庵野秀明「ウルトラマンタロウ」の面白さ力説 特撮のセンスも「シリーズでピカイチ」
庵野秀明が7日、TOHOシネマズ池袋で行われた、庵野セレクションによる「ウルトラマンタロウ」上映&トークイベントに登壇し、タロウ愛あふれるトークを繰り広げた。
【画像】庵野秀明が選んだ傑作エピソード!「円谷映画祭2023」上映作品
本上映会は、円谷プロダクションの創立60周年を記念して、同社の代表作を上映する「円谷映画祭2023」Part2内のプログラムとして開催。50周年となる「ウルトラマンタロウ」全53話の中から庵野自らがセレクトした、4つのエピソード(第1話「ウルトラの母は太陽のように」、第18話「ゾフィが死んだ!タロウも死んだ!」、第33話「ウルトラの国 大爆発5秒前」、第34話「ウルトラ6兄弟最後の日」)が上映された。
1960年生まれの庵野は放送当時、13歳の中学1年生。「この間、セブンの時(11月17日に開催された「ウルトラセブン」上映&トークイベント)に、『押井(守)さんが中学生になってもセブンを観ていた』といじりましたけど、50年前は、中学生にもなって子ども番組を観ているのは、ダメ扱いだったんですよ。友だちもどんどん番組から卒業していって、たぶんクラスで『タロウ』を観てたのは僕だけだったと思うんですよね。中1でしたけど、世界観が中学生には正直つらいんですよ。それでもウルトラ兄弟が出てくるところだけでも観ようと思って。でも、やっぱり面白いんですよね」と語る庵野の思い出に、会場は笑顔に包まれる。
そこで司会者が「調べたところ、押井監督は1951年生まれ。庵野さんより9歳年上なので、『セブン』を観ていた当時は高校生だったのでは?」と指摘すると、パッと顔を輝かせた庵野は「高校ですか。それはダメですね! 高校生でも観れる作品といえば聞こえはいいですけど、そりゃ押井さんがおかしいですね」とうれしそうにツッコんでみせて、さらに会場を沸かせた。
円谷プロ創立10周年記念番組として制作された「ウルトラマンタロウ」は、“子ども向けの特撮作品”という題目で語られることも多いといい、実際に子どもたちから人気を集めていた。一方、庵野が同作の本当の良さに目覚めたのは大学生の時だったといい「大人になって、この良さがようやくわかりました。この面白さに目覚めるのはある程度、年をとらないとダメでしたね」と語る。
「第1期ウルトラシリーズ」(『ウルトラQ』『ウルトラマン』『ウルトラセブン』)と比べて、「第2期ウルトラシリーズ」(『帰ってきたウルトラマン』『ウルトラマンA』『ウルトラマンタロウ』『ウルトラマンレオ』)には低い評価を下す特撮ファンも存在し、冷遇されてきたと言われている。庵野も「『タロウ』って僕くらいの歳の人には敬遠されていて。第2期も、『帰ってきたウルトラマン』は許してやるくらいの感覚。『A』以降はダメだという人が僕のまわりでもけっこういる。それは今でもいるんです」とコメント。
「この良さがわからないなんてかわいそうだなと思うしかないけど……。本当にいいんですけどね……なかなか伝わらなくて」と無念そうに語る庵野だが、「子どもの時に否定したらもうダメなんですかね。その後、改心すればいいんですけど。ここにいる人は改心した人か、最初からオッケーだった人だと思うんです」と会場の観客に親近感を抱いている様子だった。
さらに、ウルトラシリーズを継続させた功績として「一番最初にウルトラマンを発明したというのもあるけど、『帰ってきたウルトラマン』で、『マン』から3作目にしてもうリメイクという発明があって。このシリーズをもう一回やるというのが。ウルトラシリーズを今でも作り続けられている原動力だと思うんです。次の発明がウルトラ兄弟。『帰ってきたウルトラマン』で初代とセブンが客演していましたけど、それで今までの世界がつながった。それをさらに推し進めたのが『A』だったけど、その上位互換として、ウルトラの世界を完璧に作ったのが『タロウ』」と指摘する庵野。「アメリカが遅れてやったユニバース化を50年くらい前にやったのが円谷のすごいところですね。リメイクをやって、ユニバースを作るということをやって、それがうまくいっているのが円谷プロのすばらしさ。今でもウルトラマンが続いていて、人気も続いてるのはすごいこと。さすがだと思います」と感心した様子を見せた。
また、子ども向けの特撮ドラマを、大人の視点からしっかりと作っていることに感銘を受けたという庵野は「『タロウ』の特撮は本当によくできています。『タロウ』はセンスがシリーズでピカイチ。技術的なところでは『ウルトラマン80』がよくできている。昭和のウルトラマンはこの2本がすごい特撮だと思います」と指摘。
そして庵野は「実は最初は(庵野セレクション上映会は)『セブン』だけと言われてたんですけど、50周年だし『タロウ』も入れてくださいということで『タロウ』も無理して入れてもらったんですよ。本当は『A』も『レオ』もと思ったけど、とりあえず今回は『タロウ』を。それくらい、第2期ウルトラシリーズは冷遇されています。『タロウ』や『レオ』や『A』も『80』も、『ティガ』以降もいい話はあるので、これからもウルトラマンシリーズを見続けていただければと思っております」と会場に呼びかけた。(取材・文:壬生智裕)
「円谷映画祭2023」は12月14日まで全国劇場で開催中