『機動戦士ガンダム』古谷徹、ククルス・ドアンに見た星一徹と父の背中
テレビアニメ「機動戦士ガンダム」の名エピソードを映画としてリブートした『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』で、アムロ・レイ役を担当した古谷徹が、子供時代を振り返りながら、再び演じた15歳のアムロ役への思いを語った。
アムロ×ドアン特別対談『ククルス・ドアンの島』インタビュー【動画】
『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』の安彦良和監督が、1979年に放送されたテレビ版の第15話に、新たな要素を加えて映画化した本作。残敵掃討任務のため「帰らずの島」と呼ばれる島に降り立ったアムロ・レイ(古谷徹)と、ジオン軍の脱走兵ククルス・ドアン(武内駿輔)の出会いを通じて、戦争の哀愁が描かれる。
テレビアニメ版を振り返り「当時の役の全般に言えることですが、僕もアムロと同じように人間として未熟だったことで、うまく同化することができたのではないかと思います。技術的には未熟だけど、感情が言葉を飛び越して伝わってくる。普通は感情を作って、それを言葉に乗せて表現するわけですけど、何をしゃべっていいかわからなくても気持ちが伝わるというか。そういう表現は今の僕にはできない。それだけ熟してしまいましたから」と語る古谷。
しかし、本作でスクリーンに蘇った15歳のアムロの声は、43年前と少しも変わらない。古谷は「厳密に言うと、43年前と今では声も違っているんですが、15歳の少年の純粋さやナイーブな一面といった、“アムロらしさ”が出せていれば、きっと皆さんが変わっていないと思ってくれるんじゃないかなと。その辺りは一番注意しました」と明かす。
アムロと初めて出会ったのは25歳のころ。「それまで熱血ヒーローのような役がすごく多くて、そういうイメージがついてしまっていることに、自分の中でも疑問を感じていました」という古谷は「これだけではダメだと葛藤していた時期にアムロと出会えたことは、すごく大きかったですね。等身大の少年を生き生きと演じることができたから、プロとしてやっていけるという自信と覚悟ができました」と振り返る。
「第15話をあらためて観ると、むしろ、あの時演じたアムロの方が大人っぽいんですよね。そのころの僕の年齢からすると、15歳といえばもう大人という意識だった。ただ、今回の『ククルス・ドアン』に関しては、未熟で染まりやすい、真っ白なアムロでいた方がいいんじゃないかなと考えて、43年前のアムロは忘れるようにしました。その方が、ドアンとの交流で変わっていくアムロを表現しやすいと思ったんです」
敵として一度は対峙したアムロを介抱し、孤島で養う子供たちの輪に招き、大人の男として道を示すドアン。55年以上のキャリアを誇り、幼少期から芸能界に身を置く古谷にとって、アムロから見たドアンのような存在はいたのだろうか。
「声優という面では、やはり(『巨人の星』の)星一徹がドアンのような存在だった気がします。キャラクターとしてもそうですが、演じていらした、大先輩である加藤精三さんの存在も大きかったですね。『巨人の星』が終わった後も数年間、加藤さんの『語りの会』に入って勉強させてもらって、とにかくかわいがってくれたし、演技の深さといったものも教えていただいた。後は、やはり育ての父です。実の父を2歳で亡くしてから、ずっと育ててくれたんですが、まさにその背中をずっと見てきた。そういう意味でも、ドアンに近い存在ではないかなと思います」
迫力のモビルスーツ戦に、安彦監督の真骨頂ともいえる、圧倒的な画力によるアムロとドアンを中心とした人間ドラマも見どころとなる本作。「反応は覚えていませんが、当時は作画崩壊でしたからね(笑)。今回は、安彦監督の絵が芝居をしてくれていますから、こちらは考える必要がないというか、非常に役がつかみやすかった」という古谷は「この作品から僕が感じたのは、例え敵同士であっても、立場やプライドを捨てて、ひとりの人間として向き合い、信じあえれば、わかりあえるのだということ。きっとそれは、現代社会を生きるわれわれの人生にとっても大切なメッセージになるはずです」と熱弁。15歳のアムロを劇場版で演じるのは、これが最後かもと発言していたが、現在も一線で活躍し続けるだけに「この作品が大ヒットにつながれば、可能性はゼロではないのでそう願ってます」と力強く語った。(編集部・入倉功一)
映画『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』は6月3日より全国公開