ディーン・フジオカ&岩田剛典、バディとしての進化に必要だったもの
コナン・ドイルの「シャーロック・ホームズ」シリーズを原案としたテレビドラマ「シャーロック」を映画化した『バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版』。ディーン・フジオカと岩田剛典の名バディぶりも人気となった本シリーズだが、劇場版では二人がより一層、息ぴったりのやり取りを見せ、観客を重厚なミステリーの世界へと誘う。「多くの方にドラマを楽しんでいただけたからこそ、シリーズを続けられて、すごくうれしい」と声をそろえるディーンと岩田が、名バディの秘訣やお互いの存在から受ける刺激を明かした。
顔面最強バディ!ディーン・フジオカ&岩田剛典【インタビューカット】
シリーズ初の劇場版となる本作では、シリーズ最高傑作の呼び名も高い「バスカヴィル家の犬」をモチーフに、犯罪捜査専門のコンサルタント・誉獅子雄(ディーン)と元精神科医・若宮潤一(岩田)のコンビが再びをタッグを組んだ。新木優子、広末涼子、村上虹郎、小泉孝太郎、稲森いずみ、椎名桔平といったゲスト出演者も加わり、不気味な島に住む華麗なる一族の闇に迫っていく。
獅子雄と若宮に「距離は関係ない」
Q:原作シリーズでも代表作として知られる「バスカヴィル家の犬」が原案とあって、偉大な原作に挑む上でプレッシャーはありましたか?
ディーン:「バスカヴィル家の犬」を原案したものではありながら、それを意識せずとも、脚本としてとても面白いものになっていました。西谷(弘)監督にはプレッシャーがあったかもしれませんが、僕が考えるべきことは、監督が見たいと思うものをどう成立させるかということ。プレッシャーがあったとすれば、コロナ禍での撮影だったことです。緊張感がいい形で撮影につなげられました。
岩田:僕もプレッシャーは感じず、むしろワクワクの方が大きかったように思います。原作を意識するというより、お芝居をどうリアルなものとして成立させ、どのようにシーンを構築していくかということに集中しました。西谷監督はいつも僕らをきちんと導いてくれるので、どんなボールが来てもキャッチできるよう、監督からの演出に神経を張りめぐらせていました。
Q:ドラマ版では一緒に行動をすることが多かった獅子雄と若宮ですが、今回は遠隔のやり取りで協力していく場面もあり、新たなバディの形を見ることができます。
ディーン:獅子雄は「謎を解く」ということに対して、好奇心や抑えきれない衝動を持っている男です。ドラマ版の若宮には、そんな獅子雄に無理やり付き合わされていたような感じもあって、いつも獅子雄にペースを崩されてしまう(笑)。劇場版では、若宮が主体的に動いたり、独り立ちしたりする側面もあります。距離が離れていながら、バディとしてお互いの知恵や努力を持ち寄っていく姿も大きな魅力です。
岩田:今回の獅子雄と若宮の関係を、僕らは「リモート・バディ」と呼んでいたんです(笑)。たまたま今のご時世と重なった形になりました。離れてもつながっている獅子雄と若宮の姿を見ていると、この二人には距離は関係ないんだなと。ドラマよりも一層、バディ感が強くなったように思います。劇場版からの参加となった方がたくさんいらっしゃいますが、そこに誰が来ても、しっかりと迎え入れることができるという気持ちもあって。ディーンさんとドラマで1クールを過ごしてバディを作り上げてきたことが自信につながりました。
Q:再会を経て、新たにお互いについて発見したことはありましたか?
ディーン:今回は松山でのロケだったのですが、岩ちゃんの荷物の少なさには驚きました! これは新しい発見ですね(笑)。
岩田:あはは! そう言われるまで、自分でも気づかなかったんです。必要最低限のものしか持っていかないので、たしかにとても少なかったかもしれません。
岩ちゃんが演じるからこそ、母性本能をくすぐられる
Q:獅子雄と若宮、それぞれのキャラクターとも長いお付き合いをすることになりました。演じる上で大事にしていることを教えてください。
ディーン:ドラマがスタートするときに思ったのは、獅子雄を演じるためには、新しいスイッチを一つ作ることが必要だということ。セリフまわしや立ち居振る舞いも、ちょっと普通の人ではない。獅子雄の言動におけるスピードの速さや、極端とも思えるスペックの高さが、見ている方にとって「変人」として映るといいなと思っていました。そのためには呼吸しないで長ゼリフを言い切るなど、試行錯誤をしながら作り上げていきました。
岩田:若宮は怒ったり、泣いたり、笑ったりと、感情の振り幅を出すことができるキャラクターなので、僕にとってもとても演じがいのある役柄です。また、ミステリーのテイストのなかで箸休めとして、ほっこりしていただく役割でもあって。重厚なストーリーの中で、どのようにサブリミナル的に若宮のキャラクター性を出していけばいいか、西谷監督と相談しながらシーン作りをしていきました。
Q:岩田さんにはクールな印象もあります。若宮のような部分はありますか?
岩田:僕も意外とドジなんですよ。落とし物や忘れ物も多いんです。
ディーン:だから荷物が少ないのか!
岩田:結果的にそうなっちゃっているのかも(笑)。
Q:お互いの演技を見て、それぞれのキャラクターの魅力を教えてください。
ディーン:岩ちゃんの人となりを知っていると、若宮の“熱湯芸”みたいなものは本当に面白く見られる(笑)。決してウケを狙っているわけではなく、本当に「大丈夫かな?」という気持ちにさせてくれる。岩ちゃんが演じるからこそ、若宮は可愛らしくて母性本能をくすぐるキャラクターになったなと思っています。謎解き要素のある作品は、観ているときに眉間にシワが寄ってくることがあるものですが、ほっと一息つけるコメディリリーフの役割となる若宮は、とても重要です。普段の岩ちゃんはきちんと抑制が効いているので、若宮を演じるときには岩ちゃんの「芝居のジャンプ力」が発揮されているように感じています。
岩田:獅子雄はスペックが高くて、変人のように見える役どころですが、ディーンさんが演じるとどの瞬間も嫌味を感じることがないんです。お芝居には人柄やそれまでの経験の積み重ねが反映されるものだと思っていて、ディーンさんが演じたからこそ、観客の方にも愛されるような獅子雄が出来上がったと感じています。獅子雄という役のイメージに見事にハマっている。今となっては、ディーンさん以外に獅子雄を演じられる人って思いつきません。
岩田剛典が受けた刺激「ディーンさんは、背中で語る男」
Q:西谷監督は、ディーンさんと岩田さんは「とても良く似ている」とお話しされています。お互いに「似ている」と思われる点はありますか?
ディーン:役者やアーティスト活動など、いろいろなことをやっているという意味では似ていると思います。岩ちゃんが自分でしっかりと考え、何をするのかを決め、それを行動に移している姿を見ていると、僕も勇気や刺激をもらいます。岩ちゃんが今後どうなっていくのかも、とても楽しみです。
岩田:ありがとうございます。僕も役者をやりつつ、アーティスト活動もやるというバックボーンは共通しているなと。ディーンさんは、苦労を表に出さず、背中で語る男。そういった男らしさには、ものすごく刺激を受けます。
Q:それぞれの活動が影響し合うことはありますか?
ディーン:どちらもやっていると、とにかく時間がない(笑)。「何時にどこで何をやる」という時間や場所が決まっている仕事もありながら、ものづくりを始めると、それ以外の時間も表現について考えることになるので、仕事をしている時間になる。何かを作り、表現していくということは、長いスパンでコツコツと積み上げていくことが必要になるので「時間が足りないな」と感じることも多いです。
岩田:すごく共感します。俳優活動とアーティストとしてステージに立つことって、まったく違う職業というくらい別の要素があるもの。「二足のわらじ」と言葉でいうのは簡単ですが、やっぱり僕も、ディーンさんと同じように悩むことがあります。アーティスト活動は、自分が何を世の中に提示し、何を発信していきたいのか、メッセージを表現できる場所。忙しくなってアウトプットばかりしていると、あまり良い状態でものづくりに臨めなくなってしまう恐れもあります。僕はとにかく仕事が楽しいと思っているタイプで、やりたいことがたくさんある。だからこそ、時間が足りないというジレンマを感じることもあります。
ディーン:わかりますね。締め切りに追われて、理想とするものにまだ追いついていないのでは、と悔しい思いをするときもあるけれど、表現したいという思いは、勝手にどんどん出てくる感じ。そういった思いを持っているという点も、よく似ているのかもしれません。
映画『バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版』は6月17日より全国公開中