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ベネチア銀獅子賞の濱口竜介監督、黒澤明監督との比較「申し訳ないような気持ち」

第80回ベネチア国際映画祭

ベネチアから凱旋帰国した濱口竜介監督&大美賀均
ベネチアから凱旋帰国した濱口竜介監督&大美賀均

 映画『悪は存在しない』(2024年GW公開予定)で第80回ベネチア国際映画祭の銀獅子賞(審査員大賞)を獲得した濱口竜介監督が12日、日本外国特派員協会で行われた報告記者会見に主演の大美賀均と出席。「何もないところから始まった企画を認めていただき、自分としては地道にやっていきなさいという風に、背中を押されたような気持ちでいます」と喜びを明かし、巨匠・黒澤明監督との比較について考えを述べた。

【画像】ベネチアで銀獅子賞!『悪は存在しない』場面写真

 濱口監督は、2021年に『偶然と想像』で第71回ベルリン国際映画祭の銀熊賞(審査員グランプリ)、同年『ドライブ・マイ・カー』で第74回カンヌ国際映画祭の脚本賞および、米アカデミー賞の国際長編映画賞を獲得。日本人監督で世界三大映画祭とアカデミー賞を獲得したのは、黒澤監督以来の快挙となる。

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 『悪は存在しない』は、『ドライブ・マイ・カー』で音楽を手がけた音楽家・石橋英子と濱口監督による共同企画。石橋が濱口監督にライブパフォーマンス用の映像制作を依頼し、その過程で濱口監督が脚本を書き下ろしたことから本作が完成した。大勢の記者が集まる会場に登場した濱口監督はまず、石橋からの感謝の思いが込められた手紙を朗読した。

 「この度はすばらしい賞をいただいて、驚きと喜びでいっぱいです」という出だしから始まった手紙は、濱口監督とのコラボレーションがかけがえのない宝物のような時間だったこと、監督をはじめスタッフへの感謝への思いが込められていた。

 手紙を読み終えた濱口監督は「何もないところから始まった企画を認めていただき、自分としては地道にやっていきなさいという風に、背中を押されたような気持ちでいます」と切り出すと、「このメッセージの中で、一番感謝されていないのが石橋さん。石橋さんからの発案ということもありますし、何よりも石橋さんの音楽、もしくは石橋さんが続けてきた音楽活動が導き手になった。今まで体験したことがないような映画づくりができたと思っております」とコメント。改めて、主演の大美賀や、スタッフ、撮影に協力した地域の人たち、エキストラなどの関係者に感謝の思いを述べ、「この映画を見つけて、評価してくださったベネチア映画祭の皆さんにも感謝したいと思います」と付け加えた。

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映画『悪は存在しない』より - (c) 2023 NEOPA / Fictive

 『ドライブ・マイ・カー』の後は「しばらく休みたい」と公言していた濱口監督だが、意外にもすぐに新作に取り組むこととなり、今回の受賞となった。そのことに触れられると、「確かに『ドライブ・マイ・カー』の後は半年くらい休んでいました。自分としては、この作品をつくるのは休むこととそれほど変わらなかった。単にアウトプットをするだけでなく、映画をつくりながらもインプットする作業が必要だったわけですが、『悪は存在しない』は結果的にそういう作業だったということ」と説明。「次のプロジェクトも準備はしていますが、十分にインプットができる形でできたらいいなと思っております」と続けた。

 黒澤監督以来の快挙達成に「評価というのは周りがすること。その気持ちは今でも変わりません」と前置きした濱口監督は、「黒澤監督という偉大な監督を引き合いに出してもらえるような状況になったわけですが、申し訳ないような気持ちというのが正直な気持ち」と告白。「なぜなら、内容が違うということ。『羅生門』がベネチア映画祭金獅子賞、『隠し砦の三悪人』がベルリン映画祭銀熊賞で、『影武者』がカンヌ映画祭のパルムドール。しかも『七人の侍』もベネチア映画祭の銀獅子賞と4つの賞を取られていて、さらにそのうちの2つは最高賞であるということで、そこはスケールがまったく違うという気がします」とその思いを説明する。

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 さらに、黒澤監督が30年近くにわたり海外映画祭で評価を受けたということについて「それはつまり、長きにわたってどれだけ黒澤監督が質の高い仕事を続けてこられたかということです。自分が本当にこれからどうなるんだろうと震えているところもあるので、長く評価される必要はなくても、長く映画をつくり続ける必要があるなと思っています」と決意を新たにした。

 「原点を見つめ直す」という意味で、濱口監督が学んだ東京芸術大学大学院映像研究科について語る一幕も。「そこでは黒沢清教授の下で学びました。われわれの世代というのは、黒澤明監督、小津安二郎監督、溝口健二監督らがいたような、日本映画の黄金時代からは遠く隔たったところにあると思います。大学院映像研究科を設立した堀越謙三さんが、小さな撮影所を作り直すんだという気持ちで立ち上げた教育機関です。監督だけでなく、脚本・プロデュース・撮影・編集・美術・録音とあります。今回でも、撮影の北川喜雄さんや編集の山崎梓さんなどは、大学院で一緒に実習をしていた人たち。堀越さんや黒沢さんがやろうとしたことは、多少は実を結んでいるところがあるかなと思います」

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 大手映画会社とは違ったインディペンデント映画やミニシアター文化を、どうやって日本の商業映画に合流させるかという試みが行われたという濱口監督は、「成功したのかはわかりませんが、一つ言えるのは1950年代に比べても、われわれの制作規模というのは明らかに小さいということ。結果として、黒澤明監督のような、観たら誰もが説得されるような圧倒的な映像はつくれない。少なくともわたしはつくることができないというのが正直な気持ちです」と吐露。だが、それでも世界から評価されるということについて「こういう評価をいただいているのは、そういう人々を圧倒するようなタイプの映画ではなく、映画にはこういう可能性があるのかもしれない。オルタナティブな映画の作り方みたいなものに、映画祭なり、審査員の方は、そこにかけるような気持ちで評価をいただいているのかもしれません」と振り返った。

 海外の映画人とのコラボレーションは「興味があります」と切り出した濱口監督。「ただこればっかりは、この人についていけば大丈夫と、信頼し合える人と出会えるかがすべて。それが海外の人であれば、その人と一緒にやるということは十分にあると思います。ただそういう人に出会うのはなかなか簡単ではないかもしれません」と語っていた。(取材・文:壬生智裕)

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