西島秀俊、タイの鬼才とタッグ熱望 仰天の構想明らかに
第34回東京国際映画祭
俳優の西島秀俊が6日、カンヌ国際映画祭パルム・ドール(最高賞)受賞作『ブンミおじさんの森』(2010)などで知られるタイの鬼才アピチャッポン・ウィーラセタクンとのトークイベントに登壇。長きにわたって交流を深めてきたという二人が、東京ミッドタウン日比谷内のスカイラウンジで行われた第34回東京国際映画祭「トークシリーズ@アジア交流ラウンジ」で、今後作りたいと企画している映画の構想について明かした。アピチャッポン監督はリモートでの参加となった。
独立行政法人・国際交流基金が、第34回東京国際映画祭のプログラムの一環として行う本企画は、是枝裕和監督を中心とする検討会議メンバーの企画のもと、アジアを含む世界各国・地域を代表する映画人と、第一線で活躍する日本の映画人が語り合うトークイベント。今年のテーマは「越境」。国境に限らず、さまざまな「境(ボーダー)」を越えることを含め、映画にまつわる思いや考えを存分に語り合う。
西島とアピチャッポン監督の出会いは2004年。本映画祭の市山尚三プログラミング・ディレクターが当時ディレクターを務めていた映画祭「東京フィルメックス」で出会い、食事をした二人は一緒に映画を撮ろうと約束するほど意気投合したという。
アピチャッポン監督の最新作『MEMORIA メモリア』(2022年3月4日公開)は、ティルダ・スウィントンを主演にコロンビアで撮影された作品となるが、西島はすでに鑑賞済み。西島が「本当にアピチャッポン監督が次の段階に行ったんだなと思いました。タイの森には、僕が偏愛する『トロピカル・マラディ』(2004)の精霊が宿っていると思っているんですが、コロンビアの森には何を感じたんだろうと。でも映画を観てなるほどなと思いました。そこでお聞きしたいのですが、なぜコロンビアで撮ったのですか? そしてそこで何を感じたのですか?」と質問すると、アピチャッポン監督は「『光りの墓』(2015)を撮影した後、タイは政治的に非常に混乱していて。軍の独裁主義とかいろんな課題があったときにコロンビアのフェスティバルに行ったのですが、そこで個人的につながりを感じたということです」と答えた。
「今後もタイ以外で撮影予定はあるんですか?」という西島の質問には、「次もまた南米で撮ろうと考えています。もちろんタイでもアート作品は作ろうと思っていますが」と返したアピチャッポン監督だったが、「それよりも西島さん、わたしたちの夢を実現しようじゃないですか」と呼びかけ。「ティルダさんと仕事をするのにも時間がかかりましたが、それは適した場所が必要だったんです。わたしたちは異邦人になる必要があったので、お互いにとって異国が必要だったんです。そして同じことを西島さんにも感じます。日本でもない、タイでもないどこかを探し求める旅がこれからも続くわけです」と付け加える。
もともと二人が作ろうとしていた映画とはどんな映画なのだろうか。西島が「前回、アピチャッポン監督が言っていたのが、全編雪原で、全編全裸で過ごすという企画でしたね」と明かすと、市山ディレクターも「アピチャッポン監督からセリフのない役があるので、起用できる東洋人がいないかと言われたことがあって。その時にちょうど西島さんが審査員を務めたときの『東京フィルメックス』のパンフがあったので見せたら、『ぜひ西島さんに会いたい』ということになり。それで翌年の映画祭の時に西島さんと食事をしたということです」と二人の出会いについて補足した。
その企画に非常に興味を持ったという西島が「めちゃくちゃ面白そうな企画だったんですけど、もう50なんで。雪原はキツいな……(笑)。でもやりますけどね」と意欲を見せると、アピチャッポン監督も「あの映画はやりたい。SFですからね。特に何もない場所じゃないといけない。エンディングを考え直せばまだできるんじゃないかと思います」と続ける。西島も「南米のアルゼンチンの砂漠は宇宙みたいで、耳鳴りがしそうなくらい静かな場所で。恐竜の骨が砂漠に転がっている不思議な場所。そういったところで撮ってみたいですね」とワクワクが止まらない様子だった。
その他、アピチャッポン監督の映画で印象的なテーマとなる「夢」「病院」「生と死」「精神文化」などについて語り合った二人。さらにトークの内容は、西島が主演を務めた濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』について、役者と監督の関係性、コロナ禍における映画撮影、日本文化の影響についてなど、多岐にわたった。そうしてこの日の二人の対談は大盛り上がりのうちに幕を下ろした。(取材・文:壬生智裕)
第34回東京国際映画祭は11月8日まで日比谷・有楽町・銀座地区にて開催中