映画『スラムダンク』ファン熱狂のオープニングに井上雄彦のこだわり!
原作者・井上雄彦が監督・脚本を務めたアニメーション映画『THE FIRST SLAM DUNK』で、演出を担当した宮原直樹が、制作スタッフの情熱を振り返りながら、多くのファンを魅了したオープニングやバスケシーンについて語った。(以下、映画の内容に触れています)
「映画館で最大限の驚きと喜びを体感していただきたい」という制作陣の思いから、ほとんどの情報を明かさずに公開を迎えた本作。映画の冒頭、湘北高校バスケ部の切り込み隊長・PG(ポイントガード)宮城リョータの物語であることを告げられた後、鉛筆のようなタッチで湘北メンバーが描かれていくオープニングタイトルは、観客に絶大なインパクトを与えた。
The Birthday のオープニング主題歌「LOVE ROCKETS」にのせて前進する挑戦者・湘北メンバーと、それを受けて立つように現れる王者・山王工業のメンバー。演出として、井上の望むビジョンを現場スタッフに伝える役割を担った宮原は「あのオープニングについては、井上監督が当初からあれでいきたいとおっしゃっていて、完成をイメージしたスケッチがありました」と振り返る。
「ただ、実際にやるとなると非常に大変なものになる。湘北メンバーが現れて、約80秒もの間、芝居をしながら歩いてくるアニメーションは、まず作れないだろうと。各キャラクターの歩き方もそれぞれ非常に個性的ですから。僕らとしては、1か月や2か月じゃできないぞ、という感じで準備をしていましたが、井上監督も相当こだわられていましたね」
「モーションキャプチャーをもとに作られたシーンですが、いろいろと技術的な挑戦をしています。詳しいやり方はいろいろと企業秘密といいますか(笑)。結果的に、冒頭にあのシーンがあることで、映画への入りがすごく魅力的なものになりました。僕も、何も知らずに観たら本当に感動するだろうと思っていました。自分の記憶を消して、もう一度このシーンを観てみたいですね」
そこから描かれる試合でも、徹底的にリアリティーを追求する。キャラクターが常にコート上を駆けめぐり、一時も動きが止まることはない。宮原は「止まらないですよね(笑)。メインとなるキャラが止まってたとしても、その後ろで誰かしら動いている。あれは通常のアニメーションでは難しいですし、やれと言ったら怒られます」と苦笑しながら「ただ、バスケットのシーンをリアルにしっかりと描き切るというのが今回のテーマでした。テレビアニメなどで、背景をイメージにして、キャラクター以外は描かないといった手法でうまく表現することもありますが、今回は逃げずに、実写作品のように実際にカメラで撮影しているようなカットを積み上げて、リアルなバスケシーンを再現していこうというのが目標でした」
こうした途方もない作業を成功に導いたのが、原作の魅力を完璧に再現しようと映画化に取り組んだスタッフの情熱だった。宮原は「モーションキャプチャーで実際の選手の動きを撮って作ることは決まっていたので、ある程度のリアルさは担保できるだろうと踏んでいました。ただ、もちろんそれだけではなく、絵を担当するアニメーターが自主的にバスケットの練習をして挑んでくれたんです」と明かす。
「(バスケシーンの)モーションキャプチャーに協力して下さったプレイヤーの方にお願いして、何度も体育館で集まって、基本的なボールの持ち方であったり、パスを受けた後はどこにポジショニングするかとか、そういうことをちゃんと一人、一人が勉強しているんです。そのおかげで、初期段階から『これはバスケじゃないよね』っていう絵があがってくることはなかった。みんなが『ボールはこうやって持つんだ』というような意識をスタート段階から持ってくれたんです。観客の皆さんに、これまでにない画期的なバスケシーンだったと思っていただけたのだとしたら、下準備の段階から一生懸命に取り組んだスタッフのおかげで実現できたのだと思います」(編集部・入倉功一)