中華圏アカデミー賞で日本映画異例のノミネート!監督賞は日本人初
中華圏のアカデミー賞こと第60回金馬奨のノミネートが3日に発表され、大塚竜治と中国出身の妻・ホアン・ジーが共同監督を務めた日本映画『石門』が作品賞・監督賞・脚本賞・編集賞の4部門にノミネートされた。日本作品がノミネートされるのは異例で、さらに監督賞に日本人がノミネートされるのは初の快挙となる。
金馬奨は1962年に創設され、中国語映画の発展と促進を目的に毎年11月に台湾で授賞式が行われている。ノミネートの対象となるのはセリフの半分以上が中国語かつ、スタッフの半分以上が華人であること。これまで、エドワード・ヤン監督『クー嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』(1991)、アン・リー監督『グリーン・デスティニー』(2000)、アンドリュー・ラウ監督『インファナル・アフェア』(2002)など数々の名作が最優秀作品賞に輝いてきた。
今年も作品賞には、第96回米アカデミー賞国際長編映画部門台湾代表にも選ばれ、台湾で大ヒットした『僕と幽霊が家族になった件』や、東京国際映画祭2023ワールド・フォーカス部門で上映されるローレンス・カン監督『自白の下』ら力作がぞろい。その中で日本の製作会社による『石門』は異色だが、中国で撮影され、ほぼ中国人スタッフと出演者による中国語映画だ。
2人は『卵と石』(2012)、『ザ・フーリッシュ・バード(英題) / The Foolish Bird』(2017)と中国ではタブー視されている女性の性をテーマに作品を撮り続けており、『石門』はその第3弾。予期せぬ妊娠によって人生の壁にぶち当たる女性の苦悩を赤裸々に描いている。物語のベースとなっているのはいずれもホアン・ジー監督の実体験で、ロケ地に長期間滞在し、街の人やその時起こった出来事も取り込みながら撮影するのが2人のスタイル。さらに3部作はいずれもヤオ・ホングイが主演しており、一人の少女の成長をも作品に刻み込んでいる。
残念ながら『石門』の日本での公開は未定だが、昨年のヴェネチア国際映画祭ヴェニス・デイズ部門でのワールド・プレミアを皮切りに、東京フィルメックス映画祭、カナダ・トロント国際映画祭など名だたる国際映画祭に選ばれている。また今春の香港国際映画祭では中国新人監督部門で最優秀作品賞と国際映画批評家連盟賞をダブル受賞し、さらにヤオ・ホングイと、脇役出演して良い味を出してしまったホアン・ジーの母親が最優秀女優賞を獲得して、両監督をも驚かせた。
今回のノミネートについて大塚監督は「60年の歴史がある金馬奨で初の日本人の監督賞ノミネートと聞いて驚いています。今回のノミネートは共同監督の妻のホアン・ジーとの出会いがなければ実現しませんでした。日本から来た僕を快く受け入れてくれた仲間とホアン・ジーの家族に感謝をしたいと思います。これからも新しい人々との出会いを大切にし、アジア映画の可能性を探りながら映画創作に励んでいきたいと思います」と喜びを語った。
また今年は歌曲賞に、ミュージシャンの片山涼太がマレーシア映画『富都青年(原題)』で提供した曲「一路以來」がノミネートされている。過去には、第51回で台湾映画『KANO ~1931海の向こうの甲子園~』(2014)の永瀬正敏が日本人として初めて主演男優賞にノミネートされ、第55回では中国映画『邪不圧正(原題)』(2018)で谷垣健治が最優秀アクション監督賞を受賞している。第60回の授賞式は11月25日に台北市の国父記念館で行われ、審査委員長をアン・リー監督が務める。(取材・文:中山治美)