『Ultraman: Rising』ILM日本人アニメーターの奮闘 手足が長いウルトラマンをカッコよく見せる秘訣
円谷プロダクションとNetflixがタッグを組み、人気特撮「ウルトラマン」を新たなストーリーで長編アニメーション化した映画『Ultraman: Rising』。CGアニメーションを制作したのは、『スター・ウォーズ』シリーズなど数多くのVFX大作映画を手がけるインダストリアル・ライト&マジック(ILM)だ。本作に参加した日本人アニメーターの藤原淳雄&島田竜幸がリモートインタビューに応じ、ウルトラマンをCGアニメーションで映像化する上でのこだわりや制作秘話を語った。(取材・文:編集部・倉本拓弥)
野球界のスター選手サトウ・ケン(声:山田裕貴)は、ウルトラマンとして怪獣の攻撃から地球を守っていた。ある日、ケンは「宿敵」の子である赤ちゃん怪獣・エミの世話を任されるという予想外の事態に陥る。エミの新米パパとして奮闘しながら、 疎遠になっていた父親との関係や、ウルトラマンであることの本当の意味と向き合うことになる。
カナダ在住の藤原と島田は、アカデミー賞長編アニメ映画賞を受賞した『スパイダーマン:スパイダーバース』や実写映画『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』の製作に参加。共にウルトラマンシリーズを観て育ち、特に島田は、ウルトラマンのグッズを集めるほどのマニアで、幼少期はウルトラマンタロウに憧れを抱いていたという。
ILMで「ウルトラマンを学ぼうの会」を実施
Q:『Ultraman: Rising』における役割、担当パートを教えてください。
藤原淳雄(以降、藤原):僕はアニメーターというポジションで、基本的にはキャラクターを動かす仕事です。すでにモデルとなる人形がコンピュータの中に入っていて、その人形を動かしてアニメーションを制作していきます。ILMにはアニメーションチームが大きく3つありまして、シークエンス(場面)ごとにわかれています。僕たちが担当したのは、ネロンガが登場する秋葉原のシークエンス、そば屋、クライマックスのバトルなどです。
島田竜幸(以降、島田):僕も淳雄さんと同じくアニメーターとして、アクションシーンや人間が会話している部分など、カメラを動かしながらキャラクターに魂を吹き込む作業を担当しました。
Q:ウルトラマンをアニメーションで表現するにあたり、「ウルトラマン」実写作品を映像資料として、ILM社内で共有することはありましたか?
藤原:はい、ありました。「ウルトラマン」を全く観たことがない人も制作に参加していたので、「ウルトラマンってこういうものだ」と勉強する意味で、資料がまとめられていました。また、Netflixの方が日本の文化をレクチャーする会が何度かありまして、その一環として、みんなで「ウルトラマン」を観ていました。
Q:「ウルトラマン」を初めて観たアニメーターたちの反応はいかがでしたか?
島田:「こんなにカッコいいヒーローがいるんだ!」と楽しんでいました。ウルトラマンを学ぶ会はものすごく面白くて、「ウルトラQ」「ウルトラマン」「ウルトラセブン」から特撮を学んだり、円谷プロダクションの歴史を専門家が1時間かけて語ってくれました。
Q:シャノン・ティンドル監督&ジョン・アオシマ共同監督は「ウルトラマン」シリーズに造詣が深いと聞いております。制作過程の中で、監督たちのウルトラマン愛が垣間見えた瞬間はありましたか?
藤原:変身カットを担当した時、過去の実写作品を観て忠実にポーズを再現しようとしていたところ、ジョン監督が自ら初代ウルトラマンの構えを取ってくれて、それを写真に収めて「このポーズにして!」と送ってくれたんです。ポーズに対するこだわりをすごく感じました。“ぐんぐんカット”(変身シーンで巨大化する際に入るカット)も担当できたので、とても嬉しかったです。
島田:ミーティング以外でもウルトラセブンの話をしていて、ウルトラマンに対する愛情が垣間見れたりしました。アニメーション制作はリファレンス(参考画像)をベースに作業することがあるのですが、ウルトラマンと検索すると、膨大な数の画像がヒットするので、監督サイドから「このウルトラマンだよ」という指示もありました。
また、劇中登場する街の看板はもちろん、サトウ教授が乗る車もマットビハイクルですし、サングラスもどこかウルトラアイに似ていたり、細かなネタも理解した上で盛り込んでいます。ただ小ネタを散りばめるのではなく、日本を丁寧に描写しながら入れているので、ウルトラマンや日本に対して、リスペクトを持って制作してくれていることが感じられました。
手足が長いウルトラマン「長所かつネックになる部分」
Q:お二人が担当した秋葉原でのウルトラマンvsネロンガ戦についてお伺いします。ウルトラマンやネロンガの動きで、こだわったことはありますか?
藤原:ネロンガの咆哮から回転してボール状に変わる部分を担当したのですが、実は日本で仕事をしていた時に『ゴジラ FINAL WARS』(2004)でアンギラスがジャンプしてボール状に変形する同じようなCGカットを制作していたんです。『Ultraman: Rising』でネロンガのシークエンスが上がってきた時に「これをやりたい!」と思っていたので、『ゴジラ FINAL WARS』と同じような経験を20年越しにできて楽しかったです。
島田:秋葉原のシークエンスでは、ウルトラマンが走ってからジャンプして、スローで夜空を飛び、ネロンガを殴り、ネロンガが吹っ飛ぶまでの一連の動きを担当しました。淳雄さんが先にウルトラマンに変身するところを担当していて、それをミーティングで見た時に少しうらやましくて(笑)、僕の表情を見たスーパーバイザーから「次のシークエンスでやりたいところを担当していいぞ」と言われました。そこで、「是非ここをやらせてほしい」とスーパーバイザーに頼み、秋葉原の部分を担当させてもらったという流れです。ウルトラマンが大きくジャンプして、拳が画面に近づいていくシークエンスは、漫画やアニメっぽい表現ができると思ったので、「僕のヒーローアカデミア」「ワンパンマン」のような雰囲気を参考に、日本のアニメっぽさを盛り込んでいます。
Q:実写の「ウルトラマン」作品に見られる重量感あるバトルは、アニメーションでどのように再現していったのでしょうか?
藤原:CG表現の強みとして、ジャンプした時にポーズをカッコよくできる一方で、基本的にはコンピュータ上で重力は発生しないので、その重みは自分たちでポーズを付けて表現しなければなりません。物理表現を上手く視覚化する部分は、過去にVFXの仕事をしていたり、他のアニメーションを担当した経験があったので、そこで培ったスキルを生かして、実写に寄せていく感じで制作しています。
Q:スタイリッシュなウルトラマンをアニメーションで動かすにあたって、気をつけた部分や苦労した点はありますか?
藤原:ポーズとかアングルによってはカッコ悪く見えてしまう部分があるので、できるだけそういうポーズにしない工夫を凝らしています。Netflixさんからビジュアルのイメージ画像をたくさんいただいたり、他の作品を実際に観て、ウルトラマンのかっこいいポーズを研究して採用しました。
島田:手足が長いことが長所かつネックになる部分でもあったので、地に足をつけて、腰が浮いてフワフワしないようにということは意識しました。腰の部分がしっかり入っていると、手足が長いシルエットでもカッコいい動きになるので、そこは気を付けて制作しています。また、僕たちがアニメーションを作った後に造形を整える部門がありまして、そこで造形を整えたものが最終イメージに変わります。監督が1フレームずつ全て確認していくプロセスを取っています。
20年近いキャリア史上ベストな仕事
Q:(藤原さんへ)ケンがウルトラマンに変身するシーンは、動きがとても滑らかな印象を受けました。変身シーンのアニメーションで意識していたことはありますか?
藤原:オリジナルのウルトラマンに寄せて制作しています。『シン・ウルトラマン』なども観たりして参考にしていったのですが、最終的に「全体がスムーズになるように」という指定がありました。技術面では、スケールを合わせていったり、カメラを調整したり、試行錯誤を繰り返した覚えがあります。かなり工夫を凝らしたシークエンスなので、シームレスで上手くできた変身だと思います。
Q:『Ultraman: Rising』におけるアニメーション制作の手応え、アニメーターとしての収穫はありますか?
島田:制作期間中はいつも楽しくて、次のモチベーションにもつながりました。そば屋のシーンも、チームに参加してからあまり時間が経ってなかったのですが、自分なりのケンを表現してみたら、「すごくケンに似ている」と監督たちが言ってくれて、自信にもなりました。日本人として参加できたこともすごく嬉しかったですし、アニメーター同士がリスペクトし合う相乗効果で、すごくいいチームで作業ができました。
藤原:20年近いキャリアの中で、ベストな仕事だったと思っています。アニメーション映画からしばらく離れていた時期で、『Ultraman: Rising』が久々のアニメーション映画だったんです。しばらくVFXを中心に仕事をしていたので、その経験があったからこそ、アニメーションにその技術を取り入れて工夫することができました。アニメーション映画の技術も上がっていたので、そういう意味では、自分自身の成長にもつながりました。
Netflix映画『Ultraman: Rising』世界独占配信中