“このセカ”の聖地となった茨城の映画館、超ロングラン上映に幕
片渕須直監督のアニメ『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』(2019)を2019年12月20日から超ロングラン上映を続けていた茨城・土浦セントラルシネマズが、遂に11月5日に同作の楽日を迎えることとなった。同館では『この世界の片隅に』(2016)と合わせると4年8か月に渡って“このセカ”を上映しており、ファンからは“聖地”と称されている。10月31日には片渕監督を招いてのグランドフィナーレトークイベントが行われる。
同館では『この世界の片隅に』を2017年2月18日から2019年12月19日まで上映。続いて完全版『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』を2019年12月20日から上映してきた。昨年5月のコロナ禍による緊急事態宣言では営業自粛を強いられたが、その間も無観客で上映を継続するという気概を見せ、“このセカ”ファンのみならず、映画を愛する多くの人たちを勇気づけた。
それだけに今回の上映終了は遂に力が尽きてしまったのかと懸念されたが、上映終了は配給会社側からの要望だったという。寺内龍地館長は「上映2周年を迎える12月20日まではと思っていたのですが。配給会社の事情ならば仕方がないですね」と本当は記録更新に燃えていた胸の内を明かした。
そもそも同館でのロングラン上映は、寺内館長が悲劇を強調する従来の戦争映画と異なり、戦時中の市井の人たちの暮らしにフォーカスし、その中で懸命に生きた女性の視点から戦争とは何かを考えさせてくれる同作に惚れ込んだからに他ならない。また作品の舞台となった広島県呉市同様、土浦も海軍航空隊を擁した海軍の街と似た文化や風俗を持っていたことから、地元の若い世代に街の歴史を知ってもらう契機になればという思いもあったという。
加えて寺内館長は「単館映画館の意地です」とキッパリ。「1つの作品を、これだけロングラン上映するなんて、シネコンでは絶対にできないプログラミングでしょう。まぁ、経営は厳しいですけどね」と苦笑いしつつも、独自の経営方針に胸を張る。
そんな寺内館長の魅力も相まって、“このセカ”の聖地となった同館には、北海道や四国、ロケ地の呉など全国からファンが訪れる。中には毎週鑑賞に訪れる方もいて、鑑賞回数は200回を軽く超えるという。さらに節目節目にファンから上映継続の感謝を託した花束が届き、ファンアートや関連グッズが劇場ロビーに展示され、さながら“このセカ”ミュージアムのよう。何より劇場壁には、片渕監督が来館した時に描いた主人公・すずさんのイラストまである。
寺内館長は「常連のお客様ばかりでしたからね。上映終了は寂しくなるかもしれませんが、ポスターなど展示作品は多少規模を縮小してもこのまま飾っておこうと思っています」と語っており、今後も“このセカ”ファンに寄り添い続けるという。
“このセカ”上映終了後は、北川景子主演『ファーストラヴ』など、長い間待機していた作品を順次上映。また、日中は早世した地元出身俳優・三浦春馬さんの初主演映画『森の学校』(2002)をはじめとする主演映画をロングラン上映中で、三浦春馬さんの聖地としても知られている。(取材・文:中山治美)
土浦セントラルシネマズでの『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』の上映は11月5日(金)まで。上映には、片渕須直監督の特別映像コメントが付いている。