石原さとみ主演『ミッシング』が描く報道の闇…タイトルはスターサンズの名プロデューサー・河村光庸の発案
現在公開中の石原さとみ主演の映画『ミッシング』。石原演じる、失踪した幼い娘を懸命に探し続ける母親を主人公にした本作には、映画『新聞記者』(2019)、『月』(2023)など多くの社会派作品を手掛けてきた映画製作会社スターサンズが深くかかわっている。本作はスターサンズと吉田恵輔監督(※吉は「つちよし」)が3度目のタッグを組んだ作品であり、両者が挑んだテーマは“報道”。その制作背景には強い信念と意図が込められている。
石原さとみ、衝撃の変貌!中村倫也らと『ミッシング』メイキング写真
スターサンズは、『新聞記者』では報道メディアの権力との対峙を描き、『MOTHER マザー』(2020)と『月』(2023)では実際の事件に着想を得るなど現代社会に一石を投じる作品を送り出し、映画業界に新たな視点と議論を提供し続けている。吉田監督とのタッグは『愛しのアイリーン』(2018)から。同作では国際結婚の闇を、続く『空白』(2021)では不寛容と他者への想像力の欠如といった社会の歪みを鋭く描き出した。
続く『ミッシング』では失踪事件をテーマにした本作の脚本を読んだスターサンズの亡き名プロデューサー・河村光庸が、失踪事件に関わる登場人物たちを取材するマスコミの存在をより膨らませることを提案。吉田監督もまた『空白』で描ききれなかった報道の現場をより深く掘り下げたいと考え、テレビ局を軸にした物語が形作られていった。事件を“ネタ”として扱い、数字を稼ぐ報道を迫られ仕掛けるマスメディア。その報道に振り回され無意識のうちにバイアスをかけてしまう世間。報道フロアの壁に貼りだされる、赤文字で書かれた視聴率の結果など、数字のプレッシャーがあらわになっているシーンも。
そんなメディア側の人間として登場するのが、中村倫也演じる地元テレビ局の記者・砂田。劇中では砂田が視聴率獲得のために世間の関心を煽るような取材を上層部から求められ苦悩するさまが描かれるが、砂田は視聴率至上主義に対抗し、事件の本質に迫るジャーナリズムの在り方を問いかける役割を担っている。
スターサンズと吉田監督は、報道メディアの視聴率至上主義や偏向報道への疑念を描きつつ、その背景にある現実の複雑さにも目を向けている。吉田監督はテレビ局のリサーチを深める中で「プレッシャーや締め切りに追われたりしてミスしてしまうことはある。ミスではなくても、視聴者に違う見方をされて、『捏造』と言われる可能性もある」「最初から、悪いことをしてやろうとして、仕事をしている人はいない。もし、(映画を観ている)わたしたちが同じ環境に置かれたとしたら、同じ選択をしてしまう可能性はないのか?」とも語っている。
なお、タイトルの『ミッシング』は、河村光庸の発案によるもの。当初は『空白』からの流れを組み、漢字2文字で検討していたが、河村の提案で『ミッシング』に決定。タイトルが示す通り、映画は失踪事件を通じて、現代社会における報道の在り方や、メディアと社会の関係を深く掘り下げている。(石川友里恵)