実写『ゴールデンカムイ』アイヌ料理どう再現 キャストもハマった食事シーンの裏側
野田サトルの人気漫画を山崎賢人(※崎は正式には「たつさき」)主演で実写化した映画『ゴールデンカムイ』。日露戦争の英雄・杉元佐一(山崎)とアイヌの少女・アシリパ(※リは小文字・山田杏奈)が莫大なアイヌの埋蔵金をめぐって壮大な冒険を繰り広げる物語は、野生味あふれる料理も魅力のひとつ。原作ファンからも愛されるメニューの数々は、実写版でいかにして再現されたのか。フードコーディネーターのはらゆうこが裏側を語った。(以下、映画の内容に触れています)
明治時代末期の北海道を舞台に、歴戦の勇士や脱獄囚が入り乱れる、金塊争奪戦を描いた本作。アイヌ文化や北海道の歴史・伝統を巧みに取り入れた独自の世界観を支える大きな要素の一つが、登場人物たちが口にする料理だ。
狩猟で得た自然の恵みを、アイヌの伝統的な手法で調理する。フードコーディネーターとして、数々の映画やドラマの食事を彩ってきたはらにとっても、その過程の多くが初めての経験。「リアルな家庭料理であったり、SF作品などで現実にない未来の食事を用意してほしいといった依頼をいただくことはありますが、“現実に存在はしているけれど、現代のものではない”料理を再現するのは、かなり難しかったです」と振り返る。
「お話をいただいた時点では、私もアイヌ料理について詳しい知識があるわけではなかったので、アイヌ民族料理研究家の三神直美さんに監修をいただき、たくさんの事を教えていただきました。食材についても、私の方で入手が難しい薬草などは三神さんが手作りで乾燥させたものを用意してくれたり、本当に助けていただきました」
アイヌ料理を魅せる工夫
映画には、エゾリスやカワウソを調理したチタタプ(「プ」は小文字が正式名称・細かく刻んで食べる調理法)やオハウ(汁物)が登場するが、食材の選定から一苦労。はらは「リスやカワウソといった食材については、狩猟をしている知人や北海道でジビエを販売されている方などにあたったのですが、難しいと。法律などの関係もあってなかなか本物を用意するわけにもいかないので、早い段階で代用の食材を用意することが決まっていました」と明かす。
「野生のジビエのお肉というのは、一般的にイメージされているよりも、もっと赤黒く見えるんです。そこでベースとして、主に鹿肉を混ぜています。あとは俳優の皆さんが食べやすい白っぽいお肉……クセのない鶏肉などを混ぜてミンチにしたりして、工夫を重ねました」
チタタプの場面では、アシリパの大叔父を演じ、本作のアイヌ語・文化監修も務めた秋辺デボが、刃の角度や食材をたたく速度などを細やかに指導。その手法にもこだわるなか、はらが最も気を使ったのが料理の見た目だった。
「助監督の皆さんと原作を確認しながら、どのくらい見た目に相違がないか、いったん私の方でなるべく原作に近い形で再現するようにしていましたが、原作だと料理の色まではわからないんです。みんなで一緒に、実際のリスの肉の感じなどを確認しながら、それに合わせて手に入る食材で試作を重ねました」
そして、もうひとつの懸念が「美味しく食べられるのか」という点。「どうしてもジビエが苦手という方はいらっしゃいますし、特に今回は、アイヌ料理の伝統にそった調理法で、味付けはなるべく塩だけという基本を外さずにいたので、ダイレクトに野生味がする。原作では登場人物がみんな美味しそうに料理を食べている姿が印象的でしたし、久保(茂昭)監督や松橋(真三)プロデューサーからも、食事のシーンを大事にしたいというお話をいただいていたので、美味しく食べていただけるか、心配していた点でした」と明かす。
そんなはらにとって、キャスト・スタッフのアイヌ文化へのリスペクトは大きな助けになった。「皆さんがアイヌ料理にすごく関心をもってくれていて。三神先生から、薬草の匂いが苦手な方がいたら三つ葉を使ってもいいのではとアドバイスをいただいて用意もしていたのですが、皆さん本当に美味しいと言いながら、食べてもらえました。特にアシリパ役の山田さんには、この作品をきっかけにジビエに目覚めたと言っていただけたので安心しましたね」
ちなみに劇中では、杉元が原作で口にする“カワウソの頭”も登場するが、はらは「さすがに本物ではないです」と苦笑。「野生の食材って、衛生面で色んなことに気をつけなくてはいけない部分もあるので、実際に俳優さんが口にするのは難しい。そこは造形部の皆さんが制作してくださったものを使っています」
フードコーディネーターとして
人間の生活の大切な一部であり、映画のリアリティーを演出するうえでも大切な「食」の存在。はらは「いつも心がけているのは、作品を観た方に、私たちが作っていると思わせてはいけないということ。本当に登場人物が作った料理なんだと思っていただけるようにすることです。演出として違和感がなく、登場人物になじんでくれていると、よかったなと思うしやりがいを感じます」と語る。
「そのためには、そのキャラクターがどんな環境で暮らしていて、料理経験はどのくらいあるのか。そうしたことを把握する必要がある。それによって用意する料理もぜんぜん変わってくるので、どの作品でもそこについては監督とすり合わせをしていただいています」
そんなはらにとって『ゴールデンカムイ』の撮影は刺激的な経験になったようだ。「原作を真似するだけではなく、登場人物がリアルに存在していて、どういう生活をしているのか。演出的なことも含めて久保監督やスタッフの皆さんも一緒に考えている。監督や役者さんだけではなく、衣装さんや造形部さん、助監督さん、メイクさん、美術さん、監修の方も含めて、全員からすごい熱気を感じました。そんななかでついていけるか不安もあったのですが、皆さんがとにかくいろんなアイデアを出してくださって、食事シーンの撮影では、久保監督も『納得するまでやろう』とこだわっていた。私にとっても、考え方を変えられるような、思い入れの強い作品になりました」
ファンの力が助けに
ちなみに、オファーを受けて初めて原作を読み込んだというはら。そして実感したのが、『ゴールデンカムイ』を心から愛するファンの存在だった。「本当に面白い漫画で、私もどんどん好きになっていったのですが、同時に、たくさんのファンがいることも実感しました。料理についても、大好きな方がたくさんいらっしゃるので、美味しそうに表現できるのか心配で、今までのお仕事で一番プレッシャーを感じたと言っても過言ではないかもしれません」
だが、そんな重圧を助けてくれたのもまた、ファンの存在。「食材の切り方がわからなかったり、原作では見づらい部分をどう再現するか悩んでいる時に、ファンの方々が再現された料理をネットで見て参考にしたこともあって、結果的にファンの皆さんに助けていただいた部分もあるので、楽しんでもらえたら嬉しいです」と語った。
ちなみに、はらが少しだけ心残りのシーンが、杉元が「ニシンそば」をすする場面。「ニシンそばは私が作ったものなのですが、かなり寒い時期のお話なのでけっこう湯気がたってないといけない。けれど、ロケセットで撮影しているとそうもいかなくて。湯気が出ているように工夫をしたんですけど、映画だと(編集の都合もあり)杉元が食べちゃってるシーンからはじまるんですよね。原作に近い出来だったと自負していたので、そこは少し残念だったかもしれないですね(笑)」(編集部・入倉功一)