青年期の岸辺露伴役、長尾謙杜「笑顔が苦手だった」デビュー直後
俳優としても躍進ぶりを見せている、なにわ男子の長尾謙杜。荒木飛呂彦の人気コミック「ジョジョの奇妙な冒険」に登場する漫画家・岸辺露伴を主人公にした読切作品を映画化した『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』(5月26日公開)では、青年期の露伴役に抜てきされ、また新たな魅力を開花させている。漫画家デビュー間もない露伴の姿も描かれる本作にちなみ、長尾が自身のデビュー直後の悩みを振り返りながら、「憧れでもあり、尊敬する存在」という露伴から受けた刺激を明かした。
「ジョジョ」ファンだからこその不安と恐れ
本作は、2020年末より高橋一生主演で実写化され、3期にわたって放送されたドラマ「岸辺露伴は動かない」の制作チームが再集結し、ルーヴル美術館のバンド・デシネプロジェクトのために荒木が描き下ろした作品「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」を映画化。相手を本にして生い立ちや秘密を読み、指示を書き込むこともできる特殊能力“ヘブンズ・ドアー”を備えた漫画家・岸辺露伴(高橋)が、「この世で最も黒く、邪悪な絵」の謎を追ってフランス・ルーヴル美術館を訪れ、そこで恐ろしい出来事に遭遇していく。青年時代のエピソードも重要な本作で、若き日の露伴を長尾が演じている。
「絵のタッチや色使いも好きですし、衣装、そして独特なキャラクターも大好き。ストーリーの面白さはもちろん、日本のカルチャーとしてアニメや漫画が盛り上がっていく中でも、一味違う魅力があるなと思っていました」と、もともと「ジョジョ」の大ファンだったという長尾。
本作のオファーが舞い込み、「漫画の実写化作品に出演することは目標の一つでもありました。それが好きな作品だったということは、とてもうれしく、光栄なこと」と喜んだが、大好きな漫画の人気キャラクターを演じることには「不安や恐れもあり、葛藤しながら頑張りました」とプレッシャーも大きかった様子。「最初は、『自分が岸辺露伴を演じるなんて』と信じられない気持ちでしたが、監督とお会いして、衣装合わせや脚本の読み合わせをさせていただくなかで実感が湧いてきました」とじわじわと実感を手にしながら、渡辺一貴監督と綿密に相談を重ねることで、不安を乗り越えていったと振り返る。
これまで演じた役と正反対!新境地への充実感
漫画家・岸辺露伴は作品におけるリアリティーに並々ならぬこだわりをもち、取材のために山をまるごと買ってしまうほど。本作ではそんな露伴の初恋が明かされるところも大きな見どころだが、長尾は「露伴が登場する(ジョジョの奇妙な冒険の)第4部のアニメや漫画を見返したり、今回の原作となる読切漫画のコマをたどっていきました」と原作へ敬意を表しながら役づくりに臨んだ。
絶賛されたドラマシリーズに続いて現在の露伴を高橋一生が演じているが、高橋の演技を意識することはあったのだろうか? 長尾は「台本を読んだ段階では、一生さんを意識したほうがいいのかなと思っていたんですが、監督と初めてお会いしたときに、『一生さんのお芝居を意識しないでほしい』とアドバイスをもらいました。『一生さんのお芝居を意識しようとしなくても、きっとしてしまうと思う。だからこそ、なるべく意識しないでほしい』とおっしゃっていました」と回想。「キャラクターの個性が強い分、難しい部分もありました。僕はこれまで、いじめられっ子や気の弱い役を演じることが多くて。その癖が出てしまった部分もあったのか、監督からは『もっと堂々としてほしい』と演出を受けることもありました。これまで演じてきたものとは正反対のような役を演じられたという意味でも、とてもいい経験になりましたし、今後にもつながっていくと思っています」と新境地への充実感を語る。
「これまでいろいろな作品に出させていただいて、たどり着いた場所」という本作で得た経験は、かけがえのないものになったと続けた長尾。俳優として作品を重ねる中では、ものづくりに対する向き合い方にも変化が生まれてきたという。
「松本潤さんと共演させていただいた『となりのチカラ』(2022)というドラマでは、(脚本の)遊川和彦さんとご一緒させていただきました。当時、遊川さんが『自分の意見をもっと言っていくといいよ』とお話してくださったことが、とても心に残っていて。『Aという君の意見と、Bという僕の意見があったとしたら、それらが混ざり合ってCが生まれるのが、一番理想的』だと。それからは監督さんともたくさん話し合いをするようになって、その経験を今回も注ぎ込もうと一生懸命に頑張りました。これからも皆さんと話し合いを重ねながら、いい作品をつくっていきたいなと思っています」
自分に自信がある露伴に憧れ
長尾は、2021年11月になにわ男子として、シングル「初心LOVE」でCDデビューを果たした。本作で長尾が演じる漫画家デビュー間もない露伴は「女の子をかわいく描けない」という悩みを抱えているが、長尾自身もデビュー当時に悩みがあった。
「笑顔が苦手で。よく『長尾、笑え』って言われていましたね。写真を撮っていても『顔が硬いよ』とか、『笑っていないし、首が一つの方向しか向いていないから怖いよ』と言われることもありました。自分としてはめちゃめちゃ頑張っていたつもりなんですけどね」と笑いながら、「それも経験を重ねていくうちに克服できてきたかなと思っています」と吐露。また露伴には“ヘブンズ・ドアー”という人の心や記憶を本にして読むことができる特殊能力があるが、自身にとっての武器や能力だと感じているものについては、「明るさ。あとはクリエイティブなことが好きなところ」と分析する。
「グループの衣装を作ったり、絵を描くこと、写真を撮ることも好き」という長尾だけに、リアリティーを突き詰めながら創作と向き合っている露伴から刺激をもらうことも多かったという。「露伴はフットワークが軽いし、どれだけ人気が出ようと必ず現場に足を運んで、物事の本質を見て漫画を描いています。創作に対して、怠けることがないですよね。また『自分に自信があるからこそ、露伴は輝いているんだな』と感じることもあります。自分を信じて、しっかりと自分を持っているからこそ、『だが断る』というセリフも言えるんだと思います。そういった露伴は、僕にとって憧れでもあり、とても尊敬しています」と語る。
放送中のTBSドラマ「王様に捧ぐ薬指」では、橋本環奈演じるヒロイン・綾華の弟である陸を好演。大河ドラマ初出演となる「どうする家康」では、松本潤演じる徳川家康の異父弟・久松源三郎勝俊を演じ、俳優としても飛躍している。ドラマや映画が次々と舞い込んでいることに長尾は「自分でもびっくりしています」と目を輝かせながら、「個人での活動も、グループの成長につながっていけばいいなと思っています」と希望。「嘘のない俳優になっていきたいなと思っています。そのときに出た気持ちを大切に、嘘なく演じていきたい。撮影にも、その瞬間を生き生きと、楽しみながら臨んでいきたいです。そのためにも“少年らしさ”や好奇心も大事にしながら、露伴先生のようにフットワーク軽く生きていけたらいいなと思っています」と展望を語っていた。(取材・文:成田おり枝)