「どうする家康」岡田准一、信長役を一度断っていた!制作統括がキャスティングの裏側明かす
松本潤主演の大河ドラマ「どうする家康」(NHK総合で毎週日曜夜8時~ほか)で、織田信長を演じる岡田准一。松本にとって岡田は同じ事務所の先輩でもあり、劇中での関係とも重なるが、キャスティングの理由や岡田ならではの信長像について、制作統括の磯智明チーフプロデューサーが語った。
戦国乱世に終止符を打ち、江戸幕府初代征夷大将軍となった徳川家康の軌跡を追う本作。「コンフィデンスマンJP」シリーズや映画『レジェンド&バタフライ』(公開中)などの古沢良太が手掛けた脚本のもと、家臣たちに「どうする?」とさまざまな決断を迫られ、迷い葛藤しながら成長していく家康を等身大で描く。岡田演じる織田信長は1月8日の初回のラストシーンから登場。今川義元の首をぶら下げた槍を勢いよく投げるという強烈な場面で信長の恐ろしさ、強さを見せつけた。岡田にとって大河ドラマの出演は、主演を務めた「軍師官兵衛」(2014)以来、9年ぶりとなる。
岡田准一の出演に松本潤の後押し
「岡田さんに引き受けていただいて本当によかったと思います」と感慨深げな磯CPだが、一度出演を断られた経緯があるという。「実は、岡田さんに出演を依頼させていただいて一度断られているんです。岡田さんもおっしゃっていましたが、これまで数々の作品で描かれてきた人物だけに、視聴者それぞれに信長のイメージがある。役者にとってハードルの高い役どころだと思います」
一度は辞退した信長を、岡田はなぜ引き受けたのか。そこには松本潤の“岡田以外に信長はありえない”という強い希望があった。「家康にとって信長は超えられない壁でありながら、兄のような存在でもある。家康と信長は9歳離れているんですけど、信長が経験したいろいろなことを家康が吸収したからこそ、その先に行けたという側面もあるんですよね。家康にとって信長は常に自分の先を行く人。家康は初めは信長の真意をなかなか理解できないんだけど、やがて家康の大きな糧になっていく、というようなことは松本さんともお話していて。松本さんにとってそういう存在は岡田さんであると。松本さんにとって岡田さんはグループの、時代劇の、大河ドラマの主役の先輩でもあり、あらゆる意味で自分の先を行っている人。そのあたりをもってもう一度オファーし、従来の信長像とも違う、このドラマならではのオリジナリティーのあふれる信長像なのでお願いできませんかというニュアンスを、松本さんにアシストしていただきながらお伝えしました」
若かりし信長のエピソードに伏線!?
15日放送の第2回では12年前の家康(幼名:竹千代)と信長の出会いが描かれた。家康に“トラウマ”として刻まれた日々だ。現在の信長は「黒」を基調とした衣装だが、若かりし時代は「赤」だった。長髪でワイルドな風貌の信長が、数人の手下たちを引き連れ、竹千代(家康の幼名/川口和空)を取り囲み、「かわいいのう……白兎のようじゃ」「食ってやろうか」とからかう。現在と過去の信長、ビジュアルを含めどのようにすみわけをしたのか。
「ビジュアルは、人物デザイン監修の柘植伊佐夫さんによるものです。若い頃の信長はグレているというか、“うつけ者”と言われていたので衣装の色味も含めて、現在との対比を意識しました。信長が感情をストレートに出していた時代、うつけ者時代には、いわゆる悪ガキを引き連れていた頃の設定です。あの中に前田利家もいるはずなんですけど、その時の仲間がのちのち信長の家臣になったりするから“信長の悪ガキ時代と仲間たち”といったイメージを象徴するためにああいう描き方をしたということですね」
岡田准一の殺陣には嘘がない
29日放送の第4回「清須でどうする!」では、家康(松平元康)と信長の12年ぶりの再会が描かれた。岡田は日本屈指のアクションスターでもあり、主演映画『ザ・ファブル』『燃えよ剣』『ヘルドッグス』などでアクションや殺陣の振付に携わっている。本エピソードではその魅力も取り入れられている。
「岡田さんの殺陣の振付はとても理にかなっていると思います。松本さんも岡田さんの指導のもとでトレーニングされていましたが、まずアクションには体が大事だからと柔軟など基礎から始めていました。もはや“岡田道場”といった感で、松本さんが弟子入りされたイメージです。そもそも殺陣には、例えばあまりアクション経験のない人、体を鍛えていない人でもうまく見せられるようにするという役割もあります。だけど岡田さんはそうではなくカメラ映りを気にすることなく、ガチでぶつかっている。アクションに嘘がないんです。だからこそ迫力がある。松本さんがそんな岡田さんにぶつかるためには、それに耐えうるだけの基礎がなければいけない。第4回で二人が相撲をとるシーンが出てきましたが、そこに至るまでのレッスン、トレーニングの時間たるや……」
「王道と覇道」は全体を貫くキーワード
ところで、初回では家康の主君・今川義元(野村萬斎)が「桶狭間の戦い」の直前、家康に王道と覇道の意味を問うシーンがある。「武をもって治めるは覇道 徳をもって治めるのが王道」と答える家康に、義元はさらに「織田信長という男、戦を好みまさに悪しき覇道を進む者とみるが、そなたはどう思う?」と問いかけ、家康は「仰せの通りと存じます。太守様こそ王道を行かれるお方。覇道は王道に及ばぬものにございます」と答える。磯CPは、「王道と覇道」はこの先も家康にとって重要なキーワードになっていくという。
「王道と覇道は中国からきている言葉ですけど、簡単に申し上げると王道は愛情、優しさをもって国をまとめていく、覇道は武力によって国をまとめていく考え方なんです。家康は、初めは王道を説く義元の下にいるんですけど、やがて信長に仕えて覇道を学び、そのなかで限界を感じていく。そうして自分が求める政治は王道なのか、覇道なのかと葛藤しながら進んでいきます。それこそが家康の成長でありドラマなんですよね。今のところ家臣に囲まれて『どうしよう!』とおどおどしているような武将ですけど、もう少し展開していくと、どうやってこの国をまとめていくのかと家康の資質を問うような局面に入っていきます。だからこそ、第1回の義元とのシーンが改めて重要になるわけです」
「兎と狼」の関係から始まった家康と信長。12年ぶりの再会を経て、兄弟、あるいは師弟のような複雑な主従関係がいよいよ始まる。(取材・文:編集部 石井百合子)