「今、私たちの学校は…」だけじゃない!韓国ゾンビものにハズレなし?
今、世界中で韓国のゾンビ映画、ドラマが人気を博している。かつての「Jホラー」のような「Kゾンビ」という言葉も浸透しはじめてきたようだ。
契機となったのは映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』(2016)だろう。韓国で大ヒットしたほか、世界中で高い評価を得た。監督のヨン・サンホによると、本作公開前までは韓国でゾンビ映画はヒットしないといわれており、本国公開時、「ゾンビ」という表現をNGにしていたという。 しかし、『新感染』の大ヒットによって韓国ではゾンビブームが巻き起こり、後続の作品が制作されるようになった。続編の『新感染半島 ファイナル・ステージ』(2020)も公開されている。
『新感染』の大ヒット後、時代劇とゾンビを融合させたドラマ「キングダム」(2019)、集合住宅の一室に取り残された若者のサバイバルを描いた映画『#生きている』(2020)、歪んだ人間の欲望がモンスターを生み出してしまうドラマ「Sweet Home -俺と世界の絶望-」(2020)がたて続けに制作されている。いずれもNetflixを介して世界に広く配信され、大ヒットを記録した。そして、Kゾンビの決定版ともいえるのがドラマ「今、私たちの学校は…」(2022)である。NetflixのグローバルTOP10(テレビ・非英語)で1位を獲得するほどの爆発的な人気を誇る。今後も視聴者数を伸ばしていくだろう。
Kゾンビの魅力の源泉はいくつもある。まずはアクションシーン。それまでのゾンビはゆらゆら歩き回るものが主流だったが、韓国作品に出てくるゾンビの多くは動きがとにかく速い。 全速力で走って襲いかかってくる。勢いあまって頭上からバラバラと落ちてくることもある。だから主人公たちも必死になって逃げたり、戦ったりしなければいけない。このことが緊張感のあるアクションシーンを生んでいる。
全速力で走るゾンビといえばザック・スナイダー監督の映画『ドーン・オブ・ザ・デッド』(2004)が有名だが、Kゾンビはその強い影響下にある。巧遅より拙速を好む韓国文化を「パリパリ文化」というが、韓国でゾンビ専門家として知られるチョン・ミョンソプ氏 は「韓国独特のパリパリ文化から生まれたスピード感が、見る側に緊張感を与える」と指摘している(Korea.netにて)。CGに頼りきらず、ゾンビを演じるために何か月も訓練を受けた俳優たちを大勢使っているのもKゾンビの特徴だろう。
作品ごとに異なる多様なアイデアと人間ドラマも魅力だ。高速鉄道の中という限定空間を活かしきった『新感染』の緊迫感は異様なほど。李氏朝鮮の王朝を舞台にした「キングダム」では数々の権謀術数が描かれる。『#生きている』では集合住宅に取り残された主人公と、目の前の集合住宅に取り残された少女とのコミュニケーションに胸ときめかされる。
「Sweet Home」は大規模な集合住宅に住んでいる多様な人間が、時に手を組み、時に対立しながらモンスターと対峙するドラマ。「今、私たちの学校は…」は学園ドラマとゾンビの融合である。また、どの作品も独自の設定を活かした極限状態の中で生まれる人間ドラマをあますところなく描いている。『新感染』のラストや「今、私たちの学校は…」のいくつものシーンで涙した視聴者も多いはずだ。
単なるアクションとサバイバルだけではない。社会問題との接続もKゾンビは得意にしている。もともと韓国エンタメは社会問題を取り込んでいくのが得意だったが、『新感染』では物質主義や利己主義が描かれ、「キングダム」は民衆の貧困と階級社会が描かれていた。「Sweet Home」では内省的な主人公の成長だけでなく、DVを受け続けてきた女性をはじめ、老人や子ども、障害者などの社会的弱者たちが立ち上がる姿が描かれ、「今、私たちの学校は…」は大人が若者を見捨てたセウォル号沈没事件が重ね合わせられている。
格差社会にスポットをあてた映画『パラサイト 半地下の家族』(2019)や、軍隊による戒厳令と民衆の弾圧が行われた「光州事件」をモチーフにした『タクシー運転手 ~約束は海を越えて~』(2017)をはじめ、韓国映画は社会問題を描くことを得意にしてきた。一方、ゾンビ映画は社会問題を反映しやすいジャンルである。ゾンビ映画の第一人者、ジョージ・A・ロメロは『ゾンビ』(1978)をはじめとする自作で政治や社会の問題を描き続けてきた。そのような意味で、韓国エンタメとゾンビは非常に相性がいいといえるだろう。
容赦のないアクション、多様なアイデアと人間ドラマ、社会問題の接続を描いた物語が、Netflixの豊富な資金力で映像化され、世界中に配信されて人気を博している。これがKゾンビの現在だろう。それぞれの作品の新シーズンの到来を心待ちにするとともに、新しいKゾンビ作品の出現に期待したい。(大山くまお)