重ね合わせたというカサローザ監督。ルカの両親のように、監督の両親も破天荒だったのだろうか?
「あそこまでじゃないね(笑)。親というのは程度の差こそあれ、子供をコントロールしたがるものだ。僕の父は、僕の髪がくしゃくしゃだとなでつけてきたんだけど、僕はそれが本当に、本当に、本当に嫌だった(笑)。だからアニメーターたちに、母親がルカの髪を直すシーンを入れてほしいと言ったんだ。もちろんそこには愛があるんだけど、支配的な部分もある。僕は、親たちもそれを学ばないといけないと思った。もちろん息子を安全なところに置いておきたいと感じるのは正しいけれど、彼らはちゃんと子供を見ていない。だから父親はいつも気が散っていて、母親は過保護な感じにした。子供にはちょっと危険な冒険も必要で、昔はもっと自由があったというのは事実だね。自分を試せる自由があった。今の子供たちは自分を試す機会を得るのがどんどん難しくなってきているけれど、そうした機会はあってほしいと思っているよ」(編集部・市川遥)
映画『あの夏のルカ』はディズニープラスにて見放題で独占配信中