イッキ気見続出!「御手洗家、炎上する」何がそんなに面白い?
7月13日から一挙8話の配信がはじまった「御手洗家、炎上する」の人気が止まらない。初週に週間グローバルTOP10(非英語シリーズ)で第4位を獲得、翌週にはランクを上げて世界ランキング2位を記録しており、以降も「観始めると止まらない!」「面白すぎる」とSNSでどんどん評判を上げている。強烈なキャラクターと俳優陣の熱演、そしてミステリー要素たっぷりの壮大な復しゅう劇で、観たら夢中になること必至。その面白さのポイントをご紹介したい。
物語は、大病院を経営する裕福な御手洗家が全焼したところから始まる。原因を作ったとされた母・皐月は父・治と離婚、杏子(あんず)と妹の柚子(ゆず)の3人は家を出た。13年後、杏子は偽名を使って家事代行業として御手洗家に入り込む。迎えたのは、治の後妻でセレブ妻として脚光を浴びている真希子。杏子は、彼女がすべてを企んだ真犯人だと信じ、復しゅうに燃えていた。
キャラクターの濃さとキャストの熱演
まず注目は、主人公・杏子の強さといじらしさ。事件のショックで記憶喪失となった皐月(吉瀬美智子)と、学生である柚子(恒松祐里)を守るために必死な彼女を、連ドラ「ユニコーンに乗って」や映画『マイ・ブロークン・マリコ』などの永野芽郁が熱演している。真希子の尻尾をつかもうと画策する芯のある強い目線と、ときどきブチ切れる激しさは印象深い。家事代行として働く際のエプロン姿のキュートさもひそかな注目ポイントだ。
真希子を演じる鈴木京香の弾けっぶりも見事。貧しいシングルマザーだったがママ友として皐月と知り合い、嫉妬心と憧れと執着心をむきだしにする真希子。治を篭絡して後妻の地位を獲得、セレブなインフルエンサーとして成り上がっていく強欲な彼女を、鈴木がさすがの大迫力で怪演している。傍若無人な真希子だが、その中に孤独と哀しみがにじむのは、ベテラン女優ゆえの深みだ。
そんな2人の真正面からの演技対決は見ごたえたっぷり。しょっぱなから、指で家具のホコリを確認する意地悪な姑のような執拗さを見せる真希子と、完璧に掃除をこなした自信と抑えた怒りがにじむ杏子の対比には背筋が凍る。演技巧者同士ゆえに、ハラハラドキドキの高揚感と緊張感は半端ない。
「エンドクレジットを見ても誰だかわからなかった」と話題なのは工藤阿須加だ。真希子の長男・希一(きいち)を演じるが、ボサボサの長髪にうっすら髭も生えた姿で、ドラマ「教場」などで見せたさわやかぶりを封印しており、荒々しさ満点なところも新鮮。唐揚げを機に徐々に杏子に心を開いていく姿は可愛らしくもあった。弟・信二にふんした中川大志の、どこか残念なイケメンぶりも楽しい。
さらに、真希子に懐柔されて杏子たちと13年間連絡も取らなかった事なかれ主義の治は、「キング・オブ・クズ」「ダメすぎる」「へなちょこ!」とSNSでも大きな話題だが、それを見事に演じたのは及川光博。存在感のなさとダメっぷりを芝居で表現するのはなかなかの難作業だが、エリートから情けない役まで何にでもはまる及川の変幻自在さがうまくマッチしたといえるだろう。
ミステリーとしての面白さ
13年前の火災は皐月の不注意のせいではないと信じる杏子は、真相を暴くために奔走する。ネットを駆使する友人のクレア(北乃きい)の協力のもと、皐月や真希子の過去のブログを探し当てたり、関係者に会いに行ったり。柚子の無鉄砲さが事態を進展させることもあるが、それゆえに治のダメさや真希子の策士ぶりが協調されたりもする。
また、15年前から御手洗病院に勤めている看護師長の市原は、濱田マリの怪しさ全開の演技とあいまって、敵か味方かなかなか判明しない。彼女の行動は物語のキーにもなっている。信二と親しい女子大生・七海(小西桜子)も、キュートなだけではない一面が。一筋縄ではないかないキャラクターたちがそれぞれの思惑で動くので、事態がどう転がっていくか先が見えない。
火災現場から逃げて行った人物が着ていたニットをめぐる情報も、二転三転する。皐月の物だったがゆえに彼女が火災原因とされたが、皐月にあこがれてその持ち物を頻繁に盗んでいた真希子が着ていた可能性もあり、さらに現在の真希子のクローゼットにそれらしきものの影が。証拠となる防犯カメラの映像の入手にも一波乱があり、最後に明かされた事実には驚がくしかない。
刑事ドラマかミステリー小説のように、新たな証拠とそれを覆す事実が次々と提示される。復しゅうサスペンスという古典的ともいえる物語が、ネットを駆使して捜索するクレアや、真希子のSNSでの自己アピール、引きこもりや経済的困窮などの現代的な味付けで、スピード感が増して新鮮さがアップ。刻々と変化していく状況から目が離せなくなるのは当然だろう。
ファミリードラマの愛
ここまでの情報では、憎しみ、疑いあう人物たちの殺伐とした復しゅう劇のようにも思えるかもしれない。だが、実はキャラクターたちの根底にあるのは「愛」だ。杏子が真犯人を探すのも、真希子が憎いからだけではなく、心身ともに傷ついている皐月の心の重荷をおろしてあげたい一心から。柚子を危険な目に合わせないよう、当初は彼女を巻き込まなかった。
真希子の息子たちへの愛は歪んでいるようにも見える。家に引きこもり続ける希一について、対外的には商社マンとして海外赴任中と嘘をつき、ドア越しに「お母さん、ずーっとそばにいるからねぇ」と怪しい笑みを浮かべる姿は、恐怖以外の何物でもない。だが、それにも真相につながる裏があった。
まだ皐月が御手洗家にいたころの幼い子どもたち同士の、ほのかな心の交流がのちのちに響いてきたり、繰り返し映し出される当時の真希子と希一の会話が伏線になっていたりもする。原作である藤沢もやしの人気コミックの面白さをうまく生かした、物語構成の妙も見事だ。
御手洗家の文字通りの炎上が、杏子の心に復しゅうの炎を燃やし、真希子に虚栄の衣を着せた。さらにSNSの炎上で真希子が窮地に立たされ、やがてその炎が真実をあぶりだす。観た者の心にも火をつける抜群に魅力的な物語に、没入してみてはいかがだろうか?(文・早川あゆみ)
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