今夜放送!金ロー『もののけ姫』改めてその魅力に迫る
スタジオジブリの名作アニメーション映画『もののけ姫』(1997)が、「金曜ロードショー」(日本テレビ系)で本日21日よる9時より放送される。放送を前に、この映画の魅力に改めて迫りたい。
『もののけ姫』は、日本の歴代邦洋映画の記録を塗り替える興行収入193億円という大ヒットを当時記録した、壮大な時代劇ファンタジーである。『紅の豚』(1992)以降、宮崎駿監督(宮崎の「崎」は「たつさき」)は『耳をすませば』(1995)の製作プロデューサー、脚本、絵コンテを担当。また1982年から「月刊アニメージュ」で連載が始まった漫画『風の谷のナウシカ』を1994年に完結させ、1995年から本格的に『もののけ姫』の準備に取り掛かった。その間にCHAGE and ASKAのプロモーションフィルムとして作られた短編『On Your Mark CHAGE & ASKA』を監督したが、長編映画は5年ぶりで、観客には“宮崎駿ロス”の飢餓感があって、興行的なヒットにつながった部分も大きい。
またこの映画は、冒険活劇『天空の城ラピュタ』(1986)、少女の旅立ちと成長を描く『魔女の宅急便』(1989)、大人のロマン『紅の豚』といった、物語を単純にくくれるファンタジーではない。室町時代の日本を舞台にしながら神々が宿る大自然と、自然を破壊して生きる人間との対立を描き、『風の谷のナウシカ』(1984)の人間と自然との共生というテーマをさらに深化させた、宮崎監督が“攻め”の姿勢で作った意欲作だった。
主人公のアシタカはタタリ神の呪いを受けて、その呪いを解く方法を探すため、西へと向かう旅に出る。見方を変えれば彼は、呪いを受けて故郷の里を追われた少年。その彼が出会うのは、山犬のモロに育てられ、大自然の側に立って人間を憎む少女サンである。彼女は人間であることにジレンマを抱え、自然と同化できない自分を“醜い”と感じている。この自分を取り巻く世界から疎外された二人のアンチ・ヒーローが、自然と人間が完全にわかり合えないまでも、共に生きてく道を探す様が描かれる。『風の谷のナウシカ』のナウシカが自然と人間の悪しき状況を改善する道を探る、未来へ希望を持ったヒロインだったとすれば、アシタカとサンは今ある状況を受け入れて、先が茨の道であっても共生する決意をする。二人は公開時のキャッチコピー「生きろ。」を体現した、困難が待ち構える日々と切実に向き合って生きることを選ぶ主人公で、彼らの心情が地球環境の先行きに不安を覚え始めた人々の心に響いたことが、作品の成功につながった。
主人公二人と触れ合うキャラクターも多彩で山犬モロに美輪明宏、タタラ集団を率いる人間側のリーダー・エボシ御前に田中裕子、人間に無謀な戦いを挑む猪神・乙事主に森繁久彌、不老不死の力があるシシ神の首をつけ狙うジコ坊に小林薫と声の出演者も超豪華。カウンター・テナーの米良美一が歌う主題歌もヒットした。またシシ神の変形描写などジブリ作品で初めてCGを使い、デジタル技術の導入がさらに豊かな表現を可能にしている。
新作『君たちはどう生きるか』(2023)で、人間がどう生きるかを、今また作品で問いかける宮崎監督。作品が描く時代背景は違っても、監督が常に目を向けるのは現代と人間との関係。そのぶれない製作姿勢が作品の娯楽性と一体になった『もののけ姫』の面白さを、今回の放送で再認識してほしい。(文・金澤誠)