実写『ゴールデンカムイ』全てはカムイのため…ガチファン監督、北海道ロケにこだわり製作陣を説得
野田サトルの人気漫画を山崎賢人(※崎は正式には「たつさき」)主演で実写化した映画『ゴールデンカムイ』(1月19日全国公開)でメガホンを取った久保茂昭監督が、“ガチファン”を自称するヒット漫画の実写化に込めたこだわりを明かした。
明治時代末期の北海道を舞台に、“不死身の杉元”の異名を持つ日露戦争の英雄・杉元佐一(山崎賢人)とアイヌの少女アシリパ(※リは小文字・山田杏奈)が、莫大なアイヌの埋蔵金をめぐる争奪戦に挑む本作。原作コミックは、北海道の大自然、アイヌ文化、歴史的な要素を巧みに取り入れた独自の世界観と、クセの強い個性的なキャラクターが織り成す群像劇で圧倒的な支持を集め、テレビアニメ版も大ヒット。久保監督も大ファンだったと告白する。
「漫画はもちろん、アニメ版も大好きでした。声優さんがすごくマッチしていて、フィギュアなんかも集めて、それこそ何万円もつぎ込んだくらい(笑)。ガチファンですね」
「ただ、自分が実写版を監督するとは想像もしていなかったです。ロケーションも設定もあまりに壮大で、個性的なキャラがとてつもなく出てくる。この物語を実写化できる人なんているのだろうかと、他人事のように考えていました。監督の最終候補に残った時点で連絡をもらった時も『もしかしたら、野田先生がちょっとでも俺の名前を知ってくれたかもしれない』っていうぐらいで満足していたんです」
自腹で取材の旅
いざ監督に就任すると、徹底したリサーチが始まった。「北海道、アイヌ、明治時代という3つの要素がこの作品の重要なキーワード。それを実際に肌で感じないと駄目だと思い、自腹で取材の旅に出ました。野田先生がインタビューやブログなどで紹介されていた取材先は全部行きましたね。『のぼりべつクマ牧場』をはじめ『ウポポイ(民族共生象徴空間)』『北海道開拓の村』『博物館 網走監獄』とか。さすがに樺太は無理でしたが、流氷まで見に行きました。それくらい、いてもたってもいられなかったんです」
原作にも登場するロケーションを目にしたことで「希望が見えてきた」という久保監督だったが、北海道の大自然に行く手を阻まれる。「北海道の雪山を回った時には絶望しました。バスや車では途中までしか入れないんですが、とにかくまともに歩けない。200メートルくらいの距離を行って帰ってくるだけで2、3時間かかったりするし、撮影するためには、圧雪といって周りの雪を固めないと演技どころじゃなくなる。普通の映画の4倍は時間がかかるようなイメージですね。そうした状況をどうやって打破するのか。スタッフみんなと話し合ったり、雪山の撮影を勉強したりしながら、少しずつ、手探りで進めました」
リスクを承知でこだわった北海道ロケ
撮影期間やコストを考慮すると、北海道での撮影にはリスクが伴う。しかし、北海道特有の景色も『ゴールデンカムイ』の重要な要素。さらに久保監督を突き動かしたのが、タイトルにも冠されている「カムイ」の存在だった。
「『ゴールデンカムイ』はアイヌの物語でもあって、劇中では、身の回りの役に立つもの、力の及ばないもの全てにカムイ(神)がいると言っていますよね。例えばコタン(アイヌの集落)を作って撮るというのなら、僕らもそのカムイを感じなければならないと考えていました。精神論のようですが、美術監督の磯見俊裕さんも同じ思いを持って臨んでくれました。一部のアクションシーンなどは新潟県や長野県で見つけた、素晴らしい景色のなかで撮影していますが、製作チームには、できるだけ北海道で撮らせてほしいとお願いしたんです」
実際に、アシリパが住むコタンは、アイヌ文化が色濃く残る二風谷に作られ、チセ(アイヌの家)の建設にも、当時のアイヌ民族と同じ手法が取られた。「釘は使用せずに、柱などはブドウヅルなどで縛って固定していく。コスト的な問題から、本州で撮れないかと相談されたこともあったのですが、北海道はエゾマツをはじめ、生えている植物からして違うので、どうしてもそこでやる必要があったんです」
「アイヌの方々が力強く生きている姿も『ゴールデンカムイ』の魅力の一つ。僕らもそうした姿を映像で表現するために、現地の方々に衣装から小道具、村づくりまで全て相談して、作り方を教えてもらいました。二風谷のコタンも、スタジオに建てたセットも、全て監修の方に来てもらい、チェックしていただいています」という久保監督。「きっと原作ファンの皆さんは、そうしたディテールも楽しみにされていると思うんです。スタッフ皆も原作をリスペクトして、そこまでこだわってるということはお伝えしておきたいですね」
美しい日本の男たちを描きたい
本作に限らず、熱狂的な支持を集めた『HiGH&LOW』シリーズなど、邦画の枠にとらわれないエンターテインメント作品を数多く手がけてきた久保監督。実写化を実現した『ゴールデンカムイ』を経て、新たな企画への思いも明かしていた。
「せっかくこうして、明治時代を撮らせてもらったこともありますし、今は剣客もの。今までにないアプローチで新撰組を描いたり、傾奇者たちの物語といった、“美しい日本の男たち”を描くような時代劇を撮ってみたいですね。それもまた、一つの日本文化だと思いますし、そうしたアプローチの作品を撮れるのは自分だけじゃないかな……ぐらいの感じで思っているので(笑)」(編集部・入倉功一)