末期がんの映画宣伝P・叶井俊太郎、冠映画祭に登場 巨匠・小松左京を巻き込んだ破天荒エピソード披露
昨年6月に膵臓がんで余命半年と宣告されたことを公表している、映画宣伝プロデューサーの叶井俊太郎氏が16日、ヒューマントラストシネマ渋谷で開催中の「第1回東京国際叶井俊太郎映画祭」内プログラム『日本以外全部沈没』上映後に行われたトークショーに出席、パロディー作品ながらSF界の巨匠・小松左京を巻き込むという破天荒な本作の宣伝エピソードを語った。この日の聞き手は映画評論家の江戸木純氏が務めた。
1990年代前半から約30年にわたり映画宣伝を手掛け、空前のヒット作の一方で、壮絶な大コケ作品も手掛けるなど、その両軸にわたって映画業界に存在感を打ち出してきた叶井氏。そのおきて破りで破天荒なエピソードの数々は映画ファンの語り草となってきた。昨年6月に膵臓がんで余命半年と宣告されたことを明かした叶井氏だが、それから1年半近くたった現在、文化人たちとの“余命半年”論を収めた対談集「エンドロール! 末期がんになった叶井俊太郎と、文化人15人の“余命半年”論」(サイゾー)が発売。本人も新作映画のためにパワフルに駆け巡る日々を送っている。
「末期がん患者はこんなことしてる場合じゃないんだけどね。でも今日と明日で計4回トークショーがあるんで、頑張りますよ。これで悪化して死んでもそれはしょうがないかな。本望ですよ」と語る叶井氏。現在公開中のプロデュース作品『恐解釈 桃太郎』のエンドクレジットには「叶井俊太郎に捧ぐ」という文言が織り込まれていたというが、「あれは俺、死ぬと思って夏の段階で入れていたんですよ。気付いた人はツッコむね。まだ生きてるじゃんってね!」と笑い飛ばしていた。
この日上映された『日本以外全部沈没』(2006年9月2日公開)は、作家・筒井康隆の同名原作を『いかレスラー』の河崎実監督が大胆なセンスで映像化している。もともと本作は、草なぎ剛主演の映画『日本沈没』(2006年7月15日公開)と同時期の公開を目指していたというが、「それは怒られちゃったんでできなかったんですが。でも(同作配給の)東宝にはいろんな話をしていまして。お互いのチケットを提示すると、割引を受けられるということができないかと言ったんですけど『叶井さん、それうちにメリットはありません』と言われて……でも東宝の人も一応、話だけは聞いてくれましたね」と述懐。
また、公開当時のパンフレットを手にした叶井氏は、そこに本作の元ネタである『日本沈没』の原作者・小松左京がコメントを寄せるというおきて破りの内容に「この映画のパンフに小松左京の原稿が載るなんて貴重ですよ。なんでか覚えてないんだけど、これはすごいね」とまるでひとごとのように自画自賛。そんな中、この日の会場には本作のメガホンをとった河崎監督も来場しており、急きょトークショーに合流する。
「この人は常識を超えている人だから。だって俺の映画を配給、宣伝してくれる人なんていないわけですから」と叶井氏に全幅の信頼を寄せている様子の河崎監督。「命をこんな軽く考えている人はいないですよ。僕がゾフィーだったら、一個命をあげたい。まだまだバカなことをさせてほしいよ」と語るも、叶井氏は「いやいや、いなくなっちゃいますから」とその返答もどこか達観した様子だった。
そしてあらためて「小松左京に連絡したのはあんただよ」と証言した河崎監督が、「『日本以外全部沈没』に出てくれとお願いしたら、なんで本家に出ないで、パロディーに出るんですかと怒られたんだから。俺ら、ずっと怒られてばかりだったね」と笑うと、叶井氏も「そっか。怒られたね! でも、ということは(出演はダメでも)原稿だけは書いていいよとなったということだよね。すごいね」と笑いながら付け加えた。
そしてあらためて「今後の抱負は?」と質問された叶井氏だが、「抱負なんかないよ。いつ死ぬかわからないから」と返答。「ただ、作りたい映画の話はいろいろ来ていますよ。死ぬから早めにやってくれって。『桃太郎』の次の昔話とかは来てますよ。監督がどんどん企画を持ってくるから」と語る叶井氏の鋭いまなざしは、まだまだエネルギッシュに駆け抜け続けることを予感させた。(取材・文:壬生智裕)
「第1回東京国際叶井俊太郎映画祭」はヒューマントラストシネマ渋谷で12月17日まで開催中