鈴木亮平、ワーカホリックも迷いなし!私生活ではおっちょこちょい
ストイックに役柄に挑み、変幻自在なキャラクターづくりでファンを魅了する俳優・鈴木亮平。出演作が発表されるたびに「次はどんな役づくりをするのだろうか」とワクワクさせられる。そんな鈴木の新作が、2021年にTBS系日曜劇場で放送され、ひたむきに命と向き合う医療従事者の姿が感動を呼んだ連続ドラマを映画化する『劇場版TOKYO MER~走る緊急救命室~』(4月28日公開)だ。「僕にとって特別な作品になった」という鈴木が、俳優という仕事への向き合い方を熱く語った。
本作は「マイファミリー」(2022)などの日曜劇場や実写映画『キングダム』シリーズ(2019~)の脚本を手掛けた黒岩勉がオリジナルで描いた救命医療ドラマ。東京都で起きた重大事故・災害時の現場に駆けつけ、“死者を一人も出さない”をモットーに、自らの命を顧みることなく、負傷者を救おうとする救命救急のプロフェッショナルチーム「TOKYO MER」の活躍を描いた物語。鈴木が演じるのは同チームを束ねるチーフドクター・喜多見幸太。先ごろ放送されたスペシャルドラマに続く劇場版では、連続ドラマから2年後を舞台に、横浜ランドマークタワーで起きた爆発事故に立ち向かう。
自身に課すものが年々増えていく
喜多見は「待っているだけじゃ、助けられない命がある」と危険を顧みず、自ら患者の命を救いに行動する。命の危険を伴う現場に入り、患者を担いで非常階段を下りるタフネスぶりを見せたかと思うと、すぐさま最先端の医療機器とオペ室を搭載した緊急車両(ERカー)でメンバーたちに迅速な指示を出し、脅威的なオペ技術を見せる。しかも手の動きも吹替えなしで演じるなど、心技体すべてをハイレベルで要求される役柄を完璧に演じ切っている。
過去にもドラマ・映画『彼岸島』(2013・2016)の宮本篤や、映画『俺物語!!』(2015)の剛田猛男、『HK 変態仮面』(2013・2016)の色丞狂介、大河ドラマ「西郷(せご)どん」(2018)の西郷隆盛、ドラマ「天皇の料理番」(2015)の秋山周太郎など、鈴木の役づくりは話題になったが「年々自分のなかで、役づくりへのハードルは上がっているという自覚はあります。例えば大河ドラマ『西郷どん』では、後半自分が“西郷隆盛なんだ”と信じることができるぐらいまでの感覚を得ることができた。もちろん失敗体験もあります。そのなかで、成功体験をもっと増やしたいと思ったら、役に対して準備することは増えていくものです」と語る。
だからこそ、役に没頭する時間は必要になる。鈴木は「自分に課すものが多くなってきた自覚があるので、昔みたいにたくさん作品をこなしていくことは難しくなってきています」と変化を述べると「でも僕よりももっとやられている俳優はたくさんいると思う。ダニエル・デイ=ルイスさんなんて、数年に1本とかしかやらないですよね。役が決まったら、ひたすら準備する。そういう方々を見ていると、自分も中途半端なことはできない」と鋭い視線で語る。
ワーカホリック気味なことは「自覚しています(笑)」
劇場版「TOKYO MER」では喜多見が再婚している設定となり、医師で妻の千晶(仲里依紗)はあまりにも家庭を顧みないことに不満を漏らす。鈴木も俳優業に向き合う姿勢には、危うさのある喜多見と共通点があるように感じられる。それはワーカホリック気味だということ。「そうなんです。危ういところがあるなという自覚はありますね」と苦笑いを浮かべると「でも、僕はお芝居を始めて、この仕事をプロとして職業にしたいなと思ったとき、お芝居の神様に身も心も捧げると決めたんです」とつぶやく。
さらに鈴木は「何の迷いもなく好きなことができる……それはすごく喜ばしいことですし、何かになり切るために準備をして、それでも本番でうまくいったり、いかなかったり。そうして出来上がったものが、誰かの心に届いて感情が動くかもしれない……という一連の流れが、とにかく大好きなんです」と俳優業への熱い思いを語る。
一方で「お芝居は自分の経験の上にしか乗っかってこないもの。自分の引き出しにないものは出てこない」という自覚はあると言い、「自分の人生をいかに充実させるかというのも大切なことです。仕事だけではダメ。好きとは言えストレスが伴う仕事でもあるので、リセットするために旅行に行ったりバランスは考えています」としみじみ語る。
ダメな部分もさらけ出すようになったら楽になった
そんな鈴木だが「私生活は本当にダメダメなんですよ」と笑う。実際イベントなどでも、共演者の中条あやみや菜々緒から「オフは可愛いぐらい抜けていておっちょこちょい」と意外な一面を披露されていた鈴木。私生活では自分の洗濯すらできない喜多見先生と被る部分が多いのでは?
鈴木は「喜多見先生ほどではないですよ」と笑うが「でも本当に私生活ではおっちょこちょいで抜けていますね。昔は“格好良くいたい”という思いから、そういう部分をひた隠しにしようと頑張っていたのですが、結局はそんなに格好いい生き方なんてできないから、もういいやとダメダメぶりを出すようにしたんです。そうしたら楽になりましたね(笑)」と告白する。しかしそんなギャップにMERのメンバーたちも“可愛い”と鈴木の人柄に魅了されていた。
共演者たちも「似ている」という、喜多見先生と鈴木。それでも鈴木は「ちょっと違うかな。喜多見先生の方が危ういですね」と指摘する。鈴木自身、喜多見のキャラクターを理解するうえで幼少期のトラウマに触れると「彼がなぜこうまでして危ういところに飛び込んで人を助けるのか……を考えたとき、そこには強い動機がないといけない。その部分を作り上げていくうえで、僕はいい人であればあるほど、負の部分をどこかに持たせておく必要があると思っていて。その意味で、喜多見先生というのは結構危うい部分がある人なんだなという捉え方をしていました」と役へのアプローチ方法を語る。
コロナ禍でスタートした本作。鈴木は“一人の死者も出さない”という物語のテーマが「当時の情勢と合っているのか、受け入れてもらえるのか」と不安を抱えるなかでの撮影だったという。それでも、多くの視聴者、医療従事者から励ましの言葉をもらったことで「自分にとって特別な作品になった」という。さらに、厳しい環境のなか、スタッフ・キャストが一丸となって作り上げたことに「ずっと大事にしたい作品であり仲間たち」と感謝を述べた。
だからこそ、過酷な撮影でも「誰よりも自分が一番辛くないといけない」と自身を鼓舞する鈴木。「僕は幸運なことに、辛いことも楽しいと思ってしまうタイプなので」と笑う鈴木の懐の深さと、大きな度量に多くが魅了されるのだろう。(取材・文・撮影:磯部正和)
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