「アバランチ」悪役で話題の木幡竜、波乱万丈の人生語る 綾野剛と久々の共演
いよいよ本日(20日)最終回を迎える綾野剛主演の月10ドラマ「アバランチ」(カンテレ・フジテレビ系、夜10時~)で、綾野演じる主人公・羽生とその仲間たちの前に何度も立ちはだかってきた、秘密組織“極東リサーチ”のメンバー・貝原を演じる木幡竜(こはたりゅう)。劇中、次々と敵をなぎ倒してきた羽生と唯一対等に渡り合った貝原役では、そのキレの良いアクションと独特の存在感で注目を集めている。元プロボクサーという異色の経歴を持つ木幡が、綾野との共演を振り返った。
綾野剛と意見を交わして作り上げたアクション
木幡の演じる貝原は初登場回の第6話で、綾野演じる羽生と直接対決。目まぐるしく攻防が入れかわる激闘が繰り広げられた。そのアクションシーンについては、事前に数時間程度、アクション・コーディネーターの和田三四郎による動きの段取りの確認を経て撮影に臨み、綾野とは撮影現場で直接、手合わせすることになった。
「綾野さんは、和田さんの作ったアクションシーンのVコン(ビデオコンテ:スタントマンが演じた完成見本映像)で事前に動きを覚えた上で、さらに現場でアイデアを出されることも多いので、実際の現場で相談しあいながら段々と動きが固まっていく感じでしたね。そのため事前に練習した動きと変わることが多く、それに対応したアイデアを求められることもあったので、僕の意見を聞いていただいた上で決まることもありました」
アクションシーンに限らず、皆が自分のアイデアや意見を言いやすい現場だったそう。それはやはり座長である綾野の存在によるところが大きかったようだ。「綾野さんはすごく視野が広くて、いろんな人の動きを見てくれていましたね。藤井道人監督とも違った立場の総監督のような感じさえして、頼もしかったです。綾野さん自身とも、例えばセリフの言い回しや動きなどについて意見交換をよくやらせていただきました」
木幡は中国で大活躍しており、中国のアクション大作にも出演している。久しぶりの日本のドラマだったこともあり、当初は出すぎたことをしないように心がけていた。現在の中国映画界は市場規模が北米を抜くほど急成長しているため、アクションを撮る際には潤沢にお金も時間もかけられる。しかし、日本のドラマではそうはいかず、俳優一人一人が意見を言うと時間がかかってしまう。今回は綾野が感情の乗ったアクションシーンを演じ切っており、現場でも限られた時間の中で最大限に創意工夫が凝らされたため、木幡も自身のアイデアをどんどん出すようになっていった。
「綾野さんは、この役はこういう気持ちでこのパンチを打って、そのパンチを打った後にこういう気持ちになるからこんな動きに変わるというような、演じる役としてのアクションを心がけていました。動きの一つ一つを台詞と同じように捉えているので、アクションにも意味合いをつけて、芝居に落とし込める方法を常に考えている。『動きのための動き』『台詞のための台詞』を避けようというのは、中国の現場でもよく言われていたことで、素晴らしいと思いました。それに綾野さんは受けのリアクションも上手く、とにかくアクションの芝居の勘がいいので、やりやすかったです」
ドニー・イェンにボクサーの経歴をかわれ中国で活躍
実は綾野とは、2018年末から2019年頭にかけて中国で撮影された綾野主演の中国映画で共演している。木幡自身は現在までのところ、中国映画界での活躍が目覚ましい。世界チャンピオンも輩出している名門・横浜高校ボクシング部を経て、大橋ジム所属のプロボクサーとなった木幡は、25歳で俳優に転身。長い下積み時代を送った後、オーディションを受けて2009年の中国映画『南京!南京!』に出演。木幡は日中戦争の南京事件を描いた同作で、中心人物の一人の日本人将校役を演じ、中国国内で高い評価を受けた。これを機に、中国映画界で大活躍するようになった木幡は、主演作を含む40本以上の中国映画に出演。また、ボクサーという経歴をドニー・イェンに気に入られて3作目の中国映画『レジェンド・オブ・フィスト/怒りの鉄拳』に出演した際は、ラスボスの日本人、力石猛を演じ、初めて本格的なアクションにも挑戦。ここから本格的なアクションのトレーニングも積むようになり、役の幅を広げていった。
幼少期から日本映画オタク
2019年の『サムライマラソン』、2020年の『無頼』などの日本映画にも出演しており、日中を行き来しながら活動しているが、実は「アバランチ」への出演も、コロナ禍でビザが下りずに11月撮影予定だった中国映画に出演できなかったという巡り合わせの中で実現した。今回はそんな偶然も重なっての出演だったが、今後は日本を中心に活動を目指しており、来年には日本での初主演映画の公開も予定されている。
「僕は日本映画が大好きで、俳優になりたいと思いました。映画好きな母親の影響で、小学生の頃から溝口健二監督や成瀬巳喜男監督の作品、『男はつらいよ』シリーズなどをずっと見続けてきている日本映画オタクなんです。だから、やっぱりもっと日本映画に出演していきたい。そう思う一方、表現者である以上は、いい作品であれば国は関係なく、良い仕事をしていきたいので、もちろん中国映画にも出演させていただきたい。僕が活躍することで、少しでも海外の方が現在の日本映画にも目を向けてもらえるきっかけになれたらとも思っています」
映画好きだった思いが募ってボクサーから俳優に転身した木幡には、ボクサー時代も映画に助けられていたことや、具体的な転身のきっかけのエピソードもあるのだが、それはまたの機会に。まずは、出演への反響も大きい「アバランチ」の最終回が目前だ。貝原は羽生とは真逆の存在のようでありながら、互いの正義や信念に基づいて行動している似た者同士だとも思って演じたという。最終回では、自身のアイデアも反映された、羽生との激闘シーンが再び見られるようだ。最後に作品全体を通しての見所を聞くと、「(内閣情報調査室のエース)桐島を演じた山中崇さんの芝居もすごくて、勉強になりました。桐島の芝居に注目して全話を見直すと、その細かな変化などが見られると思います」と自身のシーンではない意外な答えを挙げ、作品自体への愛の深さを見せていた。(取材・文:天本伸一郎)