岸辺露伴の相棒・泉京香は生命力の象徴!人物デザイン監修・柘植伊佐夫が明かす衣裳秘話
荒木飛呂彦の「ジョジョの奇妙な冒険」、スピンオフ「岸辺露伴は動かない」に登場する天才漫画家・岸辺露伴を主人公にしたドラマシリーズに続き、フルカラーの読切作品を実写映画化する『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』(公開中)。ドラマで高橋一生演じる露伴に劣らぬ人気を見せたのが、飯豊まりえ演じる露伴の編集担当者・泉京香。とりわけ、オリジナルの衣裳が大きな反響を読んだが、ドラマに続いて人物デザイン監修を務めた柘植伊佐夫がドラマから映画までの裏側を明かした。
京香は露伴を“補完”する存在
相手を本にして生い立ちや秘密を読み、指示を書き込むこともできる特殊能力“ヘブンズ・ドアー”を備えた岸辺露伴。2020年から2022年の年末に3期にわたって計8エピソードが放送されたドラマ版では、高橋一生演じる露伴が、担当編集者・泉京香を相棒に、複雑怪奇な事件を解き明かしていくさまが描かれた。ドラマ1期の時点では、京香は漫画「岸辺露伴は動かない」の「富豪村」に登場するのみだった。露伴に比べて手掛かりの少ない衣裳をどのように構築していったのか。
「京香に限らず、デザインを作る前にまずご本人に会います。それは別に衣裳合わせということではなくて、単に面談をするのみです。プロデューサーや監督を交えていろいろなお話をする。それでその日は終了なんですよね。そこで飯豊さんの雰囲気から“こういうデザインがいいんじゃないかな”とご本人からインスパイアされる。それと、もちろん原作も指針になっています。漫画の京香にはちょっとゴスっぽいところもあるし、バロックな雰囲気もあるし、スポーティーな部分もあるし、いろいろな要素が混ざっていると思うんですよね。ただ、飯豊さんご本人の雰囲気を見て、原作のままとも違うかなと。言葉にすると軽々しいんですが、誰もがひと目で可愛いと思えるような、ひと目で共感できるものにしたいとは思いましたね」
具体的にデザインを立ち上げるにあたって、柘植が感じたのが「どこか死の匂いがする露伴に対して、京香は生の部分を補完する存在である」ということ。
「ドラマ1期に関してはパステルカラーにしたいと思いました。例えば「D.N.A」は、生命にまつわる話。そこに登場した母子を象徴する色もパステルカラーでした。だからというわけではないんだけど、京香が生命力を表す存在と考え、かわいいって思えたり、色があるって思えたりするような。それは強烈な色ではなくて、ふわっとした包み込むような色がいいなということをまず思いました」
京香の機能性ゼロのバッグ
ドラマでは神経質な露伴と、能天気な京香との掛け合いが人気を博したが、衣裳にも京香の性格や特徴が見て取れる。その一つが、編集者らしからぬ小さなバッグだ。ドラマ3期では露伴から「何が入っているんだ?」と突っ込まれる場面もあった。
「機能から言えば、何の役にも立たないですよね(笑)。京香の存在は、矛盾を示しているようにも思うんですね。彼女を存在させておくことによって、ドラマの矛盾した世界観を正当化することもできる。つまり、編集者なのにバッグが小さいっていうことが成立するのであれば、露伴が乙雅三(市川猿之助)と背中合わせでくっつきあって歩くことだって“あり得る”わけで。京香のバッグが象徴しているのは、ドラマのリアリティーラインだと思うんですよね」
黒革のワンピは飯豊まりえの発案でバックジップに!
映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』ではドラマの製作チームが再集結し、国内外の漫画家が参加するルーヴル美術館のバンド・デシネプロジェクトの描き下ろし作品として2009年に発表された「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」を映画化。原作には登場していない京香だが、本作でもまた露伴の相棒となり、「この世で最も黒く、邪悪な絵」の謎を追ってフランス・ルーヴル美術館を訪れる。本作では「黒い絵」を巡る物語とあって、京香の衣裳はドラマよりも抑えた色で設計。パリの街並みになじむよう、黒、キャメル、紫などが使用されている。なかでも、デザイン画で「パンキッシュ」「パンクシック」と記された超ミニの黒ワンピースは、飯豊のアイデアにより大胆な着こなしとなった。
「黒革のワンピースは、デザイン上ではフロントジップだったんですよ。でも衣裳合わせの時に飯豊さんが後ろ前に着てくれて、バックジップになったんです。デザイン上、全身真っ黒けでプレゼン材料が何もないと思っていたので、フロントジップにしていたんだけど、飯豊さんの案は絶対可愛いと思いました」
映画には、新キャラクターとして若かりし露伴を魅了した謎めいた女性・奈々瀬が登場する。露伴に「黒い絵」の存在を教え、少なからずの影響を与えたファムファタール的なキャラクターを木村文乃が妖艶に演じているが、原作では赤や黄色など明るい色だったのに対し、映画では黒を基調としている。
「最初は白にしようかなとも思ったんですけど、結局黒になりましたね。やはりお話に引っ張られたっていうのはあるんじゃないでしょうか。初めのアイデアから黒に統一しようと考えたわけではありませんが、進めていきながら白が入り込む余地はなしという感じでした。それに木村さんご本人の雰囲気からも、到底、原色や明るい色にしたいと思わなかったんですよね。シースルー素材は合っているなと思ったんですけど、素材が力強く出てくるような方向ではないなと。理由は分からないけど、ご本人の雰囲気とこの作品の持っている本質的なテーマをふまえてのことでしょうか」
柘植が手掛けた京香の衣裳は、ファッション雑誌「Oggi」の専属モデルも務める飯豊の抜群のスタイルが映えるもので、『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』の黒革のワンピースはその最たる例。キャラクターを、俳優を、作品を大胆かつ繊細に彩る衣裳の数々は、繰り返し観たくなるこだわりが見て取れる。(編集部・石井百合子)