高山みなみ「コナン目線」での作品との向き合い方
今年もこのシーズンがやってきた。劇場版『名探偵コナン』の最新作『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』が、4月15日に劇場公開を迎えた。第25作となる今回は、安室透(降谷零)をはじめとする「警察学校組」の過去を描くエピソードや、高木・佐藤刑事の恋愛関係の進展、渋谷を舞台にした爆弾魔との対決など、ファンを熱くさせる要素が満載。江戸川コナンの声優・高山みなみが、本作の舞台裏に加えてシリーズとの歩みや、「コナン目線」での作品との向き合い方を語った。
ついに25作目!劇場版『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』【写真】
Q:劇場版はついに25作目へと到達。シリーズを振り返って、印象的だった思い出にはどんなものがありますか?
そうですね……。面白いエピソードは本当にたくさんありますが、外せないのは20弾『純黒の悪夢(ナイトメア)』(2016)、黒ずくめの組織と捕らわれたメンバーの緊迫したやり取りが続くシーンのアフレコの時です。ドスのきいたお声で、まさかのNG連発。みんなが笑って和やかな雰囲気になりました(笑)。殺伐としたシーンが多いと、みんながなんとかしなければと無意識に思うのか、ストーリーとは真逆にスタジオの中が穏やかになるんです。特に、黒ずくめの組織のメンバーを演じるのはとても楽しい方ばかりなので、みんなの一体化に一役も二役も買ってくださいました。
Q:劇場版の歩みもぜひ伺いたいのですが、近作は『紺青の拳(フィスト)』『緋色の弾丸』『ハロウィンの花嫁』と、ワールドワイドな要素が入るようになってきましたね。
劇場版ならではのスケールですよね。原作やTVシリーズでもニューヨークやロンドン編がありましたが、1本でまとめて観られるのは劇場版ならではの要素かと思います。『紺青の拳(フィスト)』(2019)でも言及がありましたが、コナンはパスポートの問題があって海外に行くのは大変なんです(笑)。だから、海外で起きた事件が何らかの形で日本に入って来て解決するパターンが多い。今回もそうですしね。そして、各キャラクターがいろいろなところで活躍してくれているからこそできるんです。京極(真)さんの存在がなかったら、シンガポールは舞台にならなかったかもしれません。
Q:ある種のユニバース化も含めて、シリーズがどんどん広がっていきますよね。
「警察学校編 Wild Police Story」なんて、まさにそうですよね。「ゼロの日常(ティータイム)」や「犯人の犯沢さん」への派生含めて、本当に楽しいです。すごく良いことだと思いますし、長く続けられているからこそだと感じます。お手紙などで「親子2代で楽しんでいます」といったような声もお聞きしますし、こうした広がりは嬉しいですね。
Q:『名探偵コナン』シリーズが幅広い世代の心をつかみ続けている要因は、どんなところにあると思いますか?
まず推理ものとして面白いので、「犯人は誰だろうね」とみんなで話し合えて、一緒に楽しめるところが一番だと思います。あとはやっぱりキャラクターがそれぞれ魅力的なので、「○○推し」という方がたくさんいらっしゃることも大きいと感じます。
Q:最新作『ハロウィンの花嫁』が劇場公開を迎えますが、今現在のお気持ちはいかがですか?
無事公開できることに、ホッとしています。前作の『緋色の弾丸』(2021)は、当初予定していた2020年4月の完成披露試写会が、直前になって「緊急事態宣言が発令されるかもしれない」ということで中止になりました。結果的に公開自体が1年延期になり、2021年4月にやっと公開できたと思ったら、すぐにまた「緊急事態宣言」が発出されたんです。今年も本当に「ギリギリまでどうなるかわからない」とドキドキしていて、実はここ2、3日あまりよく寝られていません(苦笑)。
Q:なんと……。今回は、劇場版としては初のコロナ禍のアフレコでもありますね。
みんなが一堂に会することなく何日かに別れて収録する形に変わったのが、全25作の中で1番大きなできごとかもしれません。同じスタジオ内の別の部屋にいる共演者の方とはイヤホンでつながっているので、耳に神経を集中させて演じていました。この収録の仕方には慣れましたが、これまでとは疲れ方が違いましたね。
Q:『ハロウィンの花嫁』の劇中に、コナンと首輪型爆弾を仕掛けられた安室のシェルター越しの会話がありますが、そういったアフレコの状況が演技に活かされることはあったのでしょうか。
演技に活かされたかどうかはわかりませんが(笑)、コナンも特殊強化ガラス越しにしか安室さんと会話ができなかったので、相手の声が直接耳に届く感じは掴みやすかったです。たしかに、リアルでしたね。
Q:安室との対峙シーン、コナンのカッコよさ含めて、非常にシビれました。どのような思いで演じられたのでしょうか。
あのシーンは、全ての状況はわからないにしろ、安室さんに何かあったということはわかっていたので、最初から「子どもではなく大人でいく」という気持ちでした。それに、安室さんがあんな状態になること自体がちょっと考えられないので、かなりな強敵に立ち向かう覚悟を決めて演じましたね。
Q:シリーズを通してコナンと安室の関係も変化していきますが、今回はどのような塩梅で演じられましたか?
『ゼロの執行人』(2018)よりは一歩近寄ったとは思いますが、お互いにまだ隠していることがたくさんあって、完全には相容れない状態。安室の「君は何者なんだい?」というセリフがありますが、まさにそんな関係かと。
Q:先ほどの「子ども目線・対大人」の使い分けでいうと、その前にあった蘭を気遣うシーンからの切り替えが絶妙でした。
ありがとうございます。ただ、事前に「こうしよう」という感覚で演じてはいないんですよ。コナンの意識がどこにあるかということさえわかれば、自然と変わるんです。
Q:コナンが終盤、ある人物を止めるために起こす行動に関してはいかがですか? ご覧になる方は驚くかと思います。
あれはちょっと驚きますね。あの行動には、いま子どもの姿だからこそ説得できるかもしれないという考えや、新一の母への思いも重ねているんだと思います。でも一番の行動理念は「これ以上罪を重ねさせてはいけない」という気持ちなんです。
Q:ピアノソナタ殺人事件の犯人に対する行動や、憧れのサッカー選手だったレイ・カーティスに対する言葉にも通じますね。
はい。犯人を絶対死なせちゃいけないし、罪を重ねないように止められるなら止める、ということですね。
Q:服部平次への言葉(「推理で犯人を追いつめて、みすみす自殺させちまう探偵は、殺人者とかわんねーよ」)ですね。
新一がニューヨークで通り魔を助ける際に言った言葉(「人が人を助ける理由に……論理的な思考は存在しねーだろ?」)とも重なりますが、身体が勝手に動くものですよね。そういった意味では、行動しては初ですが気持ちとしては自然と受け入れられました。
Q:これはシリーズを観返したくなりますね……。
ぜひ観返してください!(笑)
Q:『ハロウィンの花嫁』を拝見して、余計にそう感じました。警察学校組や高木刑事・佐藤刑事の話でもありますし、演出面でも爆弾の配線の色に『時計じかけの摩天楼』を思い出したり、ヘリポートのシーンのカメラワークで『14番目の標的』を想起するなど、過去作と重ねるファンの方は多いかと思います。
演出ですか?すごい! そんな風に観ていただけているなんて、感激です。私はきっと細かな演出を見逃しているんでしょうね。今回は今回という感覚ですし、コナン目線ではカメラワークを知る由もない(笑)。ご覧になる皆様にはいまお話しいただいた考察含め、自由に深く楽しんでいただきたいです。
Q:常にコナン目線なのですね。
コナン目線、コナン思考ですかね。たとえば今回は警察学校組が共闘する事件が描かれますが、コナンが目にすることができないアクションシーンにすごいと感じたり、事前に打ち合わせなく抜群のチームワークを発揮できる彼らを見習いたい自分と共に、「黒ずくめの組織を叩くためのメンバーは? どう動けばいい?」とコナン思考が働きます。彼自身、いま「誰と一緒に闘えるだろう?」を見極めているところだと思うので、その辺りも加味しながら観てしまいましたね。
Q:警察学校組のアフレコでは、出番がなかった高山さんが差し入れをされたと伺いました。
(安室透役の)古谷徹さんが「あんこ好き」なので、「警察学校組の収録のときに、おススメのおいしい水ようかんを持っていきますね」と約束していたんです。警察学校組の皆さん全員が集まると伺っていたので、御挨拶とエールを送りに行きました。前日から冷蔵庫で冷やしておいた水ようかん(スタッフさん分含め)20個は重かったですが(笑)、喜んでいただけてよかったです。
Q:「名探偵コナン」のTVアニメが放送開始されたのが、1996年。そういった気遣いは、座長として心がけていることでもあるのでしょうか。
そうですね、一番にスタジオ入りして、その日いらっしゃる方全員とお話しすることを心がけています。特に劇場版だと長丁場ですし、緊張感も高まります。私自身もこれまでの現場で、そこにいる全員が同じ方向を向いて、良い空気になるようにしてくださる方のすごさや、ありがたさを感じてきたので、自分もそういう風に動くようにしていますね。
Q:長らくコナンを演じ続けるにあたって、心身のケア術など、どのようなことを実践されているのでしょう?
コナンが始まる前からですが、よく食べて、よく寝ることに尽きます。私は元々すごくよく寝る方なんです。だからここ数日の緊張して寝られない状態は、すごく珍しい(苦笑)。今夜はゆっくり眠れると思います。食事に関しては、「これをいま食べるべきだ!」って身体の方が必要としている栄養素を教えてくれるので、それに従っていますね。コロナ禍で自炊の時間が増えてからは、いままで以上に考えるようになりました。「美味しい」と言いながら食べるといいですよ。
(取材・文:SYO)
映画『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』は公開中