新作歌舞伎「ファイナルファンタジーX」に込めたメッセージ　尾上菊之助語る

　人気ゲームシリーズ第10弾作品として絶大なる人気を誇るゲームを歌舞伎化した「新作歌舞伎　ファイナルファンタジーX」製作発表会見が29日に千代田区の東京會舘で行われ、企画・演出・主演を務める尾上菊之助が、本作を手がける思いを語った。この日は中村獅童、尾上松也、坂東彦三郎、中村梅枝、中村米吉、中村橋之助、上村吉太朗、そしてゲームをプロデュースした SQUARE ENIX 取締役の北瀬佳範も来場した。

【画像】「新作歌舞伎　ファイナルファンタジーX」製作発表会見の様子！

　2001年に発売された「ファイナルファンタジーX」は、大いなる脅威「シン」に立ち向かう少年と少女の切ない物語が繰り広げられるシリーズ屈指の人気タイトル。多くのゲームユーザーに愛されてきた感動的な物語を、「NINAGAWA 十二夜」「風の谷のナウシカ」など自らの企画で数々の新作歌舞伎を手がけてきた菊之助が送り出す。

　この企画が立ち上がったのはコロナ禍初期となる2020年3月だった。「それまで毎月、当たり前に行われていた歌舞伎公演がなくなってしまい。先行きが見えないなか、なんとかしたいという気持ちを救ってくれたのが、20年前に発売された『ファイナルファンタジーX』でした」と切り出した菊之助は、「この物語の登場人物たちは、最初は心がバラバラでしたが、物語が進む上で心を通わせあい、それぞれが持つ葛藤を乗り越えながら成長し、ひとりがみんなのために、みんながひとりのために。互いを思いやりながら、強大な敵に立ち向かっていく」と説明する。

　さらに「このあきらめない姿勢は、コロナの世界、そして戦争が起きている世界に強いメッセージを届けられるんじゃないかと思い、歌舞伎の製作を決意しました」と続けると、「わたし自身が『ファイナルファンタジーX』に救われたように、コロナ禍で大変な日本、そしてエンターテインメントの世界に少しでも元気を届けられれば」と力強く付け加えた。

　一方、「菊之助さんからお話をいただいた時は非常に驚いた」という北瀬も、「だが野心的で面白そうな企画だと思い、即決したのを覚えています。今から完成が楽しみでワクワクしています」と全幅の信頼を寄せている様子だった。

　そしてキャスティングは菊之助が直々にオファーを行ったという。「最初に菊之助さんからお話をいただいた時は緊急事態宣言のなかでした。家にこもって、これからの自分の生き方、これからの歌舞伎界について考えていた時だったので、菊之助さんの熱い気持ちを聞かせていただいて、その気持ちに応えるべく賛同させていただきました」という獅童をはじめ、今回のチャレンジを意気に感じ、熱い思いを次々に語る登壇者たち。

　また、今回の会場となる豊洲のIHIステージアラウンド東京は、アジア初の360度客席回転劇場で、照明、音楽、超巨大スクリーンに映し出される映像などを駆使して描き出される。そして今回の見どころとして、「白熱のブリッツボール」「異界送り」「マカラーニャの森」など、ゲームファン垂ぜんの名シーンの数々が、歌舞伎ならではの表現を用いるという。

　また前編が12時開演、後編が17時半開演というスケジュールで、全体で9時間近い長丁場になることから、菊之助のたっての希望により、背面と座面に高弾性ウレタンフォームクッションを全座席に設置。「Twitterの反響で9時間は死ぬという声がありまして。腰とお尻に優しい設計にしないと前編・後編を通すのは難しいんじゃないかと思い、これをお願いしました。このシートクッションを完備することで、安心して旅を楽しんでいただければ」と笑う菊之助。

　さらに獅童のリクエストにより、劇場周辺を“ファンタジーエリア（仮）”と名付け、ロビー内併設カフェや、キッチンカーなどを出展し、公演限定メニューを楽しめるようにするそうだ。獅童も「本来、歌舞伎というのはゆったりと飲食しながら見るもの。休憩時間にもおしゃべりするというのも醍醐味（だいごみ）だと思う。周囲には食事をする施設も少ないので、どこかアミューズメントパークのようにできないかと思い、ご意見させていだきました」とコメント。さらに近隣ホテルのコラボとして、終演後に大浴場を楽しむことのできるプランを用意するなど、長い公演時間をより快適に楽しむためのプランを続々と導入するということで、獅童も「大変だと思うよりも、ぜひこの機会を楽しんでいただければ」と呼びかけた。（取材・文：壬生智裕）

「新作歌舞伎　ファイナルファンタジーX」は2023年3月4日～4月12日豊洲のIHIステージアラウンド東京にて上演（休演日：3月8日、15日、22日、29日、4月5日）
【前編】11時30分開場　12時開演【後編】17時開場　17時30分開演