『マイ・エレメント』火と水をキャラクターにした方法!「ゼリーや接着剤みたいに見えたりも」
ディズニー&ピクサー映画『マイ・エレメント』のピーター・ソーン監督、キャラクター・スーパーバイザーのジェレミー・タルボットとジュニ・リンらがピクサー・アニメーション・スタジオで取材に応じ、火や水といったエレメント(元素)をどうキャラクター化したのかについて語った。
火、水、土、風のエレメントたちが暮らすエレメント・シティを舞台に、火の女の子エンバーと水の青年ウェイドという正反対の二人の恋を描いた本作。アニメーターが使うツールの開発を担当したタルボットは、ソーン監督がエレメントたちを“エレメントそのもの”として描き、普通のキャラクターのようには動かしたくないという高い志を持っていたことが大きな挑戦になったと振り返る。
「これらのキャラクターには、肘も、足首も、手首もありません。しっかりした構造がなく、体が常に変化しています。そういったキャラクターが自然に見えるだけでなく、実際に僕たちが動かすことができるようにしなければならない点が、非常に難しかったです」(タルボット)
そこでタルボットたちがやったのが、キャラクターの腕や脚にいくつものテクノロジーの層を重ねることだった。「たとえば火のキャラクターは小さくなったり、広がったり、消えたり、濃くなったりもするので、そうした自然な『火』の動きをやらせるためのたくさんの層を重ねています。エンバーは気性が激しいキャラクターなので、僕たちは、アニメーターがその時々の感情を表現するために体のいかなる部分でも変えられるようにしました。そうすることで、アニメーターたちはとてもユニークなことをやることができるようになりました」(タルボット)
中でもリンが担当したのは、素材を正しく描写することだ。火は火のように、水は水のように動くようにしなくてはならない。「通常のキャラクターには髪や肌といったものがありますが、この映画では違います。『火』には表面がありません。僕たちはそんなデジタルのパペットを作るわけです。火は常に動いていて、その動きは物理に基づいていながら、アニメーターがキャラクターにやらせたいことをやれるようにする必要もあります。『水』に関しても同じです。水は反射しますし、屈折もします。僕たちは、顔をつけられるようなキャラクターで、しかも水のように動くものを考えなければなりませんでした。それは技術面でも芸術面でも、とても難しかったです。“形のないもの同士をぶつけ合う”というのは今回初めて挑戦したことで、物理の原理をベースにシミュレーションをして、キャラクターを作っていきました」(リン)
ソーン監督は数々のチャレンジをした本作の中でも、水の青年ウェイドの表現が最も難しかったものの一つだと語る。「初めてウェイドが水の中から出て来て泣く時、彼の肌が水の一部のように見えるようにしないといけなかったのですが、そうすることはとても難しかったです。照明を彼にどう当てるかというのも、非常に難しくて。水は反射するし屈折性があるので、ディテールの何か一つが失われると、彼は突如としてゼリーみたいに見えてしまうのです。別のディテールが欠けると接着剤みたいになるし、また別のものが欠けるとインクみたいになったり……。彼は最も難しいキャラクターの一人でした」
火の女の子エンバーのデザインに関しては、3年ほどかけて「これ!」というものにたどり着いたというソーン監督。「一番重視したのは、火を通じて彼女の感情を表現することでした。初期のデッサンで僕は、『火』と『水』がお互いに触れることが可能なのかを考察してみました。触る前の段階で『火』の腕はちょっと溶けてしまいます。それを見た時、ここには人間の感情があると思いました。気になる人と一緒にいて恋に落ちようとしている時、人間の場合は鳥肌が立ったりしますが、それと同じことが起きたのだと。そこが重要でした。また、彼女が怒る時、炎は爆発します。こんなふうに、火で感情をどう表現するのかを重視したんです」と明かしていた。エレメントならではのビジュアルからキャラクターの感情をありありと伝えるアニメーション表現は絶品で、感動的なストーリーを一層胸打つものにしている。(編集部・市川遥)
映画『マイ・エレメント』は公開中