『シン・仮面ライダー』紆余曲折の仮面ライダーデザイン秘話 前田真宏が投影した、庵野秀明監督の原作愛
仮面ライダー生誕50周年記念作品として、庵野秀明が脚本・監督を務めた映画『シン・仮面ライダー』。2021年4月3日の制作発表と同時に公開されたティザービジュアルは大きな反響を呼び、同年9月には劇中に登場する仮面ライダーのビジュアルも公開された。原作者・石ノ森章太郎のオリジナルに敬意を払ったデザインは、いかにして誕生したのか? デザインを担当した前田真宏がインタビューに応じ、紆余曲折あった制作過程の裏側を語った。
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『シン・エヴァンゲリオン劇場版』(2021)ではコンセプトアートディレクターと監督を務め、『シン・ゴジラ』(2016)や『シン・ウルトラマン』(2022)にも参加した前田。『シン・仮面ライダー』では山下いくと、出渕裕と共にデザイナーとして名を連ねており、主に仮面ライダーや秘密結社SHOCKER(Sustainable Happiness Organization with Computational Knowledge Embedded Remodeling)の下級構成員のデザイン等を担当している。
前田に『シン・仮面ライダー』の企画が届いたのは、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の作業が終了する直前だった。「デザインワークを手伝ってほしいとお話をいただきまして、『ついにきたか!』という心境でした。『仮面ライダー』は子供の頃に熱中していたのですが、時が経ち、今観たらどんな風にみえるのか気になり、配信サービスで改めて視聴したり、石ノ森章太郎先生の原作漫画に立ち返りました」
デザイン制作にあたり、脚本の初稿を読んだ前田は「視点が変化していて、すごく面白かった」と庵野監督が描く『シン・仮面ライダー』の世界観に惹き込まれたという。「人間個人の最大の幸福、最大の自由を掲げているのはSHOCKER。価値観の転倒が起こっているように思えて、かなり興味深かった。石ノ森先生が描いたブルーな暗さを盛り込めるのではないかと、企画に興味を抱きました」
仮面ライダーのデザイン制作は、池松壮亮が主演に決定する前からすでに始動していたそうだが、前田は「紆余曲折あって、時間がかかりました」と打ち明ける。「今の自分が仮面ライダーを描くとどんなデザインになるのか、まずスケッチを提出しました。庵野さんからは『これじゃない』と返事がありまして、そこからやり取りが本格化していきました。当初のアイデアでは、仮面ライダーはSHOCKERのオーグメンテーションを受けたバッタとの合成オーグメントなので、人間と昆虫が合成された生物的なイメージを念頭に置いて作業していました」
「他にも、頭を小さくして首を太くするなど、アメコミヒーローのようなカッコよさに持っていけないかと考えてみたり、人間と昆虫の狭間でも少し人間よりなデザインにしたいとも思っていました。ですが、何度やっても上手くいかない。仮面ライダーに見えなかったんです。候補の案を掘り下げていっても、行き着く先には違和感がありました」
作業が難航する間に、主演が池松に決定。実際に池松の写真の上から、スーツのデザインを重ねてみても納得のいく案は出なかった。仮面ライダーが持つ「キャラクター性の強さ」に執われていた前田は、原典である50年前の「仮面ライダー」に立ち返ることにした。
「庵野さんが初代仮面ライダーのマスクのレプリカを見せてくださったのですが、自分が思い描こうとしていたものと全く違っていたんです。マスクの膨らみ方が全然違いましたし、石ノ森先生の原作漫画も面が内側から力が溢れるような丸みを帯びています。そこから、自分の固定概念を捨てて、庵野さんが描きたいと思われる初代仮面ライダーに対する趣味性やリスペクトを全面に出すようにして、ようやくデザインが決まっていきました。突出している額や大きな複眼等、実際にデザインしてみるとバッタの感じが出ますし何より外してはいけないアイコンなんだな、と思いました」
本作に登場する仮面ライダーはコートを羽織っているが、前田いわく、コートの着用は庵野監督のビジョンがそのまま反映されたという。「謎の秘密結社に一人で戦いを挑む仮面ライダーは、ヒーロー然としていますが、誰も知らないし知られてはいけない存在。日陰を歩くタイプのキャラクターで、スーツを露出させたまま歩かせるのはいけないので、何かを着せたいという話がありました。世間の風圧に耐えながら一人で歩くイメージがあって、たまたまラフで描いたイメージ画を庵野さんが覚えていてくださったので、そのままブラッシュアップして仕上げています」
かくして誕生した、唯一無二の仮面ライダー。“原典”をリスペクトしつつ、現代を舞台に新たな物語を放つ 『シン・仮面ライダー』に相応しいデザインに辿り着いた。「最初から原典をなぞるようなビジョンではありません。一つのヒントとして辿り着いたのが、原典回帰でした。庵野さんは、あまり最初から決め込んで指示することはしません。逆に、より良いアイデアが自分の外から来るのを待っているんです。それをキャッチして、盛り込んでいきました」と振り返った前田。庵野監督の溢れんばかりの仮面ライダー愛は「本物です」と笑顔で話していた。(取材・文:編集部・倉本拓弥)
映画『シン・仮面ライダー』は3月17日(金)18時より全国最速公開(一部劇場を除く)、3月18日(土)全国公開